『アナと雪の女王(3D・字幕)』

TOHOシネマズ日本橋、施設の地下連絡通路の柱に掲示されたポスター。

原題:“Frozen” / 原案:アンデルセン雪の女王』 / 監督:クリス・バックジェニファー・リー / 脚本:ジェニファー・リー / 製作:ピーター・デル・ヴェッチョ / 製作総指揮:ジョン・ラセター / リード2Dアニメーター:マーク・ヘン / 音楽:クリストフ・ベック / 主題歌:イディナ・メンゼル『Let It Go』 / 主題歌作詞:クリステン・アンダーソン=ロペス / 主題歌作曲:ロバート・ロペス / 声の出演:クリステン・ベルイディナ・メンゼル、ジョナサン・グロフ、ジョシュ・ギャッド、サンティノ・フォンタナ、アラン・テュディック、キアラン・ハインズ、クリス・ウィリアムズ / 配給:Walt Disny Studios Japan

2013年アメリカ作品 / 上映時間:1時間48分(※同時上映『ミッキーのミニー救出大作戦』を含む) / 日本語字幕:松浦美奈

第86回アカデミー賞長篇アニメーション作品・主題歌部門賞受賞作品

2014年3月14日日本公開

公式サイト : http://disney.jp/anayuki/

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2014/03/20)



[粗筋]

 アレンデール王国にはふたりの王女がいる。とても仲のいい姉妹だが、姉のエルサ(イディナ・メンゼル)は生まれつき、問題を抱えていた――触れるものを凍てつかせてしまう魔法を持っているのだ。それは日増しに強くなり、心優しい国王と王妃は頭を悩ませていたが、妹のアナ(クリステン・ベル)は姉の持つ不思議な力を無邪気に受け入れていた。エルサに頼み、雪で出来た生き物を作ってもらったりして喜んでいた。

 だがある日、悲劇が起きる。両親の眼を盗んで遊んでいるとき、エルサの力がアナの身体を冒してしまった。父である国王がすぐさま、森に棲むトロールたちの力を借りて、アナを治すことに成功するが、トロールはエルサの力が今後も強まることを予見、平和に暮らすためには力を制御することを学ばねばならない、と諭す。そのために、エルサが成長するまでのあいだ、彼女の持つ秘密をより厳重に封印することを、国王たちは決める。城の扉や窓を固く閉ざし、必要以外の交流をいっさい遮断した。アナの頭の中からエルサの“力”の記憶を奪い、そのうえでエルサを部屋に押し込め、仲の良かった姉妹が触れ合うことさえ禁じた。

 何ひとつ事情を知らされないアナにとって、理解しがたい悲劇だった。優しかった姉は、扉越しに呼びかけても出て来てはくれず、自分自身も城から出ることを許されない。どうしてこうなったのか、エルサは自分を嫌ってしまったのか? 彼女の気持ちを察するエルサも、扉の奥で心を痛めていた。

 不運はそれだけに留まらない。その後、国王と王妃は、ふたりの娘がふたたび手を取りあう姿を見届けることなく、突然の事故で他界してしまった。数年を経て、エルサは自ら、城門を開ける決意を固める――空位となった王の座に就き、国を統治する、という使命を全うしなければ。

 ようやく暗い城から飛びだして世間に飛びだしていけること、そして大好きな姉とふたたび逢えることに胸を弾ませるアナとは対照的に、エルサは不安に怯えていた。成長した彼女は、己を抑える力も身につけつつあったが、しかし力はそれ以上に強くなっている。決して人前で、“本性”を晒してはいけない。己に言い聞かせ、エルサは数年ぶりに、国民の前に進み出た。

 エルサの努力は報われたかも知れなかった。もし、アナがパーティに訪れたハンス王子(サンティノ・フォンタナ)と出逢わなければ。もし、出逢ったばかりの彼と婚約した、と言い出したりしなければ――



[感想]

 もとはピクサー・スタジオを指揮していたジョン・ラセターが、そのピクサーを傘下に収めたディズニーの長篇アニメーションを統括するようになって以来、ディズニー作品は着実に進化を遂げている。

 ピクサーの作品は、過去から辿っていくと、技術力が着実に向上していることが解る。液体や動物の羽毛、機械の光沢、といったものの3DCGによる表現を研究し、一定の水準を超えるとそれを惜しげもなく作品で披露する、といった趣だ――実際にはテーマが先にあって、それを表現する能力を獲得していった過程なのかも知れないが、いずれにせよピクサーのそうした意欲が、ラセターらスタッフがディズニーに加わることにより、ディズニーとしての作品にも吸収されていったようだ。

 そうして2013年に発表された本篇の際立ったポイントは、“雪と氷”である。

 観ていて“冷たさ”を疑似体感してしまうほど、本篇の雪と氷の表現は鮮やかだ。光沢や透過して見えるものの様子、雪の形状や質感をよほど緻密に研究したにのだろう、私はそもそも最高水準の環境で鑑賞できたので、その表現の備える深みを充分に感じられた、ということもあるのだろうけれど、手を伸ばせば掴めそうな柔らかさ、瞬く間に凍てつく世界の刺すような寒さがあそこまで感じられる表現力には驚嘆するほかない。私たちが持っている、雪や氷の手触りが完璧に描き出されているからこそ、エルサの魔法が生み出す雪や氷、また“動く雪だるま”オラフ(ジョシュ・ギャッド)の質感にもリアリティが感じられるのだ。

