『炎のランナー』

TOHOシネマズ六本木ヒルズ、エスカレーター下に掲示された案内ポスター。 炎のランナー [Blu-ray]

原題:“Chariots of Fire” / 監督:ヒュー・ハドソン / 脚本:コリン・ウェランド / 製作:デイヴィッド・パトナム / 撮影監督:デイヴィッド・ワトキン / 美術:ロジャー・ホール / 衣裳:ミレーナ・カノネロ / メイクアップ:メアリー・ヒルマン / 編集:テリー・ローリングス / 音楽:ヴァンゲリス / 音楽コーディネーター:ハリー・ラビノウィッツ / 出演:ベン・クロス、イアン・チャールソン、ナイジェル・ヘイヴァース、ニコラス・ファレル、ダニエル・ジェロール、シェリル・キャンベル、アリス・クリージ、ジョン・ギールグッド、リンゼイ・アンダーソン、ナイジェル・ダヴェンポート、ストルーアン・ロジャー、イアン・ホルム、パトリック・マギー、デニス・クリストファー、ブラッド・デイヴィス、デイヴィッド・イエランド、ピーター・イーガン / 配給&映像ソフト発売元:20世紀フォックス

1981年イギリス作品 / 上映時間:2時間3分 / 日本語字幕:岩佐幸子

1982年8月14日日本公開

2013年4月10日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

第1回新・午前十時の映画祭(2013/04/06〜2014/03/21開催)上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2014/02/26)



[粗筋]

 1978年、イギリス陸上界の重鎮であったハロルド・エイブラムスが亡くなった。

 若き日のハロルド(ベン・クロス)は1919年、ケンブリッジ大学に進むと、陸上競技に情熱を燃やすようになった。短距離では敵なしの戦績を誇り、同期のアンドリュー・リンゼイ(ナイジェル・ヘイヴァース)、オーブリー・モンタギュー(ニック・ファレル)、ヘンリー・スタラード(ダニエル・ジェロール)と共に各競技会で活躍、ケンブリッジの名を轟かせる。

 同じ頃、スコットランドにも陸上で才能を開花させた男がいた。エリック・リデル(イアン・チャールソン)は中国で布教活動に勤しんでいた宣教師の家に生まれ、長じて郷里であるスコットランドに戻ると、ラグビー選手として華々しい活躍を果たす。競技の中で見せた陸上競技の才能を見込まれると、短距離走の選手として競技会に参加するようになる。

 ハロルドとエリックが初めて直接争ったのは、1923年のことだった。この競技会でハロルドは、エリックの後塵を拝してしまう。迫害されるユダヤ人の地位向上のためにもオリンピックでの金メダルが必要だ、と考えていたハロルドにとって、競技に臨む意義を見失うほどの衝撃だった。だが、かねてからハロルドが尊敬し、コーチに就いて欲しい、と頼んでいたサム・ムサビーニ(イアン・ホルム)が手を差し伸べる……



[感想]

 基本的には実話だが、調べてみるとかなりフィクション、潤色が見受けられるようだ。メインであるハロルド・エイブラムスとエリック・リデルは無論実在の人物だし、両者の経歴は事実通りのようだが、ハロルドの友人関係はかなりフィクションが混ざっているし、エリックと妹ジェニー(シェリル・キャンベル)が宗教とスポーツの両立について確執を起こす、というのも事実とは異なるらしい。とりわけ、本篇で最もドラマティックといえるオリンピック直前の出来事は、概要は事実に従っていても、過程はだいぶ脚色されているそうだ。

 だがそれでも、本篇で描かれるアスリートたちのドラマには充分すぎる説得力があり、だからこその意外性、衝撃がある。近代ではあまり取り沙汰されることはなくなったが、この当時は色濃かったはずの差別問題や、別のかたちで耳にすることのある信仰の問題が大きくクロースアップされ、トレーニングなどよりも遥かに選手たちを悩ませているのがリアルだ。こと、信仰の問題からエリックがある決断を下す過程は、現実にかなり脚色を加えているようだが、そうすることによって切実さをいや増すと共に、実際に出場する人間と、支援する人々との思惑の違いをくっきりと浮き彫りにしている。

 差別や信仰も、かたちを変えて残っている問題だが、もっと印象的なのは、オリンピックの精神にまつわる問題である。ハロルドがケンブリッジ大学のお偉方に「学外のコーチに指導を受けるのはアマチュアではなくプロだ」と批判されるくだりがある。似たような疑問はやはり今でも時折取り沙汰されるが、それに対するハロルドの答もまた、今も昔も変わらぬ競技者の本音だろう。

 紆余曲折が非常に複雑に、緻密に描かれているから、単純な根性論や友情の美談に終始するスポーツものよりも奥行きのある熱と感動がクライマックスに生まれる。この成り行きなら、こうした展開を見たかった、という期待を裏切るものだが、しかしそれでも己の意志を貫きとおしたひとびとの勇姿は、清々しい余韻を残す。現実の彼らがどんな想いを抱いたのかは定かではないが、それを過剰に美化することなく、しかし快く切り取っていることは、本篇の傑作たる所以だろう。

 スローモーションや細かなカット割りで繰り返しハイライトを見せる演出はいささかくどく、ひとによっては鼻につくこともありそうだ。しかしそれとて匙加減は絶妙で、誰が観ても大袈裟、というところの手前で踏み止まっている。その丁寧さが、高く評価された所以だろう。

 スポーツを単なる汗と涙の感動物語として軽薄に汲み取るのでなく、ひとの生き様に関わるものとして真摯に採り上げた本篇のパワーは、発表から30年以上を過ぎたいまも衰えていない。



関連作品:

ロード・オブ・ウォー―史上最強の武器商人と呼ばれた男―』/『エイリアン』/『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』/『おとなのけんか

ロッキー』/『ラッシュ/プライドと友情