『イノセント・ガーデン』

TOHOシネマズシャンテ、施設外壁の看板。

原題:“Stoker” / 監督:パク・チャヌク / 脚本:ウェントワース・ミラー / 製作:リドリー・スコットトニー・スコット、マイケル・コスティガン / 製作総指揮:スティーヴン・レイルズ、マーク・ロイバル / 撮影監督:チョン・ジョンフン / プロダクション・デザイナー:テレーズ・デプレス / 編集:ニコラス・デ・トス / 衣装:カート・スワンソン、バート・ミューラー / 音楽:クリント・マンセル / 出演:ミア・ワシコウスカニコール・キッドマンマシュー・グードダーモット・マローニージャッキー・ウィーヴァー、フィリス・サマーヴィル、オールデン・エアエンライク、ルーカス・ティル、ラルフ・ブラウン / スコット・フリー製作 / 配給:20世紀フォックス

2013年アメリカ作品 / 上映時間:1時間39分 / 日本語字幕:稲田嵯裕里 / PG12

2013年5月31日日本公開

公式サイト : http://www.foxmovies.jp/innocent-garden/

TOHOシネマズシャンテにて初見(2013/06/01)



[粗筋]

 インディア・ストーカー(ミア・ワシコウスカ)は18歳の誕生日を迎えた。幼いときから毎年、この日には何者かから、同じ靴をプレゼントされていた。我が家のどこかに隠してある箱を探し出すのが恒例になっていたが、この歳だけは何故か、箱の中に靴は入っていなかった。代わりに収められていたのは、1本の鍵。

 そして、プレゼントの代わりにもたらされたのは、父リチャード(ダーモット・マローニー)の訃報だった。誰よりも愛していた父を失い、不思議と反りの合わない母イヴリン(ニコール・キッドマン)とふたりきり残されてしまったインディアは鬱ぎこむ。

 葬儀の日、そんな彼女の前に、見知らぬ人物が姿を現した。チャーリー(マシュー・グード)と名乗る彼は、父の弟なのだという。インディアはおろか、母でさえもいちども逢ったことのなかったこの弟は、長年海外を渡り歩いていた、と言った。

 チャーリーはしばらく滞在させて欲しい、と母子に請い、イヴリンはそれを受け入れる。だがその直後、ジン大叔母(ジャッキー・ウィーヴァー)が現れた。ジン大叔母は母子に何かしら者言いたげな素振りをしていたが、どうやらチャーリーの眼を気にしているようで、インディアに携帯電話の番号を残して、滞在先のホテルに戻ってしまう。そして、その晩を境に、大叔母は姿を現さなくなった。

 インディアがどれほど拒んでも、チャーリーは下校時間には送り迎えの素振りで学校に車をつける。イヴリンに対しても、奇妙な馴れ馴れしさを示すチャーリーに、一家の主を失ったばかりの母子は翻弄されていく……



[感想]

 これがハリウッド初進出となるパク・チャヌク監督は、日本での韓国映画ブームを盛り上げた作品のひとつ『JSA』に、各国の映画祭で絶賛されリメイクも間もなく公開予定の『オールド・ボーイ』をはじめとする復讐3部作など、娯楽性と深遠な描写が同居した、優れた作家性を備えた映画作家である。

 どれほど優れた作家性を持っていても、ハリウッドや他国の現場に招かれると、勝手が違うのか作風が乱れてしまうのは珍しくないが、本篇に限っては、恐らく韓国でのパク・チャヌク作品に親しんでいるひとでも不満を抱かないのではなかろうか。

 英語での情感に富んだナレーションが飾る、透明感のある映像から始まる本篇のトーンは、ひたすら妖しく美しい。そしてその謎めいたトーンは、序盤から『オールド・ボーイ』を彷彿とさせる。しかも本篇は最初のうち、果たしてファンタジーなのか、現実と同じパラダイムで構築されているのかも判然とせず、その点でも幻惑される。異様に鋭敏な感覚を持つ、というヒロインの語りは、そのまま幻想的な物語へと観客を誘っていくかに見えるが、やがて現れるチャーリーとの交流、その距離感はまるでサスペンスのようでも、ロマンスのようでもある。どちらに触れるのか解らないストーリー展開は不気味、かつ魅惑的で、脚本を担当しているのは監督自身ではないのだが、彼の作風にしっくりと馴染んでいる。

