『エヴリシング・オア・ナッシング:知られざる007誕生の物語』

原題:“Everything or Nothing : The Untold Story of 007” / 監督:スティーヴァン・ライリー / 脚本:スティーヴァン・ライリー、ピーター・エテッギ / 製作:ジョン・バトセック、サイモン・チン / 撮影監督:リチャード・ヌメロフ / プロダクション・デザイナー:エリック・レール / 編集:クレア・ファーガソン / 出演:バーバラ・ブロッコリ、マイケル・G・ウィルソン、サム・メンデスジョージ・レーゼンビー、ロジャー・ムーアティモシー・ダルトンピアース・ブロスナンダニエル・クレイグ / アーカイヴ映像出演:イアン・フレミングアルバート・R・ブロッコリ、ハリー・サルツマン、ジョン・バリー、シャーリー・バッシー、ショーン・コネリー

2012年イギリス作品 / 上映時間:1時間38分 / 日本語字幕:藤沢睦実 / 字幕監修:酒井俊

2012年10月27日第25回東京国際映画祭特別招待作品として上映

日本劇場未公開・映像ソフト未発売

WOWOWにて初見(2013/08/03)



[粗筋]

 1962年、第1作が公開されて以来、半世紀、23作にわたって制作されてきたスパイ・アクションシリーズ『007』。映画史に類を見ない長寿と人気を誇るこのシリーズだが、その歴史は波乱に満ちたものであった。

 第二次世界大戦の際、イギリスの諜報部員として実際に活動していたイアン・フレミングによる原作小説の誕生に始まり、その映画化に至るまでの紆余曲折、製作を巡る騒動や確執、そして6代にわたる“ジェームズ・ボンド”俳優の変遷など、シリーズが辿った歴史を、関係者の証言や秘蔵映像をもとに綴っていく……。



[感想]

 2012年、シリーズ第23作目となる『007/スカイフォール』公開、そして第1作の公開から50周年を記念して製作されたドキュメンタリーである。

 ある程度映画に親しんできたひとなら、たとえスパイ映画、アクション映画に関心がなくとも、『007』が辿ってきた苦難の歴史はある程度知っているだろう。過去についてまったく学んでいないとしても、近年のシリーズが提供がMGM、劇場配給はSony Pictures、映像ソフトの発売が20世紀フォックスと権利が錯綜しているあたりから、複雑な背景を察知することは難しくない。

 本篇では関係者の証言によって、原作小説の誕生から映画化の事情などを綴っているが、いずれも基本的には既知のもので、新発見といえる事実はないように映る――むしろ私以上に詳しい方や、シリーズについて深く掘り下げた愛好家からすれば発見があるのかも知れないが、全体的にはそれなりに知られた話ばかりが並んでいる。イアン・フレミングが抱えていた鬱屈や、最初の映画化を巡るゴタゴタ、そして新しい製作者の登場による権利の紛糾、といった話も、それだけなら知識として持っているひとが多いはずだ。

 ただ、ちゃんとそれらの出来事を、関係者がその当時に発した言葉を引用し、周囲のひとびとから証言を得て、きちんと理解しやすいように並べている。考え方はシンプルだが、それ故に明快に、このシリーズが辿ってきた“苦難”の歴史を巧みに綴っている。作中のジェームズ・ボンドの冒険に勝るとも劣らぬ波瀾万丈ぶりは、意外なほど見応えがあって面白い。

 このドキュメンタリーにとって、シリーズの誕生に関わったひとびとがほとんど物故している、或いは引退しているのは考えようによっては幸いだったかも知れない。当時のニュース映像や資料映像によって、当事者の実感を引き出すのと同時に、周囲のひとびとから可能な限り客観的な証言を得て、冷静に再構築することが可能になった。イアン・フレミングが原作を発表した当時に受けたバッシングや、作を追うごとに味わった苦悩、彼の作品に魅せられ映画化への努力をしたアルバート・“カービー”・ブロッコリが、成功を勝ち取ったあとに見舞われた災難。結果としてカービーを苦しめた張本人だけがやや悪者扱いされている節はあるし、そちらの関係者の率直な想いはややお座なりにされた感はあるが、基本的は現在の製作者側の立ち位置から、可能な限り公平に描き出していると言えよう。

 現在、衣鉢を継ぐかたちで製作に携わるバーバラ・ブロッコリやマイケル・C・ウィルソンの、最初の製作者の意志を知っているからこその迷いや悩み、また歴代のジェームズ・ボンド俳優たちの率直な想いを汲み取っているのも興味深いところだ。現在は表舞台から退いてしまった、初代ボンド=ショーン・コネリーの最新のコメントが得られていないことは残念ながら、それ以降のボンド俳優すべてが本篇のインタビューを受け、かなり率直にそれぞれの心境を語っている。最高のはまり役であったショーン・コネリーから引き継ぎながらも、有頂天になってしまったために1作限りでハシゴを外されてしまった2代目ジョージ・レーゼンビー。余計にハードルが上がってしまい、興収面でも次第に不利を背負い始めた頃に3代目として就任、自身の性格に合わない暴力的なキャラクターと人気作の重責に苦しみながらもショーン・コネリーに並ぶ(そして公式作としては最多の)7作品でボンドに扮し、シリーズを支えてきたロジャー・ムーア。出演は2作のみとなったものの、深みのある人物像を表現することに挑んで一部のファンから評価を受け、私個人としてはのちのダニエル・クレイグに引き継がれる路線の端緒を作ったと言いたいティモシー・ダルトン。個人的には、実は当初は4代目としていちどオファーを受けていたというピアース・ブロスナンの話が興味深かった。ジョージ・レーゼンビーが今となっては当時、天狗になってしまったことを悔んでいたくだりや、作品自体はヒットさせながらも制作側が911の影響で再度の路線変更を考えたことを受け、製作者が気遣いながらも21作目に起用しないことを告げられて、やむなく頷いた、というピアース・ブロスナンの表情、さらに当時批判の多かったダニエル・クレイグの起用に、乗っかってしまったという『スカイフォール』監督のサム・メンデスの発言など、事情を知っているか否かに拘わらずニヤリとさせられる場面もある。

 シリーズを愛するひとは無論、『007』をよく知らない、というひとにとって、シリーズにより親しみ、より深く知るうえで、好個の1本となっている。



 ちなみに本篇は、第25回東京国際映画祭の特別招待作品として上映されただけで、一般公開は行われず、2013年8月現在、単独での映像ソフト発売もされていないようだ。その代わり、WOWOWでは放送されており、会員向けのオンデマンド配信でも鑑賞出来る(2013年8月時点では、10月12日までの限定配信と告知されている)。ほかにも観る方法があるかも知れないが、取り急ぎご覧になりたい方はWOWOWと契約してみるのも一興かと……これ1作のために契約するのは微妙だろうけど。



関連作品:

007/危機一発(ロシアより愛をこめて)

007/ゴールドフィンガー

007/消されたライセンス

007/ダイ・アナザー・デイ

007/カジノ・ロワイヤル

007/慰めの報酬

007/スカイフォール

ネバーセイ・ネバーアゲイン