『バトルフロント』

ユナイテッド・シネマ豊洲、スクリーン11前に掲示されたポスター。

原題:“Homefront” / 原作:チャック・ローガン / 監督:ゲイリー・フレダー / 脚本:シルヴェスター・スタローン / 製作:ケヴィン・キング=テンプルトン、シルヴェスター・スタローン、ジョン・トンプソン / 製作総指揮:ジェームズ・D・スターン、ダグラス・E・ハンセン、アヴィ・ラーナー、トレヴァー・ショート、ボアズ・デヴィッドソン、レネ・ベッソン、マーク・ギル / 撮影監督:テオ・ヴァン・デ・サンデ / プロダクション・デザイナー:グレッグ・ベリー / 編集:バドレイク・マッキンリー / 衣装:ケリ・ジョーンズ / 音楽:マーク・アイシャム / 出演:ジェイソン・ステイサムジェームズ・フランコウィノナ・ライダーケイト・ボスワース、ラシェル・ルフェーブル、フランク・グリロクランシー・ブラウン、イザベラ・ヴィドヴィッチ、マーカス・ヘスター、オマー・ベンソン・ミラー、チャック・ジトー、プルイット・テイラー・ヴィンス、リンズ・エドワーズ / 配給:Showgate

2013年アメリカ作品 / 上映時間:1時間40分 / 日本語字幕:種市譲二 / PG12

2014年8月9日日本公開

公式サイト : http://battlefront.jp/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2014/08/29)



[粗筋]

 フィル・ブローカー(ジェイソン・ステイサム)はインターポール所属の潜入捜査官として、数年にわたってダニーT(チャック・ジトー)を頂点とする組織の内偵をしていた。いよいよ一斉検挙、というときになって現場は混乱、逃亡しようとしたダニーTと息子ジョジョを追跡したが、ジョジョが警官隊によって射殺されるのを止められなかった。

 インターポールを退いたブローカーは、ほどなく妻を病で失い、彼女の要望でもあった静かな暮らしを手に入れるために、ルイジアナ州に転居する。残された娘マディ(イザベラ・ヴィドヴィッチ)の存在が、いまや彼にとってはすべてだった。

 だが1年後、ブローカーは事態が決して思うように動かないことを悟る。いざというときに自分で身を守れるよう、マディには護身術を仕込んでいたが、それで彼女をからかおうとした同級生テディを伸してしまった。厄介なことに、テディの母親キャシー・ボーダイン(ケイト・ボスワース)は覚醒剤中毒であり、常日頃から学校に難癖をつけている問題人物だった。キャシーに焚きつけられて彼女の夫ジミー(マーカス・ヘスター)が威嚇してきたものの、ブローカーはあっさりと返り討ちに遭わせるが、そのためにキャシーの筋違いの苛立ちは頂点に達する。

 更にまずいのが、キャシーの兄ゲイター(ジェームズ・フランコ)である。この男は、表面的には船の整備士として真っ当に暮らしているようだが、裏では覚醒剤の製造を行っており、暴力沙汰も厭わない危険人物だった。キャシーの懇願に応じて部下をブローカーの許に送ったもののあっさりと倒され、自らブローカーの家に侵入したゲイターは、そこでブローカーがかつて潜入捜査官であったことを知る。

 実はゲイターは、恋人のシェリル・モット(ウィノナ・ライダー)を介して、ダニーTに接点があった。製造環境を整え、販路の拡大を目論んでいたゲイターは、ブローカーの存在を、ダニーTとの取引に利用しようと画策する――



[感想]

 ジェイソン・ステイサムシルヴェスター・スタローンはこれが初顔合わせではない。スタローン自身の立案によるアクション・オールスター・ムーヴィー『エクスペンダブルズ』2作で共演し、間もなく日本で公開される3作でも顔を揃えている。ただ、『ロッキー』でのブレイク以降、基本的に自分の出演作のために脚本を執筆しメガフォンを取ってきたスタローンが、他のアクション俳優のバックアップに専念した、というのがこの“共演”のミソと言える。後継者として認めた、などという見方も有り得るかもしれない。

