『ウルヴァリン:SAMURAI(3D・字幕)』

TOHOシネマズ日劇、外壁の看板。

原題:“The Wolverine” / 監督:ジェームズ・マンゴールド / 脚本:マーク・ボンバック、スコット・フランク / 製作:ローレン・シュラー・ドナー、ハッチ・パーカー / 製作総指揮:スタン・リー、ジョー・カラッシオロJr. / 撮影監督:ロス・エメリー / プロダクション・デザイナー:フランソワ・オデュイ / 編集:マイケル・マカスカー,A.C.E. / 視覚効果スーパーヴァイザー:フィリップ・ブレナン / 衣装:アイシス・マッセンデン / 音楽:マルコ・ベルトラミ / 出演:ヒュー・ジャックマン真田広之、TAO、福島リラ、ハル・ヤマノウチ、ウィル・ユン・リー、ブライアン・ティー、スヴェトラーナ・コドチェンコワファムケ・ヤンセン、山村憲之介 / ドナー・カンパニー/ジョン・パレルモ製作 / 配給:20世紀フォックス

2013年アメリカ作品 / 上映時間:2時間5分 / 日本語字幕:松崎広

2013年9月13日日本公開

公式サイト : http://www.foxmovies.jp/wolverine-samurai/

TOHOシネマズ日劇にて初見(2013/09/13)



[粗筋]

 第二次世界大戦末期、ウルヴァリンことローガン(ヒュー・ジャックマン)は日本にいた。涸れ井戸の底に監禁されていた彼は、外界の騒々しさに、蓋の隙間からうかがい見ると、襲来するB29に逃げ惑う人々の姿があった。捕虜を解放していた若い軍人(山村憲之介)が、自分に対しても逃げるように呼びかけるのを、もう間に合わない、と井戸のなかに招き、やがて吹き寄せる熱風から庇った。

 ――そして現代。

 ローガンはカナダの山中で、仙人さながらの生活を送っていた。背中から襲われた熊を見つけて激昂、ハンターを痛い目に遭わせていたローガンは、赤毛のアジア人に止められる。彼女はローガンを外に連れ出し、車に乗るように言った。

 ユキオ(福島リラ)と名乗ったその女は、逢わせたいひとがいる、とローガンを日本に招く。彼を待っているのは、あの日の軍人、矢志田(ハル・ヤマノウチ)であった。その後、巨万の富を築き、日本の経済界を左右するほどの地位を得た矢志田だが、現在は病に冒され、死の危機に瀕しているという。日本行きを望まないローガンだったが、矢志田に別れを告げるだけ、という約束をして、ユキオに同行する。

 病の床にいる矢志田は、かつて命を救われたお礼に、ローガンに“死”を与えたい、と告げた。彼が招いた生理学の専門家は、ミュータントであるローガンの持つ治癒能力を移植する術を開発した、というのだ。ローガンは取りあわず、約束通りに翌日には日本を発つ、と告げる。その晩、屋敷はにわかに騒動となり、矢志田を乗せたストレッチャーが屋敷から運び出された。

 翌日、寺で催された矢志田の葬儀は、物々しい雰囲気に包まれていた。その権勢ゆえにヤクザからつけ狙われている矢志田家の人々を警護する者はみな武装している。そして、いよいよ葬儀も佳境、というとき、僧侶のひとりの挙動を怪しんだローガンが、矢志田の孫娘マリコ(TAO)に警告したとき、僧侶を装った暴漢の放った銃弾が、ローガンの胸を貫いた――



[感想]

X−MEN』シリーズの前日譚『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』が公開された時点で、実は「次回作は日本になる」という話が出ていた。原作でウルヴァリンが日本に滞在し、日本人女性と結婚していた、というエピソードがあるため、もし続篇を作るのなら、という仮定の話であったが、果たしてどれほどのひとが鵜呑みにしていただろうか。

 この“口約束”が実現した要因の1つには、ウルヴァリン役を演じたヒュー・ジャックマンが大の日本贔屓であったことが挙げられる。当初から誰よりもこの計画に乗り気だったらしい彼が、東日本大震災から1年半程度で日本ロケを行う、という撮影プランを相当に後押ししたようだ。2012年の夏から初秋にかけて、休日に子供と富士登山に赴く様子を嬉々としてツイートしていたことが話題となったことを記憶しているひとも多いはずである。その後も出演した『レ・ミゼラブル』のキャンペーンでも再度来日、更に本篇の公開に合わせてまたしても日本を訪れるなど、その傾倒ぶりに日本人のほうが恐縮してしまうほどだった。

