『ヴァンダの部屋』

ヴァンダの部屋 [DVD]

原題:“No Quatro da Vanda” / 監督、脚本&編集:ペドロ・コスタ / 製作:フランシス・ヴィラ=ロボス、カール・バウムガルトナー、アンドレス・ファエフリ / 撮影監督:ドミニック・オーヴレイ / 録音:フィリップ・モレル、マシュー・エンベール / 出演:ヴァンダ・ドゥアルテ、ジタ・ドゥアルテ、レナ・ドゥアルテ、アントニオ・セッド・モレノパウロ・ヌネス / 配給:シネマトリックス×シネヌーヴォ / 映像ソフトレンタル版発売元:ゼイリブ / 映像ソフトセル版発売元:GENEON ENTERTAINMENT

2000年ポルトガル、ドイツ、フランス合作 / 上映時間:3時間 / 日本語字幕:横関裕子 / 字幕監修:木下眞穂

2004年3月13日日本公開

2004年11月5日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

公式サイト : http://www.cinematrix.jp/vanda/

DVD Videoにて初見(2013/09/09)



[粗筋]

 ポルトガルリスボンの移民街に、ヴァンダは暮らしている。街は再開発が決まり、毎日のように住人が立ち退き、建物を壊す重機の轟音や鎚の響きが騒々しい。

 だがヴァンダたち一家は、変わらずに生活を続けていた。野菜を売り歩き、逮捕された姉の面会に出かけ、そして年がら年中、灯りのない部屋で薬物に溺れている。いつからこんな生活になっていったのか覚えていないが、いまさら暮らしを変えようはなかった。

 ヴァンダの幼馴染みである黒人青年パンゴは、間もなくこの地を去るため、引っ越しの準備に追われていた。と言っても身の回りのものは少なく、売れるものを売って、新しい住居を捜そうとしているが、ままならない。破壊される街の小さな部屋で、友人たちと共に、腕に刺した注射針をぶら下げて、途方に暮れるばかりだった……



[感想]

 観ていて不思議な感覚に陥る作品である。奇妙なリアリティ、何が起きているわけでもないのに惹きつけられ、映像の向こう側に隠れている事実の質量に圧倒される。

 実は本篇は、ドキュメンタリーなのだという。日本ではこれが初紹介となったペドロ・コスタ監督の先行作『骨』に出演していた本篇の中心人物ヴァンダが、「この話はこれで終わらないと思う」と語り、その後監督は少人数のスタッフと共に彼女らの住環境に入り込み、2年間にわたって密着、撮影を行ったのだという。

 だからこそ、フィクションではあり得ないくらい、明快な筋が存在しない。わざとらしい芝居もなく、それでいて言動には異様なほどの生々しさが染みついている。

 しかし、予め本篇がドキュメンタリーであることを知っていると、その撮影の仕方が奇妙に思えてくる。撮影隊は出演者たちに問いかけることはなく、見たところ何らかのアプローチも施していない。取材対象の言動を淡々と、ほとんどカメラを動かすこともなく撮影し続ける。もし、それぞれの場面だけをいきなり撮影しようとしたら、対象となったひとびとは恐らく「何を撮っているのか」と気になり、平素と同じ行動など出来ないだろうし、“見られている”ことに留意し、法を犯している可能性のある振る舞いは控えたのではなかろうか。だが本篇は、中心人物であるヴァンダは冒頭から薬物を吸引している様を捉えているし、随所で事件性の感じられる出来事について赤裸々に語る。ドキュメンタリーだからありのままを見せて欲しい、語って欲しい、と要請しても、簡単にこの境地には達しないだろう――そういう事実だけ考慮しても、確かに本篇には途方もない時間と根気とを費やして、登場人物たちに密着し、彼らが撮影隊を“空気”程度に認識するまでに浸透することで、本篇に用いる素材を作りだしていったことが察せられる。

 常識外れの撮り方が本篇の、物語はないのに吸い込まれるような空気感を生み出している。本篇から匂い立つのは、まさに“ここでしか生きられない”ひとびとの、息苦しいまでの生活感なのだ。

 フィクションならば、この苦境から逃れようとするひとびとを描きそうなものだが、破壊されていく街に意地でもしがみつこうとし、それでいて彼らの生活を蹂躙する権力に何ら手向かいもしていないことに不審さえ覚えるかも知れない。ただ、そうやって生きていくしかないひとびとの姿を、決して飾ることなく剥き出しのまま見せつけられる。彼らが交わす会話の端々からもほの見える、抜け出すことのない現実が、巨大な壁となって迫ってくるかのようだ。

 最後まで観たところで、こうした事態に決着はもたらされず、解決の糸口も見えない。そういうものだ、と突きつけて、本篇は忽然と幕を下ろす。実際にはなにも終わらず、恐らく街が破壊されたあと、彼らは新しい場所で、新たな現実の過酷さに直面しながら、細々と生きていくのだろう――そういうことまで伝わってくるから、なおさらに重い。

 どれほど優れた俳優たちを揃えても、どれほど技術を鍛えたスタッフを結集しても、こういうものは撮れない。従来とは異なるアプローチだからこそ生み出し得た、凄まじい映画である。“面白い”と言ってしまうのはためらうし、台詞の行間や沈黙の端々からなにかを嗅ぎ取るような見方をえんえん続けることが出来ないひとにとっては苦痛の3時間になるだろうが、しかし神経を配って鑑賞すれば、極めて“興味深い”作品であることは間違いない。



 ちなみに、ここで長年暮らしていた移民街を逐われたひとびとのその後は、2006年製作の『コロッサル・ユース』で描かれているようだ。あいにく、レンタルでは取り扱っているところが見当たらないため、私が接するのはいつになるか解らないが、興味と機会がある方は前述の『骨』と併せて鑑賞してみるのもいいだろう。



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