『プリズナーズ』

TOHOシネマズ六本木ヒルズ、階段下に掲示されたポスター。

原題:“Prisoners” / 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ / 脚本:アーロン・グジコウスキ / 製作:ブロデリック・ジョンソン、キーラ・デイヴィス、アンドリュー・A・コソーヴ、アダム・コルブレナー / 製作総指揮:エドワード・L・マクドネル、ジョン・H・スターク、ロビン・マイジンガー、マーク・ウォルバーグ、スティーヴン・レヴィンソン / 撮影監督:ロジャー・A・ディーキンス / プロダクション・デザイナー:パトリス・ヴァーメット / 編集:ジョエル・コックス、ゲイリー・D・ローチ / 衣装:レネー・エイプリル / キャスティング:ケリー・バーデン、ポール・シュニー / 音楽:ヨハン・ヨハンソン / 音楽監修:デヴァ・アンダーソン / 出演:ヒュー・ジャックマンジェイク・ギレンホールヴィオラ・デイヴィスマリア・ベロテレンス・ハワードメリッサ・レオポール・ダノ、ディラン・ミネット、ゾーイ・ソウル、エリン・グラシモヴィッチ、カイラ=ドリュー・シモンズ、ウェイン・デュヴァル、レン・キャリオー、デヴィッド・ダストマルチャン / 8:38、マッドハウス・エンタテインメント製作 / 配給:Pony Canyon×松竹

2013年アメリカ作品 / 上映時間:2時間33分 / 日本語字幕:松浦美奈 / PG12

第86回アカデミー賞撮影部門候補作品

2014年5月3日日本公開

公式サイト : http://prisoners.jp/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2014/05/10)



[粗筋]

 感謝祭の日。家の修理やリフォームを生業として暮らしているケラー・ドーヴァー(ヒュー・ジャックマン)は友人のバーチ家を訪ねてこの日を祝っていた。ケラーと妻のグレース(マリア・ベロ)、フランクリン(テレンス・ハワード)とナンシー(ヴィオラ・デイヴィス)のバーチ夫妻たち大人が楽しんでいるあいだ、子供たちも年齢が近い同士で遊んでいた。

 だが、気づいたとき、ケラーたちの娘アナ(エリン・グラシモヴィッチ)とフランクリンたちの娘ジョイ(カイラ=ドリュー・シモンズ)の姿が見当たらなくなっていた。アナの兄ラルフ(ディラン・ミネット)とジョイの姉イライザ(ゾーイ・ソウル)は、一緒にいたとき、空き家の前の道路に駐まっていたバンを目撃、幼い娘達はその車に興味を持っていたが、ふたりが消えたあとでそのバンも見当たらなくなった、と言う。ケラーは警察に、バンの情報と共に娘達の失踪を届け出た。

 その夜、該当するバンが発見された。警察車両が集まってくると、強引に逃亡を試みたが、運転者はすぐに取り押さえられる。バンの所有者はアレックス・ジョーンズ(ポール・ダノ)という30代の男性だが、どうやらIQがかなり低く、10歳児程度の受け答えしか出来ない状態で、長時間の訊問を経ても、大した情報は得られなかった。

 事件の担当となったロキ刑事(ジェイク・ギレンホール)は、アレックスの車を隅々まで調査させたが一切の証拠がなく、アレックスの知能程度を考慮すると不可能な隠蔽を施しているとしか言えず、警察は無実と判断する。依然として手懸かりのない少女ふたりの行方を捜すためには、他の線を当たるべきだと思われた。

 だが、ケラーは納得しなかった。娘達の行方が判明するまでのあいだ、アレックスを拘束するように主張する。ロキは家族を納得させるため、オマリー署長(ウェイン・デュヴァル)に勾留期間の延長を提案するが、署長は釈放を決定した。マスコミが集まるなか、保護者であるホリー(メリッサ・レオ)とともに帰途に就こうとしたアレックスにケラーは飛びかかり、娘はどこにいる、と詰問する。