 しかし、恐らくはステイサムが主演する、と決まった段階で、彼を想定した改稿が施されたはずだが、出来上がった作品を見る限り、これはステイサムに預けて正解だったと思う。見事に“ステイサム印”の作品に仕上がっているのである。

 彼にしては珍しく、唯一の家族を守ることを第一に考える家庭人、という肉付けがされているが、しかし他の人物像はいつもながらのステイサムだ。もともと戦闘のエキスパートであり、凡人が束になっても太刀打ちできないほどべらぼうに強い。冒頭から激しいアクションを披露し、嫌がらせや難癖をつけられる場面でも、胸のすくような一撃を見せてくれる。

 それでいて、ただの腕力バカではなく、人物に奥行きがある。他の出演作でも、似たような役柄を演じながら、ちょっとした肉付けで作品独自の味を作っているのだが、本篇においては“まず娘を第一に考える”という設定が、肉付けというだけでなく、物語の展開を促し、心情描写の深みをも齎している。噛みついてくるゴロツキのような隣人に対し、最初は実力でいなすが、娘の平和な暮らしのために形だけでも詫び、催した娘の誕生会にはその隣人も招く。我が子のためになら妥協もする、見ようによっては軟弱に映る振る舞いだが、前提があり、思慮があっての行動は充分、心根の強さをたたえている。これまでジェイソン・ステイサムが演じてきたキャラクターの延長上にあるから、説得力があり、違和感なく受け入れられる。

 本篇は、製作にもスタローンが加わっているお陰もあるのだろう、他のステイサム出演作よりも豪華なキャストが集まっているが、なかでもジェームズ・フランコの活躍が出色だ。能力的にステイサム演じるブローカー以上のものがあるようには見えない、しかし剣呑な言動で事態を掻き回すトリックスター的役割を見事に果たしている。本質的に“チンピラ”に過ぎないキャラクターだが、己の力量を深く考えないが故の怖さを巧みに演じてみせている。内容的に、賞レースの注目は集めないだろうが、本篇の魅力は彼の負うところが大きい。

 引退した捜査官に因縁のある麻薬組織、そこに地方ならではの保守的な人間関係が絡む、その構成要素ひとつひとつは決して珍しいものではない。だが、ステイサムの個性にキャラの明白な脇役たち、それにこうしたシンプルな要素をうまく絡めたため、本篇の展開は非常に予想しづらい。特に、ブローカーが用いた反撃の策が機能する際の流れは、冷静になると察しがたつくが、組み立てが絶妙なので、観ているときは意外なほど効果を発揮している。スタローンには決して上手い脚本家というイメージはないが、本篇については、アクションや設定の派手さだけでは生み出せない焦燥や虚無感を巧妙に織り込んでいる。

 一点だけ、個人的に引っかかるのは結末だ。様々な点を考慮してここに着地したのは理解出来るのだが、この作品の道筋からすれば、もっと優先すべきことがあったように思う。それを承知で敢えて観客の想像に委ねたのかも知れないが、なまじ芯を通しつつもエンタテイメントに徹していた作りを思うと、ここだけ踏み外してしまったことに少々モヤモヤした印象を禁じ得ない。あのラストシーンはステイサムらしいが、もう一歩踏み込んで、本篇ならではの新しいステイサム像を提示して締めくくって欲しかった。日本では本篇に先んじて公開された『ハミングバード』が、まさにステイサムらしさの“先”を見せていただけに惜しまれるところだ。

 しかし、従来のステイサム作品の例に漏れず、ちょっとだけ意外な要素を含めながらも、彼の作品を待ち望むファンの期待は決して外していない。後継者、は大袈裟にしても、スタローンが彼の本篇に対する適性を認めて、ステイサムに託してくれたことを素直に喜びたい。



関連作品:

サウンド・オブ・サイレンス』/『クローン』/『エクスペンダブルズ』/『エクスペンダブルズ2

デス・レース』/『バンク・ジョブ』/『キラー・エリート』/『SAFE/セイフ』/『ハミングバード

サード・パーソン』/『ブラック・スワン』/『決闘の大地で』/『ロビイストの陰謀』/『ゼロ・ダーク・サーティ』/『カウボーイ&エイリアン』/『LOOPER/ルーパー』/『魔法使いの弟子』/『ロシアン・ルーレット』/『ドライブ・アングリー3D