『戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 史上最恐の劇場版』

アップリンクX、劇場売店前にポスターと共に展示された、ディレクター工藤仁にクリソツのマネキン。 戦慄怪奇ファイル コワすぎ!  史上最恐の劇場版 [DVD]

監督、脚本、撮影&VFX:白石晃士 / 製作統括:原啓二觔 / プロデューサー:三上真弘、田坂公章 / 助監督、音響監督:中川究矢 / 録音:根本飛鳥 / 特殊造形、イラスト:相蘇敬介 / 編集&予告編担当:宮崎歩 / 出演:大迫茂生、久保山智夏、白石晃士、宇賀神明広、小明金子二郎、大畠奈菜子、金子勝、吉田悠軌、平川和弘、舘野豪、村上ROCK、小西平祐、石川ゆうや、藤原章、はるうらら、大蔵省、西山真来、柳川凌嘉、五頭兵夫 / 制作プロダクション:ビデオプランニング / 製作&映像ソフト発売:ニューセレクト / 配給:「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」上映委員会

2014年日本作品 / 上映時間:1時間20分

2014年5月3日日本公開

2014年7月2日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

公式サイト : http://albatros-film.com/movie/kowasugi/

アップリンクXにて初見(2014/05/30) ※メインスタッフ3名による大ヒット御礼舞台挨拶つき上映



[粗筋]

 口裂け女や河童、更にはお岩さんまで、様々な怪異に文字通りの体当たりで取材を行い、じわじわとカルト的支持を集めていった怪奇ドキュメンタリーシリーズ『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』。好評を励みに、遂に製作を決意した劇場版で彼らが挑んだ題材は、“タタリ村”である。

 昭和の中頃まで存在したその村は“然野村(そのむら)”といい、かつては呪術師を育てる集落であった。『東海道四谷怪談』を執筆した鶴屋南北もここで生まれ育ち、優れた呪術師のひとりであった、という説を唱える者もある。戦時中には地下に兵器工場が存在した、という噂もまことしやかに囁かれているが、やがて村の大半はダムに沈み、いまは某電力会社の私有地として、地上に残った区域も立ち入りが禁止されている。

『コワすぎ!』スタッフを動かしたのは、シリーズのファンである金子鈴幸(金子勝)からの投稿映像であった。恋人の大畑奈々(大畠奈菜子)と共に自ら“然野村”に赴いて撮影したその映像には、衝撃的な光景が収められていた。奈々は失踪、鈴幸もスタッフの目の前で狂気を顕わにし、最終的に行方をくらましてしまう。

 かくして、ディレクターの工藤仁(大迫茂生)、ADの市川実穂(久保山智夏)、カメラマンの田代正嗣(白石晃士)ら『コワすぎ!』のメインスタッフに、前作で市川に取り憑いた悪霊と戦った浄霊師の宇龍院道玄(宇賀神明広)、著名な賞にも輝いた科学者の斎藤雅彦(金子二郎)、そしてサブカル界で知らぬ者のいないアイドル小明(小明)というゲストが加わった調査隊が、“タタリ村”に赴く。

 ゲストはいざ知らず、スタッフたち、とりわけディレクターの工藤は並々ならぬ覚悟を胸に挑んだ撮影であったが、しかしそこで遭遇したのは、これまでとは比較にならない規模の怪異であり、おぞましい秘密であった――



[感想]

 監督の白石晃士は、恐らく世界中を眺めても類を見ないほど、フェイク・ドキュメンタリーの手法を突き詰めた映画監督と言っていいだろう。わざわざバラエティ番組の映像を捏造し、劇場公開時には作中の虚構人物までも実在するかのように装って宣伝を打ち、そのリアリティを研ぎ澄ませた『ノロイ』は未だにこのジャンルの頂点に位置する傑作、と個人的には信じているし、その後もヴァイオレンス的な題材に幅を広げながらも、フェイク・ドキュメンタリーを掘り下げてきた。

 そんな監督自身が“集大成”と銘打っているというこの『コワすぎ!』シリーズは、実際にそれまで監督が作ってきたドキュメンタリーの題材や方法論の極北を行くかのような内容であった。

 本篇以前にDVDオリジナルで発表された5作で採り上げられたのは口裂け女に震える幽霊、河童にトイレの花子さん、そして『東海道四谷怪談』のお岩さんと、都市伝説と民間伝承がごたまぜになったようなものばかりである。見るからに低予算なのが察せられる作りながら、各作品にはそれぞれの登場する怪異についての知識を窺わせる裏打ちがあり、不思議な説得力も備えている。

