『劇場版 稲川怪談 かたりべ』

新宿ピカデリー、スクリーン6入口の案内板。

監督&発掘:大畑創 / プロデューサー:清水崇、松橋祥司 / 制作プロデューサー:後藤剛 / 撮影:ふじもと光明 / 照明:榊原亮太 / 録音:稲見勝 / 主題歌:宇宙は11次元で出来ている(でんぱ組.inc×妄想キャリブレーション)『Stand〜ここにいるよ〜』 / 出演:稲川淳二妄想キャリブレーション(胡桃沢まひる、神堂未祐奈、桜野羽咲、双葉苗、星野にぁ)、関口崇則、森本のぶ、須田浩章、三輪江一、尾本貴史 / 制作プロダクション:日本ケーブルテレビジョン、シャイカー / 共同配給:ローソンHMVエンタテイメント×松竹メディア事業部

2014年日本作品 / 上映時間:1時間19分

2014年9月20日日本公開

公式サイト : http://inagawa-kaidan.jp/

新宿ピカデリーにて初見(2014/10/03)



[粗筋]

 稲川淳二の怪談がパチンコの素材として用いられることとなり、2013年、数本の撮影が行われた。だがそのなかで1話だけ、撮影が中断し、お蔵入りとなったエピソードが存在する。

 撮影は廃校となった小学校の校舎で行われた。自殺した女性教師にまつわる出来事を再現する、ということで、生徒と女性教師の役を、デビュー間もない妄想キャリブレーションの面々が演じることになった。

 稲川も現場に姿を現しての撮影は、だが序盤から異変が繰り返された。体調不良を訴え、夜も更けての撮影ではいるはずのない場所に人がいる、と訴える妄想キャリブレーションの少女たち。カメラにも奇妙な光や、人影が映り込む。

 だが、この怪事の連続に対して、稲川だけはやけに冷静だった。やがて撮影隊は常識を逸脱した事態に見舞われ、このエピソードはお蔵入りを余儀なくされる。

 この映画は、その際に収録された怪奇現象の数々を、大畑創監督が発掘、長編として編集したものである……。



[感想]

 インディーズながら、高い娯楽性と。異色でインパクトの強い展開が評価され、日本各地で上映された『へんげ』の大畑創監督が、恐らく初めて商業ベースで完成させた映画である――はずである、私の把握していた限りは(この間にも短篇を発表していたようだが)。そう考えるとちょっと意外な題材である。

 稲川淳二が関係した怪奇映像を発掘・再構成した――と謳っているが、そういう設定のフェイク・ドキュメンタリーだ、と断言してしまって差し支えないだろう。率直に言って、その設定を事実として貫き通すには、役者たちが全般に拙いし、現実の彼らの立ち位置とズレがある。

 本篇に似たような趣向は、白石晃士監督が『ノロイ』『シロメ』という2作品に跨がって既に実践している。『ノロイ』では実在するタレントを起用して現実とフェイクとの距離感を縮め、『シロメ』では出演するアイドル自身には一連の出来事を“現実”に感じさせることで、芝居をしてしまうが故の不自然さを根本的に排除することに成功、ホラーの文法を押し込みながらクオリティの高いアイドル映画として成立させてしまった。

 私の目に本篇は、白石監督が果たしたことを大畑監督が更に膨らませようと試みた作品のように映る。そうだとすれば、狙いは悪くないが、もうちょっと手法に工夫が必要だったのでは、と惜しまれるところである。残念だが、その目的を達成するには、本篇の“俳優”たちは演技の面で不満が多い。平素の怪談語りのトーンのまま臨んだ稲川淳二はまだしも、妄想キャリブレーションは中盤以降、事態が大袈裟になっていくにつれて、話す言葉がどんどん芝居がかってしまい、本篇の折角のドキュメンタリーに擬したカメラワークにそぐわなくなってしまった。

 だが、その点を除けば、本篇は勇気ある試みと言えるし、そのアイディア、構成の大胆さは賞賛されて然るべきだろう。

 本篇の厄介なところは、中心人物である稲川淳二というタレントを、キャラクターも彼が語る怪談の雰囲気もそのまんま作品の題材として用いている点だ。こういうやり方は決して本篇が初めてではないが、たいていは本人のキャラクター性に引っ張られて、単なる太鼓持ち的な内容か、ギャグのような代物になってしまう。だが本篇は、その個性を殺すことなく、うまく拡張して非現実的な、しかし“あのひとならあり得るかも”という展開に持ち込んでいる。撮影現場で起きた非常事態、それに対する稲川淳二の反応は、こういう仕事をしている人間なら持っていそうな“狂気”を窺わせ、恐怖を滲ませる。

 作中、怪談でもかくや、というとんでもない状況が繰り広げられるが、ホラーというよりSFめいた展開に細かな伏線や謎をちりばめ、それらを解きほぐし、或いはあえて仄めかすだけで決着させない、といった仕掛けを欠かさない、エンタテインメントとしての工夫の豊かさにも唸らされる。恐らく本篇を観た多くのひとが、映像の過剰さに「こんなことあるはずないだろー」と感じ本篇の売り方に疑問を抱くと思われるが、しかしそうして斜に構えていても、いつしか物語に飲みこまれているはずである。

 稲川淳二、という、好き嫌いはさておき、日本で最も名の知れた怪談語りを起用し、被害者そして視点人物としてアイドルを使う、という趣向に、『へんげ』などの初期作品で大畑監督に初めて触れたひとは驚き、ひとによっては失望さえ味わうかも知れない。だが、いざ観てみればその実意欲に満ちた、一筋縄でいかないエンタテインメントに仕上がっている、と理解するはずである。個人的には、強い野心と発想力を窺わせるこの監督が、いまのところ白石晃士監督ばかりが際立っているフェイク・ドキュメンタリーに臨んでくれたことが嬉しい――あの作家性からすると、フェイク・ドキュメンタリーに執心するとも思えないのだが、またこんな挑戦的な作品を不意に繰りだしてくれそうな期待を持たされる、そんな作品だった。



 ……しかし、公開からちょっと遅れて鑑賞し、体調不良や多忙にかまけてなかなか感想が仕上げられずにいるあいだに、まさかメインであるアイドル・グループのメンバーが卒業を発表する、なんて事件が起こるとまでは思っていなかった。

 奇しくも上で比較対象とした『シロメ』はももいろクローバー出演作だが、あちらも公開後にメンバーがひとり脱退している……あちらよりも展開はより性急だったが、ももクロ同じような成長が本篇の妄想キャリブレーションにも起こる前兆なのかも知れない――さすがにうがちすぎだ、とは思うが。



関連作品:

へんげ

ノロイ』/『シロメ』/『戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 史上最恐の劇場版

もうひとりいる』/『伝染歌』/『POV 〜呪われたフィルム〜』/『怪談新耳袋 異形