『羅生門』

TOHOシネマズ日本橋、スクリーン2前に掲示された案内ポスター。 羅生門 デジタル完全版 [Blu-ray]

原作:芥川龍之介 / 監督:黒澤明 / 脚本:黒澤明橋本忍 / 企画:本木荘二郎、箕浦甚吾 / 撮影:宮川一夫 / 美術:松山崇 / 編集:西田重勇 / 録音:大谷巌 / 音楽:早坂文雄 / 出演:三船敏郎森雅之京マチ子志村喬千秋実、上田吉二郎、加東大介本間文子 / 配給:大映 / 映像ソフト発売元:KADOKAWA

1950年日本作品 / 上映時間:1時間28分

1950年8月26日日本公開

2010年7月23日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

第2回新・午前十時の映画祭(2014/04/05〜2015/03/20開催)上映作品

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2014/10/03)



[粗筋]

 ときは平安時代。急の土砂降りを避けて、下人(上田吉二郎)が朽ちた羅生門に駆け込むと、そこには杣売(志村喬)と旅の法師(千秋実)の姿があった。二人は何やら難しい表情をして、思い悩んでいるらしい。下人が問うと、彼らの悩みはその日、審問が行われた、ある殺人事件に関わるものであった。

 屍体を発見したのは杣売だった。藪の中に、刺し殺された侍が横たわっており、間もなく付近にいた法師の証言もあって、盗賊の多襄丸(三船敏郎)が捕縛される。

 多襄丸は自らの犯行であることを否定しなかった。藪の中で昼寝をしていた多襄丸は、道を通りかかった侍(森雅之)とその妻(京マチ子)を見かけるなり、妻に一目惚れしたのだという。多襄丸は侍に話しかけ、油断した隙に縛り上げると、その目の前で妻を犯した。

 だが、それから侍が殺されるまでのあいだに何があったのかは、証言者によって大きく異なっていた。多襄丸自身は、彼に手込めにされた妻が、このままでひとりの男について行くわけにはいかない、対決して勝った男のほうに従う、と言い出した、という。多襄丸は見事に侍を殺したが、その合間に妻は姿を消していた。

 妻はとある寺院に身を潜めていたが、官吏により審問の場に引き出された彼女は、多襄丸が殺したのではない、という。辱めを受けた己に、夫が向ける蔑みの眼差しに耐えられず、妻は夫に短刀を差し出し、自分を殺すように訴えた。しかし、揉み合ううちに、気づけば短刀は夫の胸に刺さっていたという。

 異なる証言に困惑した官吏は、巫女(本間文子)を招くと、彼女の身に夫の霊魂を降ろして事情を語らせる。だが、その証言は多襄丸とも、妻ともまた異なるものだったのである……。



[感想]

 日本が世界に誇る巨匠・黒澤明を代表する作品ゆえ、観ていなくともこの程度は知っているかも知れないが念のために説明しておくと、本篇は芥川龍之介の小説に基づいており、同題作の要素も採り入れているが、本筋はほぼ『藪の中』という作品に基づいている。

 かくいう私自身、観ていないまでもそういう知識は持っていたが、いざ実物に接してみると、この融合がまず見事なのだ。原作の『羅生門』は映画で描かれている通りの朽ちた門であり、そこで巡り会ったひとびとの生への執着を炙り出した物語だった。映画では、そのエッセンスを留めたまま、しかし中心となる部分をそっくり、『藪の中』の物語に差し替えている。そうすることで、『羅生門』で扱われていたテーマをいっそう深化させているのだ。

 小説では霊魂を降ろして語らせるところで止まっているが、この映画においては、羅生門に集まったひとびとの口を借りて、さらに掘り下げている。この、あり得る4つ目の“証言”と“推理”が、『藪の中』で描かれる人間の身勝手さ、証言の曖昧さ、という主題をもうひとつ深めるのと同時に、タイトルに選ばれた『羅生門』の主題にも繋がっていく。

 そして、個人的に唸らされたのはその結末だ。原作『羅生門』で綴られたのとは異なる結末には一見、人間の業にまみれた物語にわずかな救いの光を差し込ませているかのように映るが、しかし見方によっては、更なる闇を覗きこむことにもなる――そのことに気づいてしまった時点で己の歪みを実感せずにいられないが、それさえも計算に含めていた、と考えると、その完成度の高さに身震いするほどだ。

 もうひとつ特筆すべきは、本篇が非常に限られた舞台と登場人物で構成されていることだ。実質、舞台は羅生門と薮、そして審問が行われる場所のみ、そして登場人物も、事件に直接関わる3人に、羅生門で対峙するひとびと、あとはほんの数名しか顔を出さない。調べてみると、羅生門のセットは瓦に至るまでこだわって組み立てられ、そこだけで相当な予算を費やしているようだが(実際、映像でもその威容に圧倒される)、構成自体は非常にシンプルだ。現代なら羅生門はCGで再現してしまえば、限られた予算で製作することも可能だろう……恐らく黒澤監督が存命だったとしても、そんな愚は犯すまいが、そのくらいコンパクトに研ぎ澄まされた内容なのである。『七人の侍』が傑作であることは議論の必要さえないが、無駄のなさ、緊密さで言えば本篇はそれをさらに上回っている。

 同じ登場人物を演じながら、語る立場によって言動が一変するキャラクターに、その都度説得力を与えた俳優陣の演技も隙がない。もはやここまで来ると、映画好きであるか否かを問わず、教養のためにもいちど観ておく価値のある作品だと思う。



関連作品:

姿三四郎』/『七人の侍』/『砂の器

ゴジラ(1954)』/『陸軍中野学校

TAJOMARU』/『椿三十郎

十二人の怒れる男』/『情婦』/『ライフ・オブ・デビッド・ゲイル』/『エミリー・ローズ』/『ダウト 〜あるカトリック学校で〜』/『それでもボクはやってない』/『ステキな金縛り