『ポリス・ストーリー/レジェンド(字幕・TCX・ATMOS)』

TOHOシネマズ日本橋が入っているコレド室町地下通路に掲示されたポスター。

原題:“警察故事2013” / 監督、脚本&編集:ディン・シェン / 製作:ジャッキー・チェン、ヨウ・ニン、ルー・ジェン / スタント・コレオグラファー:ヘ・ジュン、成家班 / 撮影監督:ディン・ユー / プロダクション・デザイナー:フェン・リーガン / 音楽:ラオ・ザイ / 出演:ジャッキー・チェンリウ・イエジン・ティエン、グーリー・ナーザー、ジョウ・シャオオウ、リュウ・ハイロン、ユー・ロングァン / 配給:Broadmedia Studios

2013年中国作品 / 上映時間:1時間50分 / 日本語字幕:伊東武

2014年6月6日日本公開

公式サイト : http://www.policestory-legend.com/

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2014/06/06)



[粗筋]

 中国公安に勤める刑事ジョン・ウェン(ジャッキー・チェン)は、老体には似合わない歓楽街に赴いた。半年間、家を出たまま戻らない娘ミャオ(ジン・ティエン)から連絡があり、ウー・バーという店で逢う、と言ってきたのだ。

 監獄をモチーフとした物騒なデザインの店にある個室で彼を出迎えたのは、派手な格好をしたミャオと、彼女と交際しているという店のオーナー、ウー・ジアン(リウ・イエ)だった。当然のようにジョンはふたりの交際に反対した。ウーがジョンとさほど年齢の変わらない男であることもさりながら、ジョンは彼の雰囲気にただならぬものを感じ取っていた。

 予感通り――いや、それ以上の出来事が、やがて彼を襲う。バーの中で起きた揉め事に、仲裁を買って出ようとしたジョンは突如、背後から何者かに殴られて昏倒、目醒めたときには手足を拘束されていた。目の前には、ジョンの携帯電話を使って、中国公安当局に交換条件を突きつけるウーの姿があった。

 どうやらウーははじめから自分を狙ってミャオに接近したらしい、とジョンは悟る。だが、本当の目的は何なのか? ウーの隙を見て脱出したジョンは、彼の個室を探り、その一端を察する。

 ウーの大胆すぎる計画は、警察の早い出動を促し、既にバーの周囲は包囲されている。ちょうどオープン3周年を祝うパーティのさなかだったバーに集まっていた客は、まさに監獄同様の一画に閉じ込められている。事態は急速に、緊迫の度を増していた――



[感想]

 ジャッキー・チェンが前作『ライジング・ドラゴン』を“最後のアクション大作”と銘打ったことには、様々な反応があった。素直に引退を惜しむ声もあれば、どうせまたすぐに撤回するのだろう、という声もあり、もっと前に自分にとってのジャッキーはいなくなっている、といったような痛烈な意見を持つ者もいただろう。ただ、本当に熱心なファンは、あんまり心配していなかったはずだ。彼の言葉が嘘だ、というわけでも、撤回を期待しているわけでもない。言っている通りなのだ、ということをほとんど確信していたはずである。

 前作の公開から1年で登場した、ジャッキーの看板シリーズのタイトルを掲げた本篇は、まさに象徴的な内容である。予告篇だけ観ると、やっぱりあの宣言は嘘だったんじゃ、と言いたくなるような激しいシーンの連続だが、本篇に接すれば、理解できるに違いない。

 実のところ、アクション・シーン、それもインパクトの強いものは、予告篇でほとんど使われている。しかも、本筋ではなく、作中ちらっと組み込まれる回想や、余談のようなかたちで組み込まれるエピソードばかりである。本筋となる人質籠城事件の過程においてもアクション、それも肉弾戦は幾度となく描かれるが、それこそ『ライジング・ドラゴン』で披露したような、外連味のある動きには乏しい。迫力はあっても現実的な動作で構成されており、ジャッキーの持ち味を激しくもコミカルなアクションに見出していたひとにはたぶん納得のいく内容ではないだろう。そして、“最後のアクション大作”と言った前作に籠めた想いを、改めて理解できるはずだ。