 その一方、こうした怪奇ドキュメンタリーは製作スタッフがインタビュアー、或いは現場取材というかたちで怪異に接することが多く、必然的に画面に露出することも増えるために、しばしばその人物像が観る側に印象づけられ、結果としてスタッフがキャラクター化、重要な出演者のひとりとして位置づけられていく傾向にあるのだが、本篇はフィクションである、という強みを活かして、スタッフ側のキャラクター化を強烈に押し出している。中でもディレクター・工藤仁のインパクトは鮮烈だ。神も祟りも一切恐れない、とでもいうような不遜な振る舞いは、真面目に捉えると観ているほうがハラハラしてしまうが、しばしば笑いを誘い、そしてこの上なく痛快だ。ぶっちゃけろくでなし過ぎて近寄りたくはないが、見ているだけならこんなに面白い人物もそうはいない。彼ほどではないが、ADの市川実穂も、基本的には常識人ながらもときどき冷淡な言動をして驚かせたり、工藤に殴られ蹴飛ばされ、果てには呪いを受けてもへこたれない根性を見せたりして、なかなかの存在感を発揮している。白石晃士監督が自ら演じる田代正嗣は、あくまでそのほうが好都合だから、という理由でカメラマンとして現場にいる体だが、結果として誰よりも頻繁に怪奇現象に立ち合う役割を担っており、監督だからこそのツボをわきまえた驚きっぷりで、観る側の気分を巧みに盛り上げてくれる。一緒に驚くひともいるだろうが、いっそ愛嬌のあるリアクションがいい意味で愉しさも生み出しているのである。

 この辺りまでは、本篇の前までに製作されたシリーズで確立してきた部分だが、本篇は相変わらず低予算ながらも“劇場版”を冠しただけの矜持を見せ、いつもよりも多めにゲストを招き、更に大掛かりなネタを用意してきて、きちんとその看板に見合うだけの力を注いでいるのが窺える。

“タタリ村”というのは明らかに架空の土地であり、その設定も大胆すぎて説得力に欠くきらいはあるが、しかしそこにはオカルトもののエッセンスが凝縮されていて、ジャンル愛好家は惹きつけられずにはいられないはずだ。先行してリリースされた『劇場版・序章【真説・四谷怪談 お岩の呪い】』の出来事も踏まえつつ展開される大風呂敷は、いかがわしさも含めて実にパワフルである。

 そして何よりも凄いのは、およそ観客の予想通りになど進むことのあり得ないストーリーだ。知名度よりも作品のムード、フェイク・ドキュメンタリーというスタイルに嵌まることを優先したキャスティングとはいえ、いつも以上のゲストを招いたのだからもっと活かすのかと思いきや、あっという間に退場していく。そうして明かされる異様な事実の数々に加え、スタッフたちの活躍ぶりはもはや怪奇ドキュメンタリーというより冒険ものの趣さえある。そんなことあるか、と笑い飛ばしながらも、妙なおぞましさを憶え、同時にワクワクが止まらない。現実ならばたぶん海外公開も不可能なくらいの蛮行に及ぶ工藤の姿も、フィクションならではの弾けっぷりに胸のすくような想いが味わえる。

 惜しむらくはVFXのチープさである……が、繰り返すように本篇はあからさまな低予算作品である。それ故に、白石監督自身が最小限の手間で作っているのだから、説得力を与える水準に達していないのは致し方ないところだろう。世界観が独特で力強いだけに、そこに説得力をもたらすだけの加工が施せれば、と惜しまれる一方で、妙な味があるのも事実である。この異界描写の、はっきり言ってしまえば“安っぽさ”というのは先行するフェイク・ドキュメンタリー作『オカルト』にもあったところだが、ただあちらもそうであったように、発想が魅力的であれば、多少のチープさは観客のほうで補填してくれる、という側面もある。それを承知しているからこそ、白石監督は安っぽさを恐れず、アイディアのパワーと、このスタイルを理解し巧く嵌まった出演者、とりわけメインを務める大迫茂生と久保山智夏の奮闘に賭けたのだろう。

 はっきり言えばカルト作品である。予想の斜め上を行く展開も、チープなVFXも、それがしっくり来なければ不愉快な代物だろう。だが、シリーズのどういう部分を観客が喜んでいるのかを理解し、そのうえで自身のスタイルをどのように追求していくか、という点に貪欲な作り手が、思う存分に己の想像力を傾けた本篇の凄味は、なまじ金をかけた大作や、シナリオの洗練された作品では体感出来ないものだ。今をときめくももいろクローバーZ(当時は“Z”のつかない6人編成時代だったが)とともに撮った『シロメ』のような実験的なスタイルまで行って、手法を掘り下げてきた監督の集大成たる本篇は、まさにフェイク・ドキュメンタリーの極北である。恐らく、こんな境地に到達しているのは、世界中を探しても彼ひとりだけだろう――だからこそ、既に完成に漕ぎつけているらしい最新作『ある優しき殺人者の記録』で、韓国のキャストまで巻き込んだ製作が許されたのだろう。その脂ぎらんばかりの情熱が注がれた本篇、好き嫌いはさておいて観ておいて損はない。



 ……それにしても、あちこちの発言からして、白石監督が本篇の続篇に意欲を燃やしているのは間違いなさそうなのだが、いったいどうやって続けるつもりなのだろう。こんなものを撮ってしまうひとなのだから、また力業で話を繋いでいくのは確実だろうけれど。



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