『ジャンゴ 繋がれざる者』

TOHOシネマズ六本木ヒルズ、階段の下に掲示されたポスター。

原題:“Django Unchained” / 監督&脚本:クエンティン・タランティーノ / 製作:ステイシー・シェア、レジナルド・ハドリン、ピラー・サヴォン / 製作総指揮:ボブ・ワインスタインハーヴェイ・ワインスタイン、マイケル・シャンバーグ、シャノン・マッキントッシュ、ジェームズ・W・スコッチドポール / 撮影監督:ロバート・リチャードソン,ASC / プロダクション・デザイナー:J・マイケル・リーヴァ / 編集:フレッド・ラスキン / 衣装:シャレン・デイヴィス / キャスティング:ヴィクトリア・トーマス / 出演:ジェイミー・フォックスクリストフ・ヴァルツレオナルド・ディカプリオケリー・ワシントンサミュエル・L・ジャクソンドン・ジョンソンジョナ・ヒルウォルトン・ゴギンズ、デニス・クリストファー、ローラ・カユーテ、M・C・ゲイニー、クーパー・ハッカビー、ドク・デュハム、ジェームズ・ルッソ、トム・ウォパット、ジェームズ・レマー、マイケル・パークス、フランコ・ネロ / 配給:Sony Pictures Entertainment

2012年アメリカ作品 / 上映時間:2時間45分 / 日本語字幕:松浦美奈 / 歌詞翻訳:町山智浩 / R-15+

第85回アカデミー賞オリジナル脚本・助演男優部門受賞(作品・撮影・音響編集部門候補)作品

2013年3月1日日本公開

公式サイト : http://django-movie.jp/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2013/04/06)



[粗筋]

 南北戦争が始まる2年前の1858年、ミシシッピ州北部の某所を、馬車と、それに繋がれた数人の黒人たちが進んでいた。先導するのは奴隷商人のスペック兄弟である。グリーンビルで購入した奴隷たちを移送する最中だった彼らに、呼びかける者がいた。

 旅の歯医者である、というその男、ドクター・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)は、カルーカン大農場から売られた奴隷を捜している、と言った。奴隷のひとりが、その言葉に応えた。シュルツは奴隷に、ブリトル3兄弟を知っているか、と訊ねる。奴隷は知っている、と返した。その奴隷――ジャンゴ(ジェイミー・フォックス)にとって3兄弟は、妻ブルームヒルダ(ケリー・ワシントン)を奪った仇敵であった。

 シュルツはその場でジャンゴをスペック兄弟から買い取ると、彼を伴い、ドートリーという街へと赴く。スペック兄弟から奪った馬に乗っている黒人を見た街の人々は驚愕するが、シュルツは気に留めもしない。ドイツからの移民であるシュルツは、奴隷制度を忌み嫌っていたが、処世術としてそれを使いこなしていた。とある酒場に立ち寄り、ジャンゴに酒を提供すると、自分がもう長いこと歯医者としては仕事をしておらず、賞金稼ぎをして生活していること、現在追っているブリトル3兄弟を無事に捕らえられたなら、賞金の一部を提供してジャンゴは解放する、と言った。

 ブリトル3兄弟は現在、テネシー州に潜伏している。シュルツはジャンゴに、他人に不審の目を向けられないために、ひとまず自分の従者という立場を装わせると、ガトリンバーグにある通称ビッグ・ダディ(ドン・ジョンソン)の営む農園へと偵察に赴いた。儲け話を持ちかけて取り入ったシュルツは、ジャンゴに首実検をさせるため、理由をつけてビッグ・ダディの奴隷に農園の案内をさせる。

 ジャンゴはすぐに、農園で働く3兄弟を見つけた。かつて彼の妻にしていたのと同じ拷問を奴隷に加えようとしている現場に巡り逢ったジャンゴは、頭に血を昇らせ、シュルツの到着を待たずに兄弟のふたりを血祭りに上げる。遅れてやって来たシュルツも、逃げ出した残るもうひとりを一撃で仕留めるのだった。

 ジャンゴの意外な手際と度胸に感銘を受け、妻の奪還に血を滾らせる姿に打たれたシュルツは、冬のあいだ自分と賞金稼ぎに努め、それから一緒に妻を探し出そう、と提案する。旅のなかで、彼が他の南部人とまるで違う価値観を持ち、自分を認めていることを理解したジャンゴは、シュルツの差し出した手を固く握りしめた。

 こうして、類を見ない、黒人の賞金稼ぎ・ジャンゴが誕生した――



[感想]