 だが、本人が明言しているように、アクション映画、ひいては自身の肉体を駆使したアクションを辞めたわけではない。それも本篇で充分に感じることが出来るはずである。

 数を減らし、外連味は乏しい、とは言い条、お馴染みのエンドロールで流れるNGシーンが仄めかす撮影の様子は、相変わらず危険なアクションに自ら望んでいることが窺える。また、屋上からの転落や車がねじり回転して吹っ飛ぶスタント、といったものは多くない一方で、拳と拳の戦いは思いのほか盛り沢山だ。しかも本篇は演出上の趣向としてスローモーションを多用しているが、そこで描かれるベアファイトの描写は、本当に拳が当たっていなければ不可能なものである。CGでクリーンナップを施す、ぐらいのことはしているだろうが、日本で言えば還暦にあたる60歳を控えてなおもここまでするか、と冷静に考えると恐れ入る熱意だ。

 そして、特筆すべきは、そうしたアクションが本筋である、サスペンスの漲るプロットにきっちりと噛み合い、引き立てていることなのである。

 だいぶ前から段階的にそういう方向性を打ち出してきていたが、依然としてジャッキーの魅力は“何を置いてもまずアクション”と言われていた。だが、そもそも売れる以前から独自のスタイルを探求し、確立させながらも変化することをやめなかった彼が、年齢を経て同じスタイルに固執するはずがない。かねてから試み、本篇に先駆けて製作されていた『香港国際警察 NEW POLICE STORY』で既にある程度成功させていたシリアスな物語との融合を更に押し進め、より洗練させている。

 アクションが主役であった諸作は、見せ場を優先するが故に、話の繋がりに強引さがしばしば認められ、不自然な印象を与えることがしばしばだったが、本篇はその不自然さを感じさせるくだりがほとんどない。この目的、背後にあった事情に対していささか計画が大掛かりでリスクばかりが高すぎないか、という違和感はあるにはあるが、それはストーリーとしてのインパクトを求めればこそで、全体像には歪みがない。

 最終的に明かされる真相自体は、はっきり言ってそれほど独創的なものではないが、しかしこの“謎”についての情報を巧みに操り、観客を惹きつけ引っ張っていく手管はこなれている。早いうちに事情を察したジョンの刑事としての有能さを仄めかすのと同時に、事実を小出しにして、考えようによってはシンプルな真相をより謎めき、ドラマティックなものに演出している。ジョンがまだ背景に気づいていない段階で、過去に携わった事件を回想する、といったかたちで手懸かりを探る過程において、自然にジャッキーのアクションと、ジョンの刑事としての活躍ぶりを採り入れているあたりもうまく出来ている。

 事件の背景自体にジョンの刑事として、ひとりの人間としての悩みを投影させ、これまでにジャッキーが演じてきた主人公たちよりも深みのある人間像を生み出しているのも特筆すべきところである。“ポリス・ストーリー”と銘打ったシリーズはすべて、警察という仕事に従事するひとびとへの敬意が籠められたものであったというが、その意図が本篇にあたって、より深化された、と言えるのではなかろうか。アクションこそが看板だった時期を過ぎ、歳を重ねたジャッキーに、ある意味では期待をしなくなったひとが多くなった今だからこそ、本来の意図を掘り下げた作品に結びついた、という捉え方も出来るだろう。本篇に先駆け、コメディ風味のアクションを歴史ドラマの一部に組み込んだ『ラスト・ソルジャー』(本篇を担当したディン・シェン監督との初のコラボレーションであった)や、歴史ドラマ自体が主であり拳を使ったアクションがほとんどない徹底してシリアスな文芸大作『1911』を製作し、俳優としての自信を深めたあとであり、かつ『ライジング・ドラゴン』によって往年のスタイルを一区切りさせたあとだからこそ、あえてこのテーマに改めて臨んだ。

 私はもうだいぶ前からジャッキーが新しい段階に入りつつある、と感じていたが、本篇でそれは確信に変わった。『ライジング・ドラゴン』において、エンドロールで明確に宣言したあとだからこそ、はっきりと言い切れる。私たちはまだ、新しいジャッキーに出逢うことが出来るのだ――本篇はその、本格的な始まりを告げる、号砲である。



関連作品:

ポリス・ストーリー/香港国際警察』/『ポリス・ストーリー2/九龍の眼』/『ポリス・ストーリー3』/『新ポリス・ストーリー』/『香港国際警察 NEW POLICE STORY

ラスト・ソルジャー

新宿インシデント』/『ベスト・キッド』/『1911』/『ライジング・ドラゴン

ブレイキング・ニュース』/『ドラッグ・ウォー 毒戦