『白ゆき姫殺人事件』

TOHOシネマズ日本橋が入っているコレド室町2入口脇の壁面に掲示されたポスター。

原作:湊かなえ(集英社文庫・刊) / 監督:中村義洋 / 脚本:林民夫 / 企画:田村隆一 / 製作総指揮:大角正 / プロデューサー:三好英明 / アソシエイトプロデューサー:住田節子 / 撮影:小林元 / 美術:西村貴志 / 衣裳:丸山佳奈 / 編集:川瀬功 / VFXスーパーヴァイザー:村上優悦 / 音楽:安川午朗 / 音楽プロデューサー:高石真美 / 出演:井上真央綾野剛菜々緒蓮佛美沙子金子ノブアキ小野恵令奈谷村美月染谷将太秋野暢子、ダンカン、山下容莉枝宮地真緒朝倉あき大東駿介、草野イニ、野村佑香、川面千晶、TSUKEMEN生瀬勝久貫地谷しほり / 制作:松竹撮影所 / 配給:松竹

2014年日本作品 / 上映時間:2時間6分

2014年3月29日日本公開

公式サイト : http://shirayuki-movie.jp/

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2014/04/08)



[粗筋]

 国定公園のしぐれ谷で、めった刺しにされたうえ、火をつけられた女性の遺体が発見された。

 映像会社で契約し、テレビ局でディレクターとして働く赤星雄治(綾野剛)は当初、事件にはさほど関心はなかった。だが、以前に交際していた狩野里沙子(蓮佛美沙子)から被害者の素性と経緯を聞かされ、俄然興味を抱く。

 殺害されたのは、日の出化粧品に勤務していた三木典子(菜々緒)という女性だった。里沙子にとっては指導者にあたる人物であり、美貌と才能に優れた人物であったという。そして里沙子が言うには、容疑者らしき人物にも心当たりがあるというのだ。

 城野美姫(井上真央)というその女性は、典子と同期入社したが、対照的に地味で目立たない存在だった、という。里沙子の同僚で、美姫から指導を受ける立場だった満島栄美(小野恵令奈)の証言によれば、美姫は一時期、上司である篠山聡史(金子ノブアキ)と恋人関係にあったが、典子に奪われたそうだ。自分と比べ、あらゆるものに恵まれた典子に対する嫉妬が、殺害の夜、噴出してしまったのではないか……?

 名前の挙がった関係者に対して行ったインタビューを、携わっているワイドショーにかけたところ、話題を博し、赤星に対する周囲の評価はにわかに好転する。

 だが、取材のさなか、赤星が平素と同じ感覚でツイッターに情報を垂れ流していたことが、この日を境に爆発的な反応を呼んでしまった。ネット上で容疑者として断定されてしまった城野美姫は、テレビや赤星のツイッターでは名前を伏せていたにも拘わらず、あっという間に身許が暴かれ、彼女についての情報や憶測が、急激に拡散していく――



[感想]

 中村義洋監督は、いまや本邦の怪奇ドキュメンタリーのパイオニアとなった感のある『ほんとにあった!呪いのビデオ』シリーズ立ち上げ当初の構成・演出を担当していた方である。数作で離れたが、その後もナレーターとして参加しており、最近は「とでも、言うのだろうか」というフレーズ込みで地上波のテレビ番組にもナレーターとして招かれているくらいだから、作品を観たことがなくても声だけ知っている、というひともけっこういるはずだ。

 これまで監督が撮った映画にあまり縁がなく、それ故にどちらかと言えば“『ほん呪』のひと”というイメージが私には根強い。そういう目線で鑑賞すると、本篇はまさに中村義洋監督の本領、と感じるような作り方である。

