『悪の法則』

TOHOシネマズ有楽座、劇場1階下エスカレーター手前に掲示されたポスター。

原題:“The Counselor” / 監督:リドリー・スコット / 脚本:コーマック・マッカーシー / 製作:リドリー・スコット、ニック・ウェクスラー、スティーヴ・シュワルツ、ポーラ・メイ・シュワルツ / 製作総指揮:コーマック・マッカーシー、マーク・ハッファム、マイケル・シェイファー、マイケル・コスティガン / 撮影監督:ダリウス・ウォルスキー,A.S.C. / プロダクション・デザイナー:アーサー・マックス / 編集:ピエトロ・スカリア,ACE / 衣装:ジャンティ・イェーツ / 音楽:ダニエル・ペンバートン / 出演:マイケル・ファスベンダーペネロペ・クルスキャメロン・ディアスハビエル・バルデムブラッド・ピットブルーノ・ガンツ、ディーン・ノリス、ナタリー・ドーマー、ゴラン・ヴィシュニック、トビー・ケベル、エドガー・ラミレス、ロージー・ペレス、リチャード・カブラル、ジョン・レグイザモ / スコット・フリー/ニック・ウェクスラー/チョックストーン・ピクチャーズ製作 / 配給:20世紀フォックス

2013年アメリカ作品 / 上映時間:1時間58分 / 日本語字幕:松浦美奈 / R15+

2013年11月15日日本公開

公式サイト : http://www.foxmovies.jp/akuno-housoku/

TOHOシネマズ有楽座にて初見(2013/12/19)



[粗筋]

 弁護士(マイケル・ファスベンダー)にはローラ(ペネロペ・クルス)という美しい恋人がいる。彼女と結婚し、幸せになるために、弁護士は裏の仕事に手を出した。

 彼に商談を持ちかけたライナー(ハビエル・バルデム)は失策したときの危険を仄めかし、仲介人のウェストリー(ブラッド・ピット)に至っては「いつでも逃げ出す用意はある」とうそぶき、弁護士に警告する。だが、美しい妻に相応しい生活を築くためには金が要る。以前よりも羽振りの悪くなっていた弁護士は、決断した。

 いちど号砲を撃てば、事態は勝手に動いていく。弁護士は平素と同じように自分の仕事をこなした。政府からの指示で弁護したルースという女性囚人に頼まれ、微罪で投獄された彼女の息子が釈放されるよう手配もした。

 だがこの、弁護士にとっては日常の業務の延長でしかない行動が、思わぬ波紋を呼ぶ。彼が助けた男は、麻薬の運び屋だった。バイクを猛スピードで飛ばし、メキシコとアメリカの国境を往還する途中で、運び屋は襲撃を受ける。そして麻薬は奪われた――弁護士が出資し、黙っていても大金に化けるはずだった、大量の麻薬を。

 気がついたときにはもう遅い。既に選択は為された。粛正の嵐と、おぞましい暗闘が静かに始まる……



[感想]

 看板の作り方を間違えた作品、だと思う。

 監督は『エイリアン』『グラディエーター』など、突出したヴィジュアル・センスと安定感のある語り口で巨匠の一人に数えられるリドリー・スコット。脚本は『ノーカントリー』の原作者で、アメリカ文学を代表する小説家コーマック・マッカーシー。主演は『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』『プロメテウス』など話題の大作に出演して注目を集めるマイケル・ファスベンダー、共演にはペネロペ・クルスキャメロン・ディアスハビエル・バルデムブラッド・ピットと大物が揃っている。これだけのメンバーが揃っている、ということを武器に、かなり早い時期から宣伝を繰り広げ、期待を煽ってきた作品である。こと、こういう予告に接してきた者は、どうしても華やかなもの、派手な仕上がりを想像してしまう。

 だが本篇は、率直に言えば華やかでも派手でもない。メガフォンを取ったのがリドリー・スコット監督であるから、映像のクオリティは高いのだが、たとえばアクションや立ち回り、銃撃戦、息を呑むような攻防、といった見せ場には乏しい。むしろ、大したことは何も起きていない、と言ったほうが正解だろう。

 見せ場の作り方に失敗したのか、と問われれば、そうではない。本篇の眼目は、そうした能動的な行為ではなく、たったひとつ、一度きりの選択がすべてを決してしまう、物事の無慈悲さを題材としているのだ。

 そして、そんな中でのひとびとの振る舞い、言動にこそ本篇の真価はある。随所で交わされる啓発的な会話が、弁護士の踏み込んだ領域の危険性を仄めかし、終幕を重く演出する。もはや動かしようのない運命に、ただただ翻弄されるしかない、その様こそが本篇の主題なのである。

 この、いわば嵐の前の木っ端にも似た登場人物たちに、名の通った俳優が血肉を与え、その体験に実感を与え、言葉の重みと、裏腹な虚ろさを強調する。どれほど事情通ぶって、賢しらなことを口にしていても、把握しきれない事態には対処できない――たったひとつの選択によって定められた結末を辿らざるを得ない姿が、非常に生々しいのだ。ただひとり、事態をコントロールしようとしている人物がおり、その振る舞いには不気味さもつきまとうが、その人物でさえも、結局すべてを思い通りに動かせたわけではないことは物語から読み取れる。自ら呟いた通り、ここから更におぞましい戦いが繰り広げられ、その人物でさえ犠牲になることも想像に難くない。

 本篇は言ってみれば、登場人物が自らの意志で物語を動かす、という予定調和に突きつけたアンチテーゼなのだろう。果たして本当に、いちど下した決断を覆すことは可能なのか。いったいどこまで取り戻せるものか。あらゆるものは、例外なく不可逆なのではないか、と。

 実は本篇、脇役もなかなかに豪華なのだ。名前を挙げても解らないかも知れないが、この俳優は他の映画でもけっこう観る、と思い当たるような人物が大量にちらほらと姿を見せる。とりわけ、『ムーランルージュ!』でロートレックをコミカルに演じ、主演作まであるジョン・レグイザモがノンクレジットでさらっと顔を見せているのには個人的に驚いた。

 それほどの面子が、重厚に演じた人物たちでさえ抗えない、選択の残酷さ。それこそが本篇の着目点なのだ。だから、大物たちを配したことも、その内容も全く狙いを外していない。ただ、そこに期待しすぎてしまうから、何か物足りなく感じてしまう。私が「看板の作り方を間違えた」と表現してしまう所以である。

 正直、難しい注文ではあるが、本篇を鑑賞する際は、スタッフ・キャストのことをいちど忘れるほうがいいのかも知れない。虚心に観て、物語の訴える虚しさに、いちど心を刳り抜かれてみないと、本篇は真価を発揮できない――だからやっぱり、問題は看板なのだ。



関連作品:

エイリアン

プロメテウス

ノーカントリー

X-MEN:ファースト・ジェネレーション

エージェント・マロリー

それでも恋するバルセロナ

007/スカイフォール

グリーン・ホーネット

ワールド・ウォーZ

ムーランルージュ!

劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〔新編〕 叛逆の物語