『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE』

TOHOシネマズ六本木ヒルズ、案内板に掲示されたチラシ。

監督&編集:佐久間宣行 / 脚本:オークラ、佐久間宣行 / アドリブ:劇団ひとり / 製作:南雅史 / プロデューサー:五箇公貴、石井成臣、前田茂司 / ラインプロデューサー:小松俊喜、山村淳史 / 技術統括:野瀬一成 / 撮影監督:風間誠 / 映像:北村宏一 / 照明:宮尾淳一 / 美術:柴田博英 / 衣装:杉本京加 / スタントコーディネーター:雲雀大輔 / 音楽:岩崎太整 / 主題歌:サンボマスター『孤独とランデブー』 / 出演:劇団ひとりおぎやはぎ小木博明矢作兼)、バナナマン(設楽統、日村勇紀)、松丸友紀テレビ東京アナウンサー)、みひろ、岩井秀人京本政樹葵つかさ紗倉まなマキタスポーツ窪田正孝、オクイシュージ、駒木根隆介、バカリズム東京03飯塚悟志豊本明長角田晃広)、武蔵、やべきょうすけ、ミッキー・カーチス斎藤工渡辺いっけい竹内力 / 企画&制作:テレビ東京 / 配給:東宝映像事業部

2013年日本作品 / 上映時間:1時間51分 / PG12

2013年6月28日日本公開

公式サイト : http://www.god-tongue.com/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2013/07/01)



[粗筋]

“キス我慢選手権”とは、テレビ東京系列にて2005年にスタートした深夜番組『ゴッドタン』の人気企画のひとつである。その題名通り、当初は美女からのキスの誘惑にどこまで耐えられるか、という趣旨だったが、人気に応えて繰り返されるうちに、スタッフが仕掛ける多彩なシチュエーションに、芸人たちが当意即妙のアドリブで応えていく、風変わりなガチンコ勝負へと変貌していった。参加した芸人のなかでも、劇団ひとりは芝居がかったアドリブで話を撹乱し笑いを取り、“Mr.キス我慢”の異名を取るほどになる。

 それが遂に、劇場版にまで発展した。番組の中ではせいぜい1時間程度の我慢比べだが、この劇場版では24時間にも及ぶ。劇団ひとりは何も知らされないまま温泉地に送りこまれ、遭遇する魅力的なシチュエーションとドラマの中で、キスの誘惑に耐えなければいけない。

 劇団ひとり自身も無論のこと、スタッフもすべての展開を見通すことの出来ない、24時間の真剣勝負。番組MCのおぎやはぎと準レギュラー格のバナナマン、そしてテレビ東京アナウンサーの松丸有紀たちが見守るなか、この奇妙なドラマはどこへ向かっていくのか……?



[感想]

 私が作っている映画感想専用のメモ、本篇のページの1行目には「なんだこれは」と書いてある。粗筋というより短所の説明となってしまっている上の文章からも察していただけると思うが、本篇はいわゆる普通の映画とはまるで違う。

 そもそも、お話にすらなっていないのだ。MCによる主旨の説明から始まり、内容すら解らないまま現場に主人公である劇団ひとりが投げ込まれる。導かれるまま露天風呂に向かったら、ひとり演じる川島省吾劇団ひとりの本名そのまんまだ)が何者か解らないというのに、彼との関係性が解らない女性が全裸で湯船に浸かって彼に呼びかける。川島は自分が何者として扱われているのか、いったいどこに話が向かっているのか探りながら会話を繰り広げていく。序盤から観客はもちろん、出演者もスタッフも、これがいったいどこへ向かおうとしているのか解らないまま、話が進んでいくのだ。

 本篇は尺を伸ばし、随所で豪華なセットや出演者を配しているが、基本的に2時間半ぐらいの放送時間を与えられたバラエティ番組そのまんまの構造になっている。ふだんまったくテレビを観ない、その独特の呼吸を知らないひとはただただ困惑するだけかも知れない。

