『浮かれ三度笠』

浮かれ三度笠 [DVD]

監督:田中徳三 / 脚本:松村正温 / 企画:辻久一 / 製作:三浦信夫 / 助監督:池広一夫 / 撮影:武田千吉郎 / 美術:西岡善信 / 照明:斎藤良彰 / 録音:大谷駿 / 編集:菅沼完二 / 擬斗:宮内昌午 / 音楽:塚原哲夫 / 出演:市川雷蔵本郷功次郎中村玉緒左幸子、宇治みさ子、美川純子、島田竜三、かしまし歌江、かしまし花江、かしまし照江、伊沢一郎、小堀阿吉雄、清水元、本郷秀雄、冨田仲次郎、香川良介、荒木忍、東良之助、嵐三右衛門、小町るみ子 / 制作:大映京都 / 配給:大映 / 映像ソフト発売元:KADOKAWA

1959年日本作品 / 上映時間:1時間39分

1959年12月6日日本公開

2014年9月26日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

映画デビュー60周年記念企画“雷蔵祭 初恋”公式サイト : http://www.cinemakadokawa.jp/raizohatsukoi/

DVD Videoにて初見(2014/08/07)



[粗筋]

 徳川家八代将軍の座は紀州藩徳川吉宗(伊沢一郎)に譲られた。だが、最後まで座を争った尾張藩主・徳川宗春(小堀阿吉雄)はなおも諦めず、謀反を企てる。宗春は同調する藩主から連判状を取り、戦に打って出ようとしていた。吉宗は宗春を宥めるため、宗春の娘・菊姫(中村玉緒)と自身の甥にあたる松平与一郎(市川雷蔵)との縁談を計画する。お転婆菊姫が縁づけば、手出しは出来ず丸く収まるだろう、という腹づもりだった。

 だが、お見合いの話が尾張藩江戸屋敷に届くと、腰元たちが色めき立った。というのも、与一郎は頭の足りない道楽者、気が短く根性なし、と彼女たちの耳にはまるでいい評判が届いていない。理由をつけて断るつもりだったが、そこへ思わぬ事件が起きる。宗春の野心を押し留めようと、縁談に乗り気だった家臣の孫太夫(東良之助)が、菊姫の見ている前で他の家臣によって切り捨てられたのだ。今際のきわに孫太夫菊姫に、隠し持っていた連判状を託す。父の野心を知った菊姫は、連判状を携え、渚をお伴に江戸屋敷を出奔、父に諫言するため、尾張へと赴いた。

 菊姫出奔の報は尾張家と紀州家双方で騒ぎとなった。尾張家は隠密衆のふくろう組に連判状奪還を、渚が密かに懸想文をしたためていた相手である家臣の楠見兵馬(本郷功次郎)に菊姫の捜索を命じる。一方、紀州家でも与一郎が“菊姫に目にものを見せる”という置き手紙を残して姿を消していた。吉宗の腹心・大岡越前守(島田竜三)は公儀隠密・黒手組に連判状の奪取を命じ、東海道には様々な思惑を孕む者が溢れかえる事態となる。

 真面目一徹で女性とろくすっぽ言葉を交わした経験すらない兵馬にとって、この使命は実に難儀だった。茶屋で頭を悩ませていた兵馬は、そこで偶然、女を目線ひとつで翻弄する浪人を見かけ、縋るように助言を求める。“やらずの与三郎”と名乗ったこの浪人、しかし女を惑わせるばかりでなく、なかなかの切れ者でもあった――



[感想]

“濡れ髪”シリーズ第3作である。2作目にして監督も脚本も違っているのに驚いたが、3作目ではとうとうタイトルから“濡れ髪”の単語まで外されてしまった。監督は第2作『濡れ髪三度笠』の田中徳三監督が続投、脚本は1作目『濡れ髪剣法』の松村正温が再登板した。なにせ雷蔵出演作はまだこのシリーズしか鑑賞していないので断言しにくいのだが、彼が主演する明朗時代劇、コメディ・タッチの時代物を便宜上シリーズにまとめるための枠なのかも知れない。

 とはいえ、この作品の冒頭はちょっと波乱含みで緊張感がある。歴史的に実在した権力争いを題材に流される血、そこから始まる中心人物たちの旅。追う者と追われる者が同じ街道を歩み、交錯する様にもしばし緊迫感が漲り、笑いに転じるのか、という雰囲気もちょっと色濃い。

