『トランセンデンス(字幕・TCX・ATMOS)』

TOHOシネマズ日本橋、スクリーン8入口に掲示されたチラシ。

原題:“Transcendence” / 監督:ウォーリー・フィスター / 脚本:ジャック・パグレン / 製作:アンドリュー・A・コソーヴ、ブロデリック・ジョンソン、ケイト・コーエン、アリサ・ポルヴィーノ、アニー・マーター、デヴィッド・ヴァルデス、アーロン・ライダー / 製作総指揮:クリストファー・ノーランエマ・トーマス、ダン・ミンツ / 撮影監督:ジェス・ホール / プロダクション・デザイナー:クリス・シーガーズ / 編集:デヴィッド・ローゼンブルーム / 衣装:ジョージ・L・リトル / 音楽:マイケル・ダナ / 音楽監修:デヴァ・アンダーソン / 出演:ジョニー・デップモーガン・フリーマンポール・ベタニーレベッカ・ホールキリアン・マーフィケイト・マーラコール・ハウザー、クリフトン・コリンズJr.、コリー・ハードリクト、フォーク・ヘンチェル、ジョシュ・スチュワート、ルース・レインズ、フェルナンド・チェン、サンダー・バークレイ、ルーカス・ハース、ウォレス・ランガム / ストレイト・アップ・フィルムズ製作 / 配給:Pony Canyon×松竹

2014年アメリカ作品 / 上映時間:1時間57分 / 日本語字幕:林完治

2014年6月28日日本公開

公式サイト : http://transcendence.jp/

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2014/06/27) ※先行上映



[粗筋]

 ウィル・キャスター(ジョニー・デップ)はひとつの理想を掲げ、ある研究に人生を捧げている。高度な構造により、自我を備えた人工知能の開発である。その技術がやがて、妻エヴリン(レベッカ・ホール)が夢見る、貧困も病気もない世界を実現しうる、と信じて、ウィルは着実に成果を挙げつつあった。

 だが、ウィルが開発する人工知能に対して、人類を脅かす危険な計画という烙印を押す者たちがいた。出資者を募るための発表会と相前後して、計画に携わっていた科学者たちが襲われて命を落とし、ウィルもまた暴漢に銃撃される。傷は軽いように思われたが、銃弾に放射性物質が仕込まれており、血液に浸透したそれは瞬く間にウィルの肉体を蝕んでいった。

 残された時間はわずかひと月。エヴリンは、夫を助けるために、決断した。科学者を襲ったテロリストたちに警戒して運用を停止することが決まったラボに入り、コアの一部を拝借して、廃屋に持ち込んだ。夫婦の友人であり、研究に手を貸していた神経生物学者マックス・ウォーターズ(ポール・ベタニー)の協力を仰ぎ、衰弱したウィルを廃屋に運ぶと、彼の脳と移転したシステムを接続し、意識のアップロードを試みた。

 ウィルたちの研究は、AIに自我を与えるための方法として、人間の意識を複製することに辿り着いていた。既に動物実験では成功を収めており、エヴリンはその可能性に賭けたのである。

 やがてウィルの肉体は滅びたが、コンピューターに移植したウィルの意識は見事に覚醒した。もともと優れた知能を持つウィルは瞬く間に自らの状況に適応し、新たなプログラムを準備して、自らの機能を拡張していく。

 しかし、その様を目撃したマックスは、かねがね抱いていた危惧が現実のものになった、と感じた。人間の意識を複製しても、それはオリジナルとは別のものになる。自分たちはウィルを蘇らせたのではなく、未知の何かを生んでしまったのかも知れない――しかし、その危惧を口にしたマックスを、エヴリンは追い払った。

 外部との交流を断ち、ウィルの“研究”に付きっ切りになったエヴリンだが、そんな彼女の動静に注目する者たちがいた。人工知能の脅威を訴え、科学者たちにテロを仕掛けた組織が、彼女が一線を踏み越えたことに勘づいたのである――



[感想]

 人工知能はいったいどこまで発達するのか。人間は機械に“自我”をもたらすことが出来るのか。そして、人間の意識をコンピューターに移植し、生きながらえることは可能なのか。命題としては興味深いが、フィクションの題材としてはもはやありがちと言えばありがちだ。

 しかし本篇は、そうしたフィクションが描いてきた事件やドラマの一歩先を行く発想で作りだされている。システムの暴走や人間とコンピューターの共存、といった単純な括りのみで話を構築していない。