 しかし私は、随所で笑いながらも終始興奮を禁じ得なかった。これは、テレビのバラエティ番組というスタイルが生み出した独特の面白さを、突き詰めていった作品と言える。

 テレビのバラエティではしばしば手の込んだドッキリが繰り広げられる。特異な状況に追い込まれた人間がどんな行動に及ぶのか、観察して笑いを取る、という趣旨だが、こうしたものは途中で騙されている当事者がドッキリだと気づかない限りは、あくまで素のままの反応をするものだ。しかし本篇は違う。劇団ひとりは、細かな内容こそ知らないものの、自分がスタッフの用意したシチュエーションに組み込まれ、何らかの役柄を演じることを要求されている、と知っている。いちおう、キスの誘惑に耐える、というルールは課せられているものの、あとは劇団ひとりの対応にすべて委ねられている。

 スタッフは、長篇映画である、という都合上、わざわざサイドストーリーの映像も予め準備しているが、劇団ひとりが即興で繰り出した台詞によって大きく筋が歪められる可能性も考慮しておかねばならない。一方でひとりのほうも、準備されているものから大幅に逸脱すればしっちゃかめっちゃかになることは重々承知しているから、どんな設定が自分に与えられているのか、どんな方向性を要求されているのか、を汲み取りながら、自分なりに意表をつき、更には笑いまで誘うように工夫した台詞、反応を見せなければならない。

 その手探りな進行が可笑しい、というのも事実だが、しかしそうした両者の意識が生み出す緊張感は、完全なるフィクションはおろか、純然たるドキュメンタリーでも決して醸成し得ないものだ。面白いことは面白い、しかしそこに本篇には一種の、他の作品とは異なる知的興奮が漲っている。

 ちゃんとしたストーリーを楽しみたい、というひとにはまったく向かない仕上がりである。いくらアドリブとはいっても、準備されたシチュエーションにいちいち無理があり、整合性も保たれていない。いちばん惜しい、と思うのは、せっかくの“キスを我慢する”という基本的な縛りを脅かす場面が予想していたより少なく、そもそもなんでキスを耐えなければ行けないのか、という背景が見当たらなかったことだ。終わってみると、スタッフの側では何かしら用意していた痕跡はあるのに、場面場面での対応に追われた劇団ひとりがそこまで汲み取れなかったのが敗因だが、細部に拘るひとには耐えがたいレベルで破綻してしまっているのは否めない。

 だが全篇に漲る、相手の出方を窺いながらも、ハマると一気に話が転がり出す、このライヴ感覚は、細部の破綻をどうでもいいと思わせるほどの魅力がある。なにせその場その場の思いつきで発せられる台詞を現場で収録しているため、MCの声やBGMによって掻き消されてしまうこともしばしばあるが、それを乗り越えてバッチリとアドリブがハマった瞬間は、笑えると共に得も言われぬ爽快感を味わえる。

 作中、随所でMCも驚きの声を漏らしているが、構図が決まっていることにも感心させられる。可能な限り、劇団ひとりのリアクションを抽出するために、本篇は凄まじい数のカメラを設置しているのがMCの声からも窺えるが、それがきちんと奏功している。そのうえで、カメラと演者の呼吸が一致したときの、打ち合わせ済だったとしか思えない構図に、スタッフが本篇をきちんと映画として仕上げようとした意地さえ垣間見える。

 いわばこれは、ストーリー以上に、スタッフと芸人・劇団ひとりとの、真剣勝負を記録した映画なのだ。徹頭徹尾下らないシチュエーションに展開、ひとりのアドリブだってカッコいいのは事実だが他の作品に組み込めば臭くてあざとく使い物になるものではない。しかし、この場で放たれるからこそ凛々しく、そして面白い。双方が全力を尽くしているからこそ作り出せる緊迫感が、本篇に映画館では味わえなかった面白さ、魅力を生み出している。

 あくまでバラエティ番組の延長だろ、と軽んじることは出来ない。爛熟したテレビ業界の生み出したスタイルを、映画館という舞台に相応しく発展させた本篇には、映画というものの新しい可能性がちらついているようにさえ思えるのだ。

 ……と、だいぶ堅苦しく論じてしまったが、しかし基本的には下らなく、面白いだけの話である。出来ればここで語ったことも忘れて、頭をスッカラカンにしたうえで、劇場にてほかの観客と共に、不可思議な世界で繰り広げられる笑いと意外な感動、ついでに盛り込まれたちょっとしたサプライズを存分に楽しんでいただきたい。



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