 終盤の展開は、謎解きとして誰しも納得がいくとは限らないし、満足するとは言えない。謎、という意味では見え見えすぎるし、終盤でヒロインが選択する行動に、カタルシスを味わえない、という観客も恐らく多いだろう。ただ、終盤でヒロインに生じる変化をギリギリまでミスリードする手腕と、そこまでの描写がクライマックスに共鳴していく手管は巧い。一連の出来事が導く事態は一種のおぞましさを誘うが、しかし同時に官能的でさえある。選ぶモチーフがちょっと異なればまた印象は異なったはずで、そこには間違いなくセンスを感じさせる。そして、それがパク・チャヌク監督の持つ、尖った官能美と呼応して、魅惑的な世界を作りだしているのだ。

 しかし本篇、果たしてどの程度までパク監督の意向で脚本に手が入っているのか解らないが、そうした刺激的な映像だけでなく、ところどころに屈折したユーモアが含まれているのがまた、『オールド・ボーイ』と重なる。妙なタイミングで母子の反応が一致したり、剣呑とした場面でもいくぶん間の抜けたやり取りがあるあたり、『オールド・ボーイ』にもあった緩急の巧さと相通じるものがある。脚本にあったにせよなかったにせよ、題材の魅力をいっそう引き立てながら自分のものにする、監督の職人的な手腕がものを言っているのは間違いない。

 そして、その監督のスタイルを存分にかたちにしてみせたスタッフ、キャストも賞賛に値する。『オールド・ボーイ』でもサポートしている撮影監督をはじめ、VFXなどで韓国のスタッフが加わっているのも重要だが、『レクイエム・フォー・ドリーム』や『レスラー』、『ブラック・スワン』といった、パク・チャヌク監督作品と相通じる作風を持つダーレン・アロノフスキー監督の世界観を支えるクリント・マンセルがスコアを提供し、危険な妖しさを引き立て、無機質な統一感を湛えたヴィジュアルが不気味な清潔感を生み出し、随所で描かれる肉体的な表現をいっそう生々しく彩る。何よりも俳優陣が出色だ。夫の急死と制御出来ない娘の言動に悩まされながらも、チャーリーとの交流で女の顔を覗かせる妙に生々しいキャラクターを、ニコール・キッドマンが相変わらずの突き抜けた美しさを活かして体現すると、マシュー・グードが人当たりがよく、しかし底意を感じさせる愛嬌でそんな彼女を翻弄する。そして、語り部となり謎を織り成し、最後には妖しく脱皮するヒロインの変化を見事に表現したミア・ワシコウスカが逸品だ。思春期から一気に大人へと花開いていくかのようなこのキャラクターは一筋縄では演じきれないはずだが、圧倒的な説得力がある。基本的にはあり得ないと解っていても、同じキャラクターで続篇が作られる、と言われたら惹かれるほどに、彼女のインパクトは鮮烈だ。

 必ずしも万人受けする類のカタルシスをもたらすわけではない。だが、終始危険なムードを漂わせる語り口と、慄然とさせながらもそこに陶酔させてしまう描写の数々は素晴らしく見応えがある。韓国映画を代表する才能のひとりが、ハリウッドでもその実力を発揮できることを証明した、と言っていいのではなかろうか。



関連作品:

オールド・ボーイ

アリス・イン・ワンダーランド

ラビット・ホール

シングルマン

THE GREY 凍える太陽

世界にひとつのプレイブック

ハンニバル・ライジング

少年は残酷な弓を射る

レクイエム・フォー・ドリーム

レスラー

ブラック・スワン

ラストスタンド