 とはいえ、とば口は決して難解なものではない。本篇の物語が動くきっかけは、とてもシンプルな愛情だ。突然の災難で余命わずかとなった夫を救いたい一心で、開発途中だったシステムに夫の意識を移植する。夫の意志を尊重し、生き延びるために、今までの生活を捨てて新天地へと赴き……という流れは極めて解り易い夫婦愛の物語であるし、そしてドラマも最終的にはそこに収斂する。主題としても親しみやすく、SF映画に関心がなくとも感情移入はしやすいはずだ。

 だが本篇は、そういうアイディアに巧みに絡めるようにして、SF的手法での問題提起を組み込んでいるのである。

 それは序盤からも明白だろう。人工知能というものに危機感を覚え、開発者に対してテロ攻撃を仕掛ける過激派、という発想は、それ自体は今までのフィクションにもあったものではあるが、本篇のように単純な“悪役”としてではなく、人間なら抱いても不思議ではない恐怖の象徴として動かしているのは案外稀だ。しかも、そうした過激派たちが中盤以降に演じる役割はなかなかに穿ったもので、物語としての意外性もさりながら、“あり得る出来事”として思索を重ねたうえに出て来たものであり、唸らされる深みがある。

 アップロードされたプログラムとなったウィルの“進化”の描き方も、オーソドックスなようでいて思慮が感じられ興味深い。最初は、生前に収録した音声と映像をもとに表情や言語を擬似的に再現していたが、それが高性能のプロセッサを得て自発的にプログラムを更新していくと、映像も音声も段階的に自然なものに変わっていく。ネットワークに接続し、膨大な情報を確保すると、それを活かして科学者たちを殺害したテロリストの摘発に協力し、更にはナノテクノロジーの追求にまで発展していく。常人にはついていけない速度だが、しかし細部を省きつつも必然性のある発展をしていて、頷かされると共に、その速さに慄然とする――作中の人物の多くがこの急激な“進化”を危惧する心情にも合点がいく。

 率直に言えば、人物造型はひねりがなく、いささか平板である。演じているのがいずれも賞レースに名前を連ねるような俳優ばかりであるから、芯は通っているが、あまりインパクトはない。ただそれ故に、彼らは突飛な思想や論理に振り回されているわけではなく、自然な思考、心情によって動いていることも伝わる。キャラクターで魅せることを敢えて避けたのかは解らない――過激派の主導者の人物像ぐらいはもうちょっと際立たせても良かったように思う――が、その奇を衒わない人物造型が、鑑賞後に振り返ったときの物語を素直に捉えやすくしている。

 そうして冷静に考察したとき、本篇の結末が、ある意味で感動的であると同時に、慄然とするものであることにも気づくはずだ。現実にあり得る――というより、ひとつひとつの要素を別のものに置き換えれば、実際に起きている出来事を思い出させずにはおかない。“知能”とは、“賢さ”とは何であるのか、そして“いったい何が正しいことなのか”を己に問いかけたくなるはずだ。

 鑑賞直後は、ある描写が結末との整合性を欠いているように思ったが、それすらも顧みたときには意味が違ってきた。どこまでが狙い通りなのかは解らないが、少なくともそう感じさせるほどに、本篇は思慮が行き届いている。表面を明快なドラマで彩る一方で、それも含めて様々な現実を象徴させるような設定、趣向を張り巡らせている。

 惜しむらくは、監督が撮影担当として携わった『インセプション』のような、視覚的に圧倒的なインパクトを持つ趣向がないことだが、それでも作中のモチーフを巧みに援用した映像を随所に鏤めるあたりにセンスを感じるし、本篇の思慮に満ちたプロット、控えめな人物造型を考えれば、このくらいがちょうどいい匙加減だろう――やや地味な印象は免れないが。

 監督こそ違うが、長年パートナーを務め、かつ製作総指揮というかたちでクリストファー・ノーラン監督の助言を受けているせいもあるのだろう、『プレステージ』や『インセプション』の血筋を受け継いだ、優秀なSFドラマである。ざっと観て、よくあるドラマだ、と思ってしまうかも知れないが、踏み止まりもういちど顧みていただきたい。



関連作品:

プレステージ』/『インセプション』/『ダークナイト ライジング

ローン・レンジャー』/『アイアンマン3』/『マージン・コール』/『グランド・イリュージョン』/『レッド・ライト』/『暴走特急 シベリアン・エクスプレス』/『ダイ・ハード/ラスト・デイ』/『パシフィック・リム

2001年宇宙の旅』/『トロン』/『トロン:レガシー』/『マトリックス・レボリューションズ』/『A. I. [Artificial Intelligence]』/『ステルス』/『アイ,ロボット』/『WALL・E/ウォーリー』/『ターミネーター4』/『サロゲート』/『月に囚われた男』/『ロボット