『真夏の方程式』

TOHOシネマズ西新井、スクリーン8入口に掲示されたチラシ。

原作:東野圭吾(文藝春秋刊) / 監督:西谷弘 / 脚本:福田靖 / 製作:亀山千広、畠中達郎、平尾隆弘 / 撮影監督:柳島克己 / 照明:鈴木康介 / 美術:清水剛 / 装飾:田口貴久 / 編集:大河原将 / VFXディレクター:山本雅之 / 音楽:菅野祐悟 / 出演:福山雅治吉高由里子北村一輝、杏、山粼光、西田尚美田中哲司塩見三省、白竜、永島敏行、風吹ジュン前田吟青木珠菜、仁科貴 / 制作プロダクション:FILM / 配給:東宝

2013年日本作品 / 上映時間:2時間9分

2013年6月29日日本公開

公式サイト : http://www.galileo-movie.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2013/09/11)



[粗筋]

ガリレオ”の通称で知られる、帝都大学物理学科准教授湯川学(福山雅治)はその夏、玻璃ヶ浦という港町を訪れた。この沖合でレアメタル採掘計画が持ち上がり、手つかずの海を守ろうとする反対派らを多数含む住人たちへの説明会に、アドヴァイザーとして参加するためである。

 長期間に及ぶ説明会のため、湯川は現地に宿を取った。緑岩荘というその宿で、湯川は柄崎恭平(山粼光)という少年と出会った。往路の車中でいちど言葉を交わした彼は、両親が多忙になる夏のあいだ、伯母の川畑節子(風吹ジュン)が夫・重治(前田吟)とともに営む緑岩荘に預けられているのだ。子供嫌いの湯川は関心を抱かなかったが、ほかに遊ぶ相手がなく、道中に“博士”の知恵を見せた湯川に恭平は興味を抱き、ことあるごとに接触を試みた。

 間もなく、事件が起きた。説明会に参加し、湯川と同じ緑岩荘に泊まっていた男性が夜に行方をくらまし、翌る日、海岸で遺体となって発見されたのだ。現地の警察は夜の散歩中に転落した、という仮定で捜査を進めていたが、男性の身柄が判明すると、状況がにわかに変わる。死亡した男性は塚原正次(塩見三省)といい、1年ほど前に退職した元刑事であった。しかも検死の結果、死因は転落によるものではなく、一酸化中毒であり、事件性が疑われる。事態を知らされた警視庁の草薙俊平刑事(北村一輝)は、同じ宿に湯川が泊まっていたことに気づくと、最近、湯川に捜査の協力依頼をする際の担当となっている後輩・岸谷美沙刑事(吉高由里子)を現地に送りこみ、所轄署とは別ルートで捜査するように手配する。

 それでも依然として事件に関心はなく、肝心の調査会への参加よりも、理科嫌いという恭平に科学の面白さを理解させることに熱心になっていた。だが、そんな湯川も、あることに気づいたが故に、捜査に関与せざるを得なくなる……



[感想]

 本篇より約5年前に公開された『容疑者Xの献身』は未だ記憶に新しい。既にドラマシリーズのかたちで確立された探偵役・“ガリレオ”こと湯川学のキャラクターに、原作で提示された要素を可能な限り壊さずにそのまま映像化したシナリオ、“孤独な天才”という犯人に庇護されるヒロインの儚げな佇まいなど、映像化に対しては反発を抱くことの多い原作ファンを納得させ、映画ファンをも唸らせる丁寧な作りで、高い評価を得ることに成功した。その後、沈黙を経て2013年にドラマ版第2期が放映され、その終了直後に劇場公開されたのが本篇である。

 如何せん、『容疑者Xの献身』はミステリとしての発想が傑出し、それが見事に観る者のココロを揺さぶるドラマと直結していた――それ故に原作は直木賞にも輝いたほどで、忠実を心がけたが故に映画版も傑作となった。それと比較すると、正直なところ本篇は少々物足りなさを禁じ得ない。

 ドラマ版第2期以降の原作は読んでいないので、どの程度忠実なのかは解らないが、ミステリとしての完成度は決して低くないあたり、大きく内容を破壊していないのは同じなのだろう。ただ残念ながら、未読でもだいたい察しがつくほどに、本篇の謎は比較的読み解きやすい――こういうのはひとによって個人差があるので、どのくらい早く仕掛けに気づいたか、というのはあまり評価の材料にすべきではないのだが、仮にギリギリまで気づかなかったとしても、冷静に構造を考えていくと単純と感じるはずだ。過去の事件と現在の事件の繋がりが大きなポイントだが、過去の事件は「よくこれでこんな展開になったものだ」と首を傾げてしまうし(実際にああいう展開はあり得ないものではないが)、現在の事件のからくりにしても、恐らくあれほど細かく現場を見回っていれば、湯川ほどの頭脳を持たなくとも真相に至ったのではなかろうか。

 ただ、その謎とドラマの面白さが密接に絡みあっている点では、決して前作に劣らない。多くの人間が見せる表情の裏に隠れた秘密が、最後に複雑に絡みあって演出する“解決篇”のインパクトは強烈だし、湯川と事件との縁が生まれた流れと、最後まで彼が口外を躊躇っていた理由とが判明する終盤は特に印象深い。

 前作が冬に繰り広げられた、切ないほどの片恋の物語であったに対し、本篇にはひと夏の冒険、といった趣がある。基本的には湯川の視点で綴られているために、その気配を感じ取りにくいきらいもあるが、彼に関心を抱く少年・柄崎恭平の視線に立って鑑賞すると、その感は強くなる。家族の都合でひとり送り届けられた田舎町で出会った風変わりな人物と、殺人事件という魅力的な出来事。見るからに気難しそうな湯川が、少年の手を引っ張るようにして導いたある“実験”のひと幕。そのときめくような描写は、羨望を抱くほどだ。そしてそれがただ甘いだけでなく、終盤で苦さを帯び、少年に成長を促すのである。もし完全に少年の目線で描いたとしたら、ミステリとしての堅牢さはやや失われただろうが、それはそれで少年の成長物語としての優れた“冒険譚”にすることも可能だっただろう。

 決して過剰に煽ることなく、しかし過去の事件についての調査や、湯川の言動を軸にして起伏を生み出す。前述した湯川の実験や、随所に鏤められたダイビングの映像など、盛り込まれた情景の美しさが、作品の優しくも切ないムードを膨らませる。“その後”について多くを語らない結末のもたらす余韻も清々しい。前作には及ばない、とは言い条、作品世界の備える美点を充分に引き出した、良質なミステリ映画としての精神は見事に継承している。



関連作品:

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