『怪談新耳袋殴り込み!<地獄編>【前編】』

怪談新耳袋 殴り込み!<地獄編 前編> [DVD]

監督:市川力夫、青木勝紀 / プロデューサー:丹羽多聞アンドリウ、山口幸彦 / ラインプロデューサー:後藤剛 / 撮影:今宮健太 / 編集:佐藤周、青木勝紀 / 音楽:スキャット後藤 / 主題歌:藤田恵名『残響ビュッフェ』 / 出演:ギンティ小林田野辺尚人、市川力夫、青木勝紀、後藤剛、今宮健太、山口幸彦、はち、わらびん、木原浩勝、中山市朗、mono(神聖かまってちゃん)、劔樹人 / 制作:シャイカー / 映像ソフト発売元:BS-TBS、KING RECORDS

2013年日本作品 / 上映時間:1時間40分

2013年7月10日映像ソフト発売 [DVD Video:amazon]

公式サイト : http://www.nagurikomi.net/

DVD Videoにて初見(2013/07/10)



[粗筋]

 このところ、毎年のように監督の交代劇が続いていた『怪談新耳袋殴り込み!』シリーズだが、今年の変化はひと味違っていた。昨年、撮影&編集から監督へと昇格した青木勝紀はクレジットに名前を留めるが、撮影後の仕上げを担当する立場になり、現場での仕切りは市川力夫が担当することになった。もともと映画秘宝編集部にアルバイトとして所属し、車の運転や雑用にこき使われ、あるときは“シックスセンス”と呼ばれ持てはやされたかと思えば、成績を残せないと途端に貶められ……新耳Gメンたちの、いい大人とは思えない振る舞いに翻弄され続けてきた彼だが、それ故に全メンバーの人柄や、シリーズの作りを熟知している、ということが買われ、抜擢されたのである。

 だが、力夫には不安があった。新耳Gメンでの活動歴は長いが、未だに最年少である自分の指示に、現場でしばしば尻込みする面々が果たして簡単に従ってくれるだろうか? そこで力夫は、某渓谷にて行われた最初の撮影で、特殊なミッションを用意する。

 深夜の単独行動のなかで、現場における自分の指示に、決して逆らわない、という趣旨の書状に、署名と捺印とを行うように指示したのだ。

 この奇矯な、しかし妙に深刻なミッションを皮切りに、いつも以上に過酷な取材が始まった――



[感想]

 もはや毎年夏の恒例となった感のある『怪談新耳袋殴り込み!』シリーズは、2011年よりまさかの劇場版がスタート、上映館であるシアターN渋谷のレイトショーにおける動員記録を打ち立てるなど伝説を残したが、2012年にシアターN渋谷が閉館、拠点を失うという危機に見舞われる。だが、それにも懲りることなく、2013年も劇場版の公開が決定、しかもその上映に先駆け、久々にDVD初出しの新作もリリースされることとなった。本篇はその前編となる。

 新たな変化は、上に記したとおり、これまで丁稚のような扱いを受けていた最年少のメンバー・市川力夫が現場監督に起用されたことだが、もうひとつ特筆すべきは、ニコニコ生放送を利用した、殴り込みをリアルタイム中継する試みである。実際の殴り込みの模様を、ネットを介してリアルタイムで視聴者に届け、場合によってはその場でアンケートを採り、視聴者の意見を採り入れたミッションを実施する、というものである。

 私は運良く、その初回放送から視聴することが出来たのだが、これが思いのほか面白かった。相変わらずミッションや参加者たちの反応は滑稽だが、編集なしで見せられる潜入の過程は、BGMなしテロップなし、まさにその現場の小さな音と、本人が構えるカメラのわずかな映像しか情報がないため、彼らが感じている恐怖が生々しく伝わってくる。それ自体は怖い一方で、ニコニコ生放送ならではのコメント機能のお陰で、劇場版が広げた大勢で鑑賞する愉しさも再現していた。考えようによっては、この“殴り込み”というスタイルの面白さを最も実感できる配信方法であるため、1回だけで終わらせるのは勿体ない、と思ったほどだ。

 スタッフも手応えを感じたのだろう、この“地獄編”では、その後4回にわたって行われた生放送の模様が織りこまれており、前編である本篇には、ドラマや映画の撮影にも用いられる廃病院で行われた生放送の映像が使用されている。

 ただ、なまじ生放送のほうでいちど観てしまった者からすると、この編集済の状態では、本当の面白さは伝えきれていない、というのが率直な感想だ。確かに、生放送の際に私も感じた異変、奇妙な音が随所で採集されているが、作中のコメントが「何かが起きた」という不気味さを醸しだす生放送の際の空気と比較すると、編集済の本篇では、思いのほか些細な現象だったせいもあってか、過剰な反応にしか思えない。

 ほかのロケにおいても、かなり細かに不可思議な現象を押さえている、とは言い条、全般に音声、それもごく小さなものばかりなので、聞き間違いではないか、少し過敏すぎないか、と思えてしまうのが残念なところだ。採り上げるのはいいが、もうちょっと検証があったほうが、現象の不可思議さ、恐ろしさを伝えられたのではないか。なまじ、新たに就任した現場監督が本当にえげつないミッションを連続し、それを受けてのメンバーの“活躍”をなるべく拾ってあげたせいで、検証が疎かになったのかも知れない。

 特に勿体ない、と思うのは、廃病院でのひと幕、生放送のあとに記録された奇怪な出来事だ。あり得ない音、ではなく、それまでの状況と比較しても奇怪で、実はあれこそこの<地獄編 前編>のハイライトと言ってもいいくらいの出来事だ、と私は感じたのだが、もうちょっと比較の出来る状況を作りだして、異様さが解るようにして欲しかった――まあ、その結果、怪現象でも何でもなかった、と判明してしまうとネタにならなくなる、という悩ましい現実はあるにせよ。

 と、けっこう厳しめのことを書いたが、力夫現場監督の采配は、しばしば暴君と化しているが故に、これまで以上の恐怖を新耳Gメンたちにもたらし、現場の恐怖がいや増しているのは確かだ。そしてそれ故に、従来と比較しても挑発が有効に働いている印象があり、今後の収穫に期待したくなる。

 単品では物足りない、しかしこれから<地獄編 後編>、そしてふたたび沖縄に挑んだ2013年の劇場版<魔界編 前編>&<同 後編>への期待を煽る上では上々の導入と言えそうだ――ただ、これに接せずにいきなり劇場版<魔界編>を観た場合、なんで力夫が仕切っているのか、とかそもそもなんてこいつが一番偉いんだ、という疑問に襲われて、内容に集中出来なくなりそーな気もするが。



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