『目撃』

目撃(Blu-ray Disc)

原題:“Absolute Power” / 原作:デイヴィッド・バルダッチ / 監督:クリント・イーストウッド / 脚本:ウィリアム・ゴールドマン / 製作:クリント・イーストウッド、カレン・スピーゲル / 製作総指揮:トム・ルーカー / 撮影監督:ジャック・N・グリーン / 美術:ヘンリー・バムステッド / 編集:ジョエル・コックス / スタント・コーディネーター:バディ・ヴァン・ホーン / キャスティング:フィリス・ハフマン / 音楽:レニー・ニーハウス / 出演:クリント・イーストウッドジーン・ハックマンエド・ハリスローラ・リニー、スコット・グレン、デニス・ヘイスバートジュディ・デイヴィス、イー・ジー・マーシャル、メロラ・ハーディン、リチャード・ジェンキンス / マルパソ製作 / 配給:Warner Bros. / 映像ソフト発売元:Warner Home Video

1997年アメリカ作品 / 上映時間:2時間1分 / 日本語字幕:菊地浩司

1997年5月24日日本公開

2011年7月20日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

Blu-ray Discにて初見(2014/08/26)



[粗筋]

 ルーサー・ホイットニー(クリント・イーストウッド)は泥棒家業で暮らしている。慎重かつ鮮やかな手際で、30年以上司直の手を逃れ続けていた。

 その日、彼が押し入ったのはアメリカでも屈指の富豪ウォルター・サリヴァン(E・G・マーシャル)の屋敷である。ちょうどサリヴァンカリブ海にヴァカンスに出かけており、長い時間を費やした下調べで巨大な隠し金庫の構造も理解している。屋敷の警備は厳重ながら、計画は順調に運んでいた。

 だがそんな矢先、予定外の人物が現場に現れる。サリヴァン氏の若い妻クリスティ(メロラ・ハーディン)と、年輩の男であった。ルーサーはギリギリのところで隠し金庫に潜んだが、その扉はマジック・ミラーになっており、ルーサーはふたりの密会の一部始終を目撃してしまう――男がクリスティに暴力的な行為を強制し、首を絞めたことも、ナイフで叛逆されたことも、そして追って現れたふたりの人物によってクリスティが射殺されたところも。

 更に現れた女が、この惨状を前に、事態の収拾を図った。刺された男がいた痕跡を消し、クリスティが泥棒に襲われたように装って、脱出しようとしたのである。ひょんなことから本当に忍びこんでいたルーサーの存在が悟られてしまったが、ルーサーはすんでのところで逃げおおせた――大量の戦利品に加え、連中がうっかりこぼした凶器のナイフを携えて。

 ルーサーは非常に厄介な立場に追い込まれていた。証拠は握ったものの、クリスティと密会していた人物が問題だった。その人物の名はアレン・リッチモンド(ジーン・ハックマン)――時のアメリカ大統領であり、現場に踏み込みクリスティを射殺、その痕跡を揉み消した3名は大統領警護官だったのだ。

 捜査に当たったセス・フランク刑事(エド・ハリス)は屋敷に踏み込む手口の鮮やかさと、土地鑑のあることからすぐにルーサーの存在に辿り着くが、しかし首を絞められたあとに射殺される、という遺体の奇妙な状態の説明がつかず、即座に手出しできずにいた。その隙にルーサーは海外逃亡を計画するが、空港で目撃したある出来事が、彼の心を変える――



[感想]

 しばしば風変わりな作品を撮っていたクリント・イーストウッドだが、本篇を撮った1990年代ぐらいからはほぼクオリティが安定してきた感がある。久々に撮った正統派のサスペンスである本篇も、堂々たる仕上がりだ。

 実は、映画として眺めたとき、本篇にはそれほど大きな紆余曲折というものはない。多くの人物が関わってきて複雑に入り乱れる過程はあるが、大きな見せ場は序盤の“目撃”と、終盤にさしかかり、主人公ルーサーが狙われるくだりくらいのものだ。

 だがこのふたつの見せ場が圧巻なのだ。ルーサーの泥棒としての鮮やかな仕事ぶりを、わざとらしい説明もなく観客に理解させたあと、事件の一部始終が綴られる。マジックミラー越しに演じられる濡れ場と修羅場、急速に変化する事態のなかで、手に汗握る駆け引きが静かに繰り広げられる。ルーサーがどうにか逃げおおせるまで、観ているほうは息もつけないほどだ。

 そこから、捜査関係者に加え、被害者の夫である富豪の思惑も絡んでいき、続くルーサーの窮地に繋がっていく。複数の人物が、様々なかたちでルーサーを“狙う”様子を緻密に、スピーディに織りこむ一方で、ここでのルーサーの行動は泥棒としての仕事ぶりとは対照的だ。しかしそのことが、彼の信念や意思を余計強く窺わせるようになっている点がまた興味深い。

 鍵を握るのはルーサーのひとり娘ケイト(ローラ・リニー)である。犯罪者である父に反発するかのように検事となったケイトは、父から距離を置いて暮らしているが、しかしルーサー自身は常に彼女を見守り、思いやって暮らしている――或いは、彼女が気づかぬように接近し、実際に守っている。そんな我が娘に対する真摯な想いが、ルーサーを窮地に追いやり、そして彼のタフネスをも証明するのだ。

 大仰ではなく、登場人物、とりわけ殺人に絡む者たちの行動は俗っぽくさえある。それ故に、大統領が犯行の中心にいる事件にしては妙にこぢんまりとしている感がある。また終盤、決着のくだりがいささか雑然としているのも、ふたつの大きな盛り上がりと比較すると物足りなく思えるところだ。

 だが、冒頭のシチュエーションがほぼすべてであるにも拘わらずクライマックスまで観る側を逸らさない手腕は見事なものだ。また、事件の推移は俗っぽく醜い点が多いにも拘わらず、主人公の仕事に似合わない高潔さと、節度のある映像と間の組み立てで、全篇に独特の気品が漂っていることも特筆すべきところだろう。イーストウッド監督作品には実はどこかしら変態的なところがあるのだが、この辺りからそれが作風としてすっかり昇華され、やもすると意識しなくなってしまうレベルに達しつつある。

 イーストウッドの監督としてのデビュー作『恐怖のメロディ』がそもそもサスペンスであり、アクションや戦争、刑事物といった別の側面が色濃い作品を多く撮っていた彼にとっては久々の原点回帰とも言える。『恐怖のメロディ』もデビュー作とは思えない端整な出来映えだったが、比較するとその熟練振りがよく窺える。



関連作品:

恐怖のメロディ』/『タイトロープ』/『ザ・シークレット・サービス』/『真夜中のサバナ』/『ブラッド・ワーク』/『ミスティック・リバー』/『ドリームキャッチャー

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