『銀の匙 Silver Spoon』

TOHOシネマズ西新井、スクリーン6前に掲示されたチラシ。

原作:荒川弘(小学館サンデーコミックス・刊) / 監督:吉田恵輔 / 脚本:吉田恵輔高田亮 / エグゼクティヴプロデューサー:田代秀樹 / プロデューサー:幾野明子、武田吉孝、星野秀樹 / ラインプロデューサー:新野安行 / 企画&プロデュース:平野隆 / 脚本協力:NAKA雅MURA / 撮影:志田貴之 / 照明:中村裕樹 / 美術:三ツ松けいこ / 衣裳:宮本茉莉 / 装飾:松尾文子 / ヘアメイク:百瀬広美 / 編集:李英美 / 音楽:羽毛田丈史 / 音楽プロデューサー:桑波田景信 / 主題歌:ゆず『ひだまり』 / 出演:中島健人広瀬アリス市川知宏黒木華矢本悠馬、安田カナ、岸井ゆきの北浦愛、田村健太郎、花戸祐介、鈴木龍之介、亀田梨紗、遠山悠介、河野将也、前野朋哉宮本裕子、安澤千草、上島竜兵吹石一恵西田尚美吹越満哀川翔竹内力石橋蓮司中村獅童 / 配給:東宝

2013年日本作品 / 上映時間:1時間51分

2014年3月7日日本公開

公式サイト : http://www.ginsaji-movie.com/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2014/04/01)



[粗筋]

 高校受験に破れ、厳しい父(吹越満)や級友達の眼を逃れるようにして、八軒勇吾(中島健人)が進んだのは、大蝦夷農業高校、通称【エゾノー】だった。

 全寮制のこの高校は日本でもトップの敷地面積を誇り、高校ながら農業に関する授業を実地で行っている。ほとんどの生徒は農家出身で、小さい頃から家業に接し体験で学んできた、という環境にあって、サラリーマン家庭出身の八軒は異質であり、彼自身もここの特殊な“常識”に困惑することしばしばだった。

 入学から2ヶ月を数え、定期的に回ってくる当番制での家畜の世話にもやっと慣れてきた頃、八軒は馬術部に入部した。同級生の御影アキ(広瀬アリス)に誘われたのがきっかけだったが、入部届にサインをしてから、馬の世話のために毎朝4時起き、という活動内容を知って愕然とする。

 やがて八軒たちのクラスで、豚の飼育実習が行われることになった。母豚の乳の出にくい端っこに追いやられた子豚に感情移入した八軒は、思わず“豚丼”と名前をつけてしまう。駒場一郎(市川知宏)ら同級生は、経済動物相手に過剰に思い入れてしまう八軒に呆れるが、八軒自身はそうやって割り切る考え方にどうしても納得がいかなかった。

 ある日、八軒は御影に誘われ、ばんえい競馬の会場を訪れる。てっきりデートかと思い込んでいたら、そこには御影と幼馴染みだという駒場の姿もあり、3人は微妙な雰囲気になる。成績を残せなかったばんえい馬がすぐに廃棄処分され食肉になってしまう、という事実を知らされ感情的になった八軒は、駒場と口論になってしまうのだった……



[感想]

 原作は大ヒットした漫画である。ファンが抱くイメージと一致しているか否か、がまず出来栄えよりも先に争点になってしまうのは、他メディアから実写映像化した作品の宿命だが、少なくとも本篇はキャラクターのイメージについて不満を抱くひとは多くない、と思う。

 本来、別に設定されている、八軒のクラスの担任と馬術部顧問を中村獅童演じる中島先生というキャラクターに集約しており、馬術部顧問の仏様めいた容姿や、それ故に際立つ感情的な一面については外されてしまっているが、他の人物や配置は概ね原作に則している。特にタマ子や、校長先生の配役にはちょっと唸らされるものがある。重要な八軒や御影といった主要キャストも、ヴィジュアル面から原作のイメージを尊重していることが窺え、印象は悪くない。

 エピソードの抽出についても、恐らく真摯に原作に向き合う限り、本篇のようになるだろう、と理解の出来るものだ。“豚丼”を育てる過程の試行錯誤や、級友・駒場の状況の変化を導いた出来事が省かれていたりするが、肝となるエピソードはきっちりと押さえ、独自の展開を見せる終盤にしても原作の意志を汚していない。

 と、実写化としてはかなり上出来の部類に属するはずなのだが、率直に言えば、なにか物足りない印象を受けるはずである。テーマに対する理解があり、キャラクターに対する敬意や愛着も窺えるのに、トータルでは何かが欠けているような心地がする。

 惜しむらくは、コメディの方向性が原作とはずれてしまっていることだ。笑いの要素はあるが、どちらかと言えば“口許が緩む”程度のもので、コメディではあるが爆笑は誘わない。しばしば振り切れた表現を用いる原作と比較すると物足りないのだ――無論、映画と漫画はまるで異なる表現手法であり、漫画ならではの止め絵かつすべて想像だからこそ可能なくすぐりを映画で用いることは出来ないのだけれど、原作の意図を汲み取った笑いの組み立て、カット割りに工夫を施したテンポのいい表現をするなど、ムードを近づける方法はあったと思われ、そこを切り離してしまったのは惜しまれる。結果、農業の厳しさや愉しさに向き合う若者たちの青春模様をごく素直に織りこんだだけで、もうひとつ突出した印象を残さない丸い仕上がりになってしまった。

 こういった難点は、原作と比較するからこそ眼につくものだ。或いは、原作について知らなければ、農業をめぐる現実をマイルドに表現した良質な青春映画として素直に受け止められるかも知れない。ただ、大ヒットしている原作がある状況であれば、比較されることをもう少し考慮した作りにしてよかったように思う――笑いの部分を除けば非常に、作品のテーマに対して誠実な仕上がりだっただけに惜しまれる。たとえば、原作が既に完結して、しばらく時間を置いたあとに発表されたものだったとしたら、もっとフラットに受け止めることも出来ていたのだろうけれど。



関連作品:

麦子さんと』/『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ

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