 だが、いざ旅が始まると、基本的に物語は喜劇として転がっていく。ポイントは、追う者と追われる者がそれぞれ別のルートからの命令、或いは思惑によって行動しているため、互いの顔を知っていたり知らなかったり、情報量に差があることだ。それ故に、随所で交錯するたびに観る側や一部の登場人物に緊張をもたらしながらも、一方の当事者は無頓着に振る舞っていたり、第三者の存在など何らかの理由で真意を伏せねばならず、白々しい芝居を繰り広げなければならなくなったり、と妙な光景が展開する。最初は人間関係が入り乱れすぎでは、と思うし、実際観ている側も混乱するのだが、混乱しているならしているなりに愉しめてしまうくらい、本篇はその状況をうまく活かしておかしみを生み出している。

 そして、この物語を率先してコントロールする、市川雷蔵演じる与一郎の魅力が実に際立っている。粗筋では伏せたものの、旅のなかで兵馬らが出逢う風来坊の与三郎は与一郎と同一人物だ、というのは観ていてすぐに察しがつく(DVDに収録された資料を参照すると、プレスでも役名にズバリ与一郎=市川雷蔵としてあるので一切伏せるつもりがない)が、だからこそ兵馬たちの察しの悪さが笑えるし、同時に与一郎の勘の鋭さに唸らされる。与一郎とて持っている情報は必ずしも多くなく、誰が誰を追っているか、菊姫が出奔した本当の理由は知らないはずなのだが、それを持ち前の愛嬌とハッタリの効いた物云いで解きほぐし、事態に少しずつ介入していく。宿の人間のお節介で、公儀隠密たちが扮した芸人たちと菊姫とがそうとは知らずに行動を共にしているとき、その状況を変えさせるための与一郎の機転など、その最たるものだろう。あのやり取りでその後の展開が一変してしまったのだから。市川雷蔵という俳優の持つカリスマ性にしっくり来る役柄であり、物語の明るさにも深みにも貢献する、まさに“主人公”らしい主人公である。

 与一郎の頼りなくも味のある相棒役を務める本郷功次郎もいいが、本篇で光っているのは中村玉緒だ。お転婆だが何事にも一所懸命で、くるくると表情の変わる菊姫というキャラクターを、はち切れんばかりの愛くるしさで演じている。本篇から半世紀以上経過したいまも彼女は可愛いおばあちゃんとして親しまれているが、この頃のスター性は圧倒的でさえある。市川雷蔵の才能冴え渡る主人公に釣り合う、素晴らしいヒロインぶりだ。

 それからもうひとつ、個人的には映像作りの意外なこだわりにも唸らされたことを添えておきたい。場面転換の際にイラストから実写に移る工夫や、軒先での将棋に介入する雷蔵の構図、など細かなところも印象的だが、私がハッとされられたのは終盤、連判状争奪戦の描き方だ。ひとつは灯りが消えた宿の一室にて、最初はシルエットで、終盤は限られたスポットライトのなかで、巻物の奪い合いが展開する。この絵画的であり、照明に工夫を凝らした舞台を見ているような映像に加え、クライマックスでは足場を用いた立体的なやり取りを、縦横に動き回るカメラで押さえていく。いまほどカメラの動きに自由が利かなかった時代に、まるでジャッキー・チェンがアクションの研究を重ねた結果辿り着いた立体的な場面構成を先取りしたかのようだ。惜しむらくは、人物の衣裳や動きを組織や立場によって綺麗に分けているわけではないので、獲物の行き来の様子が解りにくいことだが、今より遥かに撮影する本数が多く、1作1作に費やせる時間が限られていたはずで、こういう工夫を採り入れていることに恐れ入る。

 見せ場や細かなくすぐりを多く採り入れた結果、それぞれの噛み合いが悪く、ところどころ展開が唐突に感じたり、突拍子もない描写に見えるのが惜しまれるが、しかしそんなことがどうでもいい、と思えるほどに本篇は単純に面白い。やっぱり、こういう娯楽劇の力強さが、いまの邦画にももっと欲しいところである――『超高速!参勤交代』はその復活の兆しかも知れないが、1本では足りない。それこそこの“濡れ髪”シリーズのように、意識して継続的に発表してくれないと。



関連作品:

濡れ髪剣法』/『濡れ髪三度笠

黒い十人の女』/『椿三十郎』/『幕末太陽傳 デジタル修復版

助太刀屋助六』/『清須会議』/『超高速!参勤交代』/『るろうに剣心 京都大火編