『清須会議』

TOHOシネマズシャンテ、施設外壁の看板。

監督、原作&脚本:三谷幸喜 / 製作:亀山千広、市川南 / 企画:石原隆 / プロデューサー:前田久閑 / 撮影:山本英夫(J.S.C.) / 照明:小野晃 / 美術:種田陽平、黒瀧きみえ / 編集:上野聡一 / 衣装:黒澤和子 / VFXスーパーヴァイザー:田中貴志 / 音楽:荻野清子 / 出演:役所広司大泉洋小日向文世佐藤浩市妻夫木聡浅野忠信寺島進、でんでん、松山ケンイチ伊勢谷友介鈴木京香中谷美紀剛力彩芽坂東巳之助阿南健治市川しんぺー染谷将太篠井英介、津島美羽、戸田恵子梶原善瀬戸カトリーヌ近藤芳正浅野和之中村勘九郎天海祐希西田敏行 / シネバザール制作 / 配給:東宝

2013年日本作品 / 上映時間:2時間18分

2013年11月09日日本公開

公式サイト : http://kiyosukaigi.com/

TOHOシネマズシャンテにて初見(2013/12/30)



[粗筋]

 織田信長(篠井英介)、本能寺に斃れる。その突然の知らせに、家臣たちは激しく動いた。

とりわけ機敏に行動したのは羽柴秀吉(大泉洋)である。遠方で戦の途中だった秀吉は、だがいち早く移動すると、織田家の宿老のひとり丹羽長秀(小日向文世)とともに、信長に謀反を働いた明智光秀(浅野和之)の討伐に成功する。

 織田家の筆頭家老・柴田勝家(役所広司)は到着が遅れ、本能寺に辿り着いたときには既に、主君は本能寺もろともこの世から消え失せていた。しかし、絶望している暇はなかった――織田家家督を誰が継ぐか、という大問題が残っている。勝家とは竹馬の友でもある長秀は、家臣総出による評定で跡目を決めるべきだ、と提言する。

 勝家と長秀にとって、いまや秀吉は脅威だった。草鞋取りから急激に出世を遂げ、いまや織田家宿老に名を連ねる彼は、光秀討伐の功により更に威光を笠に着る可能性がある。その台頭を抑えるためには、家督争いで秀吉よりも優位な立場を確保する必要があった。

 長秀の呼びかけにより、織田家にとってゆかりの地である尾張国清須に家臣が召集され、評定は行われることになった。仇討ちで遅れを取った勝家はいち早く、織田家三男・信孝(坂東巳之助)に面会して跡継を打診する。出遅れた秀吉は、やむなく“うつけ”と評判の織田家次男・信雄(妻夫木聡)を担ぐことにした。

 臣下の評判では信孝が圧倒的に優位に立っている。しかし秀吉は、知略に長けた参謀・黒田官兵衛(寺島進)とともに策を巡らし、足場固めに奔走した――



[感想]

 三谷幸喜といえば、ビリー・ワイルダーを信奉する、コメディ志向の強い作り手である。それ故に、時代劇とはあまり相容れないイメージがある――というのはさすがに大雑把な捉え方だし、過去に坂本竜馬を題材にした『竜馬の妻とその夫と愛人』があり、のちに大河ドラマに伝説を残した『新選組!』も手懸けているのだから、時代劇、というか歴史ものに対する造詣があることも明白だ。『ラヂオの時間』より始まった自身の監督作品としては間違いなく初めての歴史ものだが、それをして新境地開拓、とは言いにくい。

 三谷監督作品の先行作と本篇との大きな違いは、いちばんビリー・ワイルダー作品の影響が薄れていることではなかろうか――と断言できるほど、私自身はワイルダー作品をそれほどたくさん観てはいないのだが、前作までにあった“洒脱なコメディを目指す”という意識は確実に薄れていると思われる。歴史、それも大局を歪めることなく描こうとする物語のなかで、ちゃんと笑いを誘うくすぐりを欠かさないあたり、意志の一貫性は見られるが、徹頭徹尾コメディたろう、という気負いは、いい意味で窺えない。もしかしたら、『ステキな金縛り』でビリー・ワイルダー監督に対する憧れを一区切りしたからかも知れない。本篇のアイディアは三谷監督が幼少の頃から温めていたものだそうだが、自身の憧れに一つのピリオドがつくこの時機まで待っていたのではなかろうか。