 そんな彼が旗頭となった本篇は、それ故にほかの、たとえば『エレクトラ』や『ファンタスティック・フォー:銀河の危機』あたりで提示された日本像に比べると、だいぶ違和感がない――とは言い条、あくまで比較問題であり、やはりどこか不自然だ。しかし、従来のそうした作品より好感が持てるのは、態度が冷静だからだろう。豪邸が崖際に建っていたり、民家でも妙なところに堀が掘られていたり、とちらほらと垣間見える奇異なポイントを「これが正しい」と強調しない一方で、“腹切り”などという言葉を使わず静かに自決する軍人の姿や、茶碗に箸を立てるローガンを「縁起が悪いから」とたしなめたり、父のあてがった婚約者を「身内の恥になるから」と受け入れるマリコの言動など、日本人独特の文化や気質をさらっと、押しつけがましくなく入れる辺りに理由がありそうだ。矢志田家を守るひとびとの姿が明らかに忍者であったり、クライマックスでは更に異様な日本建築が登場するなど、過剰なモチーフが随所に見られるが、そういうところをフィクション故の誇張と割り切って行う一方で、可能な限り本当の日本文化に敬意を払っているのは感じられる――これで腹立たしく思うようなら、たぶんそもそもフィクション、ひいては他国の人間が日本を扱った映画やドキュメンタリーにも接しないほうが無難だ。

 ただ惜しむらくは、率直に言って、シナリオが粗い。ところところで無駄な要素や、掘り下げの甘い描写が目につく。観終わってみると、あそこでの襲撃にはどんな意味があるのかが不明だし、入り乱れる策略のそもそもの狙いが解らないまま終わってしまっている、というものも多い。何処がどう、と細かく触れるのはとりあえず避けたいが、ウルヴァリンを除くほとんどのキャラクターが、その設定を活かし切れていない。

 とりわけ、一連の事件を引き起こした張本人自身が最後に取る策は、どう考えても無駄がありすぎるのはいただけない。ヴィジュアルの過剰を追求した結果なのかも知れないが、あんな大仰なものをあんな目立つところに置いて、最終目的をああいうかたちで果たすのは、さすがに「観客を意識しすぎ」だろう。いくら派手さが性分のヒーロー・アクションと言い条、もうちょっとぐらい「こういうことならありそうだ」という印象を添える工夫が欲しかった。

 しかし恐らく、観ているあいだはほとんど、そういう欠点は気にならない――なっても意識している暇はない。それほどにテンポが良く、勢いが途切れないのだ。日本人としては、随所に登場する、明らかにセットではない“ありのまま”の日本の光景が織りこまれていること、その一方で人物の行動が実際の地理と矛盾していること(寺院からの逃走のシーンは、増上寺から秋葉原万世橋を通り、上野に徒歩で向かい、そこから新幹線で長崎を目指す、という謎の移動が見られる)に気を取られてしまう、というのもあるが、それを抜きにしても、危機や逃走劇が繰り返され、その都度展開する激しいアクションに魅せられ、一方でローガンが過去の亡霊に悩まされたり、といったドラマを巧みにちりばめ、飽きさせることがない。

 日本が舞台、という点が大きくクローズアップされているが、しかしやはり本篇の中心は“ウルヴァリン”なのだ。彼の魅力を描き出す、という一点においては徹底され、ほとんど隙がない。不死であるが故の悲しみや迷い、翻って、初めて味わう“死”に対する恐怖や、背負い続ける罪悪感との葛藤、そんななかにあっても捨てることの出来ない矜持や正義感、といったものを剔出し、そして撮影のために鍛え上げたヒュー・ジャックマンの肉体美が生み出すアクションは、三本爪や肉体の状態を活用して見せ場に欠かない。特に、新幹線の上での死闘は、日本特有のモチーフをハリウッドらしい大胆さで演出し、インパクトは強烈だ。

 観終わって感じるのは、やはりそんなウルヴァリンと、日本の“侍”というものについて世界で信じられている価値観とが、実はいい具合で共鳴する題材であったのに、それを充分に表現出来ていない惜しさだ。このモチーフを掘り下げていけば、恐らくクライマックスの描き方、最後にローガンが選ぶ身の処し方は、ああはならなかったはずだ。感じ方は人それぞれなのは確かだが、本篇の締め括りはあまり腑に落ちない、というひとのほうがたぶん多いと思う。

 全体を俯瞰すると、プロットの粗さがかなり際立つ内容になってしまっているのは否めないが、しかし観ているあいだはハラハラドキドキが途切れない。もっと掘り下げて欲しい部分が多々あるのも事実だが、その反面、描写の端々に垣間見える誠実さと熱意は、最後まで観る者を牽引する。傑作とは呼べないが、しかしちゃんと気概は感じられるエンタテインメントである。



 なお、これまでのマーヴェル関連作に親しんでいるひとなら、そんな愚を犯すことはないだろうが、念のために「エンドロールに入った途端に席を立つべきではない」と注意しておきたい。本篇で“復活”を遂げたウルヴァリンについての消息が、ここであっさり断たれるわけではないようだ――映画版『X−MEN』シリーズ成功の立役者であるブライアン・シンガーが監督として復帰し、『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』でシリーズのクオリティを高めたマシュー・ヴォーンが脚本と製作を兼ねるかたちで組んだ、シリーズ本筋の最新作『X-MEN : Days of Future Past』が、2014年公開に向けて準備が進められている。



関連作品:

ウルヴァリン:X-MEN ZERO

X-MEN2

X-MEN:ファイナル ディシジョン

X-MEN:ファースト・ジェネレーション

“アイデンティティー”

3時10分、決断のとき

ナイト&デイ

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スピード・レーサー

007/ダイ・アナザー・デイ

96時間 リベンジ

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ファンタスティック・フォー:銀河の危機