 れっきとしたジャンル映画、西部劇の様式に則った作品である。だかそこに、黒人を主人公に代入し、タランティーノ監督が扱うと、こんなにも面白いものになる。

 西部劇のなかにあって、黒人は基本的に主役になることが出来ない。考えてみれば当たり前のことで、南北戦争以前のアメリカでの黒人は奴隷として売り買いもされている存在だった。そういう背景があるなかで、ガンマンとして、ヒーローとして採り上げるのは奇策に見えてしまう。遡ってみると、実はクリント・イーストウッド監督・主演の『許されざる者』はさらっとモーガン・フリーマンが出ているが、あれは特異な例だろう。

 翻って、差別を受けていた現実を真っ向から受け止め、そのなかで黒人がガン・アクションの主人公になっていくには、どのような展開が考えられるか。本篇はそれを、西部劇の定石から逸れることなく、工夫を重ねて見事に理想的なかたちに組み上げている。

 この物語において最も重要な役割を果たしているのは、クリストフ・ヴァルツ演じるシュルツ医師であるのは、観たひとなら誰しも頷いてくれるだろう。肉体的な潜在能力は高いが、教育を受けているわけではなかったジャンゴに“賞金稼ぎ”として、奴隷制度のあるなかで如何に穏当に振る舞うかについて手ほどきをする姿は、西部劇のみならず、初期のジャッキー・チェン映画に登場していた、心を許せる師匠の面影がちらつく。

 肝要なのは、このシュルツ医師がアメリカ人ではなく、ドイツ出身である、という設定になっている点だろう。演じるクリストフ・ヴァルツを想定して当て書きした、というから、そもそも彼がドイツ人であるからこその設定のようにも思えるが、しかし南部に生活の拠点を起き、その法に従いながら価値観を異にする、この変わった人物設定が、ジャンゴを中心人物に導く過程を自然なものにしている。単純に、南部出身だが奴隷制度とは相容れない、というキャラクターであっても話は成立するが、どこか不自然さが付きまとっただろうし、本篇で描かれるような味わいは出なかったに違いない。主人公を黒人に、サポーターをドイツ人に、という絶妙な組み合わせが生まれた時点で、本篇は既にかなり成功していたように思える。

 しかし、そこで終わらないのがこの監督の頼もしいところだ。着想も見事だが、そこにいつもながらのシャープな暴力描写に加え、振り切れたユーモア、そして映像的、感情的なカタルシスを贅沢に詰めこみ、興奮が終始絶えることがない。

 敵味方問わず、会話や駆け引きが滅法面白いのだ。初登場時点で人を食った話術で魅せるシュルツ医師に始まり、ジャンゴたちに夜襲をかけようとした集団の滑稽なやり取り、やがて登場するカルヴィン・キャンディ(レオナルド・ディカプリオ)のユーモラスな悪趣味と紙一重の残酷さ。西部劇ならではの剣呑なやり取りが続く一方で、そこにサミュエル・L・ジャクソン演じる奴隷頭スティーヴンが絡むと一気に狂的な笑いが溢れてくる。

 ここでも、主人公を黒人に設定し、当時は普通にあったかも知れない、非人道的な差別の模様が、観客に衝撃と、あとに爆発するフラストレーションをもたらす。なまじ、シュルツ医師が奴隷制度に批判的な態度を示しているからこそ、ビッグ・ダディの前やキャンディとの会話、スティーヴンの言動の悪意が色濃く伝わる。

 そして、蓄積の果てに、満を持して繰り出されるアクションの“破壊力”が逸品だ。緊張が高まった挙句、予測不能に飛び交う銃弾、飛び散る鮮血。残虐だが、それまでに蓄積しつづけたものが大量であるだけに、この興奮、快感は著しい。用いられるアイテムがいささか過剰なのだが、それさえも圧倒的な歓喜を提供してくれる。ついでに言えば、このくだりで“あのひと”が出て来るのがまた効いているのだ。あんたはただ死にたいだけじゃないんか。

 だいぶスマートに、シャープになったとはいえ相変わらず暴力描写は強烈だし、あまりにアクの強すぎるユーモアはひとを選ぶ。しかし、それらが作品のテーマと絶妙なバランスを保った本篇は、私の観た範囲では、クエンティン・タランティーノ監督作品のなかではいちばん、一般的な観客に受け入れられやすい仕上がりと感じる。そして、これも私が観た範囲での話だが、タランティーノ監督作品のなかで最も彼の個性、魅力が際立った、最高傑作と断言したい。



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