 時代劇とは言い条、コメディ要素は勿論のこと、三谷作品のエッセンスは存分に籠められている。彼の知名度と人望があってこその豪華なキャストを自在に活かし、本人の持つイメージを膨らませた配役もあれば、特殊メイクを施してまで、意外性のある使い方をしている者もある。羽柴秀吉役に配された大泉洋は、実際の秀吉よりかなり大柄だが、構図を駆使してそれをあまり意識させない工夫をしているだけでなく、係累まで含めて耳を大きく作る、という技を用いてまで特徴を際立たせている。お陰で、大泉洋本人が持つ陽性の魅力がいっそう引き立ち、まさにこれこそ“秀吉”、という雰囲気を醸している

 他方、それ以外では意外なキャスティングとイメージで臨んでいる。特に際立っているのは明智光秀織田信長だろう。実際の歴史においても年齢や来歴に謎の多い光秀はかなりの老齢として描き、豪放磊落という印象が先行して猛々しい役者が起用される傾向にある信長に、女形としてのキャリアが長く、近年の出演作でもオカマや中性的な人物に扮することの多い篠井英介を配している。従来のイメージで接すると驚くが、しかし資料に当たってみると、残っている肖像画に近いメイクをしているし、その振る舞いも決して大きな潤色はしていない。決して、ドラマや映画で作られたイメージに囚われることなく、史実を踏まえつつも独自性を感じさせる配役、役作りを試みているのが意欲的だ。このふたりに限らず、眉を落としお歯黒をして貴族の振る舞いをするお市の方(鈴木京香)や松姫(剛力彩芽)の描き方も特筆すべきだろう。

 資料をきちんと検証し、拾うべき素材を厳選して作りあげた設定の上で繰り広げられる物語は、だが決して歴史に縛られすぎて窮屈になることなく、終始奔放に展開して、観客を快く翻弄してくれる。文武両道だが信長ほどの才覚のない信孝を担ぎ上げた勝家に対抗して、信雄を祭りあげた秀吉が飄然と信雄を“大うつけ”呼ばわりするかと思うと、自らも認めるこの重大局面に、お市の方の歓心を買おうと右往左往する勝家の姿が描かれる。秀吉の一見派手で、しかし緻密に計算された足場固めに対し、盟友・勝家を御しきれずに思うように身動き出来ない長秀の懊悩など、その展開ひとつひとつがスリリングでありながら、実に愉しい。こうした歴史の出来事が、命の駆け引きなどなくとも充分に興味深く面白いのだ、というのを存分に実感させてくれる仕上がりである。そうして、たっぷりとお膳立てしたうえでようやく催される会議の、舞台も登場人物も限られているのに実に緊迫したくだりの見応えは逸品だ。

 ただ個人的に惜しい、と思うのは、その会議が決着したあとの描写がいささか冗長に感じられることである。描いたキャラクターたちを軽んじず、そのあとの歴史をも無視できない、という想いから採り入れられているのは察しがつくが、本篇は会議のあと、新たな織田家当主をお披露目した段階でほぼ決着している。出来ればあそこで終わって、そのあとの出来事は、歴史と照らし合わせて想像させてくれても良かったように思えるのだ。

 とはいえ、蛇足と思えるひと幕も退屈させたりしないのはさすがである。それぞれの人柄、格好良さ、潔さをきちんと掬い上げ、一筋縄では行かない才覚や、この時代に生きているからこその心意気を汲みつつも、ユーモラスに、そして劇的に表現して最後まで惹きつける。あとの流れを知ると、やや黒いものも感じさせるのだが、それも含めて余韻は豊潤だ。

 決してチャンバラや人情ものに限らない、歴史という題材の魅力を、三谷幸喜監督らしく引き出した快作である。歴史ものはちょっと……というひとにもお薦めできる。



 ……それにしても天海祐希の使い方は酷かった。実に酷かった。(※褒めてます)



関連作品:

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