 それにしても、ピクサー含む一連の作品を観ていると、人物の表現が洗練された、と思う。最初の頃はまさに『トイ・ストーリー』が限界で、オモチャの人形が動いている、というのが限度だった。『ボルト』や『カールじいさんの空飛ぶ家』の時点でもまだ大幅にデフォルメされたキャラクターに留まっていた印象だが、『塔の上のラプンツェル』、『メリダとおそろしの森』で急速に等身が上がっていき、本篇に至ってほぼ完成された感がある。往年のディズニー・アニメのタッチを、柔らかさや温もりも含めて3DCGで再現しており、ピクサー合流以降、3DCGを導入した作品のなかで最もディズニーらしさを匂わせた作品になっている

 故に、一時期のディズニー・アニメのタッチに苦手意識があるようなひとには抵抗を覚える仕上がり、とも言えるのだが、しかし画風に対するイメージだけで避けるのは勿体ない。本篇は、童話をベースに、基本的にファミリー層を対象にした物語として構成されているが、その内容、語り口もレベルが高い。

 アンデルセンによる童話『雪の女王』がモチーフとなっているが、話はまったく違っている。要素を細かく抽出しているが、大幅に解体し、新たなかたちに再構築したものだ。原典のエッセンスを緻密に盛り込み、その方向性を歪めないままに、この作品ならではのカタルシスを醸成させており、傑出した脚色である。原典ではただの謎めいた脅威でしかなかった雪の女王と、彼女によって害を加えられる少女とを姉妹にする、というひねりに驚かされるが、それがドラマに奥行きを生み出しており、巧みに感情を揺さぶってくる。とりわけ、“真実の愛が凍った心を溶かす”という、原典でも重要な意味を為すモチーフの扱いは出色だ。

 そうしたプロットの完成度を、単独でも高い評価を受けた歌曲がしっかりと支えている。かつて、映画がサイレントからトーキーに転換したあたりからしばらく、映画の花形はミュージカルだったが、本篇にはそんな最盛期のミュージカルの愉しさ、魅力が咲き誇っている。自らを守るためと知らず、閉じこもった姉に向かって呼びかけるアナの歌の愛らしさと切なさに、初めての恋の歓びが横溢するひと幕。アカデミー賞主題歌部門ほか、多くの賞に輝いた“Let it go”を歌うのは姉のエルサだが、単体でも優れたこの曲は、しかし彼女が熱唱するまでの流れで鑑賞すると余計胸に響く。ある意味で解き放たれた歓びと、その歓びに無理に身を委ねようとする虚ろさ、そういった様々な感情が“爆発”するさまを、3DCGだからこそ可能な動きに満ちた映像で彩っている。以前よりも実際に近い等身、繊細な表情や事象の表現力が備わったことで、現実に近く、現実を超えるダイナミックな見せ場が描けるようになり、それが優れた音楽を得たことで成立したこの見せ場こそ、本篇の真骨頂であるのは間違いない。曲単体で聴くのもいいだろうが、この曲をどこかで聴いて気に入ったのなら、いちどは本篇で体感しておくべきだろう。

 いまのところ子供をメイン・ターゲットにする姿勢を保っているディズニーらしく、結末は幸福なものだが、しかしそこに至る経緯は丹念で奥行きがある。繊細な考慮を施し、王道のエンタテインメントを突き詰めながら、大人でも惚れ惚れするようなクオリティを達成した。ディズニーの歴史に残る興収を叩き出し、世評の高かった『風立ちぬ』をあっさりと下してアカデミー賞にも輝いたのは伊達ではない。



 ディズニー作品は日本公開の際、よく短篇を同時上映している。本篇でも、『ミッキーのミニー救出大作戦』という作品が『アナと雪の女王』に先駆けて上映されるのだが――実は私は、これを観た時点で、お金を払った甲斐があった、と感じた。

 最初はスクリーンの中に設けられた小さな枠の中で、モノクロで物語が展開する。これは新作なのか、と疑問を感じ始めたとき、突如としてそのモノクロの画面の外側に、ミッキーたちが飛びだしてくるのだ。

 ディズニーの短篇はしばしば実験的な趣向を用いる。以前にも、モノクロとカラーを巧みに操った実験作があったが、本篇は実験的でありつつ、しかし非常にシンプルで明快だ。スクリーンに充分なサイズがあり、観客が物語世界にのめり込むことに妨げの少ない環境であればあるほど、本篇の趣向は強い効果を発揮する。

 私は今回、この2作品をTOHOシネマズが独自に設定したスクリーンの高品質規格・TCXにて鑑賞したが、考えようによっては『アナと雪の女王』以上に、この規格を活かした映像と言えるかも知れない。さすがにそこまでひねくれた方は少数だろうが、「短篇は別にいいや」とわざわざ序盤を飛ばして入場しているような方がいるなら、素直に最初から鑑賞されることをお薦めする。TCXやIMAXのような高品質のスクリーンで観ようとするならなおさらに。



関連作品:

シュガー・ラッシュ

ボルト』/『カールじいさんの空飛ぶ家』/『トイ・ストーリー3』/『メリダとおそろしの森』/『フランケンウィニー

スノーホワイト』/『イリュージョニスト』/『アーティスト』/『風立ちぬ