 本篇の見せ方はいわゆるドキュメンタリー・タッチそのものではない。随所にインタビューの模様などを織りこんでいるが、あくまで撮り方は芝居を対象としたものだ。その中に、中心として物語が綴られる赤星雄治の取材によるテレビの特集コーナーが挿入されるのだが、そのテイストがまさに『ほん呪』で中村監督が作りあげたスタイルを彷彿とさせるのである。基本的には、ニュースバラエティ番組の雰囲気を再現することに努めているが、そこに漂ういかがわしさ、怪しい気配は、怪奇映像を題材としていた『ほん呪』の映像を思い起こさせる。特に、物語のなかで“呪い”というフレーズが出たあとの映像などは、本筋から逸脱するのでは、と危惧してしまうほどだ。

 そうしたドキュメンタリーパート単独の巧さだけでなく、通常のドラマとして撮っているくだりでさえ、ドキュメンタリー的な雰囲気が強く、それが本篇の虚実をない交ぜにした、どちらに傾いていくのか解らない危うさを強調する。

 この作品では重要なモチーフとして、ツイッターが採り入れられている。いまやインターネットの代名詞的なサーヴィスとなったSNSのなかでも、いつでも簡単に投稿できる気軽さ、140字という制約が日本語に馴染んだせいもあって、日本人のあいだでも大規模に普及したツイッターは、東日本大震災の際には情報発信・共有に多いに役立てられた一方、胡乱な情報やデマ、憶測の拡散にもひと役買ってしまった。本篇はそんなツイッターの“負の側面”を、映画の中で巧妙に埋め込んでいる。文字を追う場面ばかりでは観る側の負担になるが、本篇は文面を読み上げることで違和感を抑え、作品のテンポを上げると同時に、シンプルな映画とは異なる圧倒的な情報量を作品に盛り込んでおり、その重量感は秀逸だ。

 そうして緻密に組み立てられた物語が紡ぎ出すのは、ひとが真実と思って口にし、綴る言葉のあやふやさである。ある者は意図的に他人の悪口や改竄された情報を投げ入れるが、多くの者はほとんど善意か、些細な悪戯心から心ない言葉や胡乱な情報を漏らす。もともと噂話やデマの類はそうやって広まっていくものだが、ネットワークの普及と迅速化により拡散する速度は早く、そして拡大も著しくなった。本篇における城野美姫の評判も、最初はTVディレクター赤星の無思慮なネットワークの使い方で情報が発信されるが、瞬く間に赤星の理解を超えて拡散していく。

 そうした情報の拡散ぶりもさることながら、情報の見方、見え方がひとによってまるで異なる、ということも本篇の勘所だ。序盤から語り手となる赤星もそうだが、彼が接触する関係者のなかでも、城野美姫や三木典子に対する理解、評価はまるで違う。それが誤解なのか悪意によるものなのかも判然とせず、多くの人物の実像は掴みにくい――下手をすると、終わっても理解できない部分が残るほどだ。

 しかし、その情報や人間関係の入り乱れた様子が醸しだす謎解きの感覚は、おぞましくも魅惑的だ。そのうえ、決して緻密な伏線に支えられたものではないが、意外性を演出しつつも納得のいく結末が用意されている。そしてその真相が、一連の事態の流れと重ねて考えると、実に象徴的だ。

 エピローグが少々長めで、かつ付け足しすぎ、という印象を受けるひともありそうで、そこは評価が分かれそうだが、しかし本篇の題材が孕む問題はこのくだりでほぼほとんど汲み上げつつ、物語としても程良く着地させた、と言っていい。題材の選択と描き方、そして物語のもたらす感情のコントロールまで含め、実に見事な佇まいの、傑出したミステリ映画である。『ほん呪』関連でばかり中村監督の作品と接してきた私だが、だからこそこれは氏に相応しい題材だったのだ、と実感する。



関連作品:

ソフトボーイ』/『ほんとにあった!呪いのビデオ55

るろうに剣心』/『エイトレンジャー』/『トリハダ−劇場版−』/『清須会議』/『ALWAYS 続・三丁目の夕日

タブロイド』/『ブレイキング・ニュース』/『トールマン』/『サイド・エフェクト』/『真夏の方程式