 警察官によってすぐに引き剥がされたが、わずか一瞬のあいだにアレックスが漏らした言葉が、ケラーの注意を惹いた。「僕がいるあいだ、ふたりは泣かなかった」――あの男は確実に、娘達の行方を知っている。そう悟ったケラーは、心労の余り倒れる妻や息子にも内緒で、暴挙に及ぶのだった……



[感想]

灼熱の魂』で注目されたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のハリウッド初監督作品である。母の死、という出来事をきっかけに、遺言を軸にして、ある秘密が解き明かされていく、というプロットは優れたミステリの風格があったが、本篇は冒頭から王道のミステリの佇まいを見せ、より真っ向勝負の趣がある。

 だが、物語が進むごとに、一筋縄では行かない本質が明白になっていく。粗筋ではその手前で止めたが、中盤になってケラーが及ぶ行動は極めて衝撃的だ。追い込まれた父親が、あそこまでの行為に走るものか、という驚きがある――だが、その振る舞いに同情し、理解を示すひとも恐らくは少なくない。作中においても、その事実を知った人物がケラーに命じられるまま協力したり、あえて口をつぐむ場面が描かれているが、恐らく現実にああした状況に直面したとしたら、同様の行動に及ぶひとは確実にいる。

 この状況を叩きつけるだけでも本篇のインパクトは強烈だが、一方でミステリとしての手捌きが極めて巧みだ。ケラーに罵られつつも、淡々と自分のやり方で手懸かりを探すロキ刑事がこちらの視点を担っているが、捜査の展開には不自然さがない。幾度も空振りを繰り返し、新たな方向性を模索する一方で、ケラーや上司による行動に悩まされる。観終わると解るが、捜査のなかでさほど意識しない出来事や描写が、きちんと伏線になっている脚本の作りに唸らされるはずだ。『灼熱の魂』においては、クライマックスでの最大の衝撃に備えた伏線が緻密に張り巡らせてあったが、その手際は本篇で更に洗練された感がある。驚きをどう演出するか、という意味では『灼熱の魂』にやや劣る印象だが、しかしドラマの掘り下げ、そして余韻の深み、という点においては決して引けを取らないどころか、より研ぎ澄まされているのは間違いない。

 監督の力を認めたからこそだろう、本篇はキャスト、スタッフが非常に充実している。アメコミ・アクションから文芸大作まで多彩な作品に主演するヒュー・ジャックマンを筆頭に実力派が揃った主要キャストは無論、コーエン兄弟サム・メンデスの作品に携わりアカデミー賞に幾度もノミネートされている(受賞がないのが不思議だ)ロジャー・ディーキンスが撮影を担当、名匠クリント・イーストウッドを長年支えてきたジョエル・コックスとゲイリー・D・ローチが久々にイーストウッド作品以外で編集を担当しているなど、映画ファンなら「おお」と思うようなスタッフが名を連ねている。地方都市を舞台にした物語は絵的に地味になりそうなものだが、そこに重厚なミステリとしての風格が備わっているのは、監督の才覚もさることながら、スタッフの貢献も多大なはずだ。

 ミステリとしての緻密さ、驚きもさることながら、本篇がこれほどに重く響くのは、題材に対する向き合い方の真摯さ故である。前述したように、ケラーの行動は過激だが、しかし多くの人間は――同じことをするかは別にしても、理解できるはずである。だからこそ過程が沈痛であり、やがて明かされる真相が余計に重みを増す。こうした事実を見事に集約する“プリズナーズ”という題名も秀逸だ。観終わったあとで、この題名が意味する者は誰なのか、をじっくりと考えていただきたい。“Prisoner”という単数ではなく、複数形にしていることが重要なのだ。

 観て愉しい想いをするものではないが、謎の魅力と真相の衝撃に打ちのめされ、そしていつまでも胸に響く。真っ向勝負でありながら、『灼熱の魂』にも劣らない重厚感のある秀作である。



関連作品:

灼熱の魂

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