『ゼロ・ダーク・サーティ』

TOHOシネマズシャンテ、エレベーター脇の案内板のポスター。

原題:“Zero Dark Thirty” / 監督:キャスリン・ビグロー / 脚本:マーク・ボール / 製作:キャスリン・ビグローマーク・ボール、ミーガン・エリソン / 製作総指揮:コリン・ウィルソン、テッド・シッパー、グレッグ・シャピロ / 撮影監督:グリーグ・フレイザー,ACS / プロダクション・デザイナー:ジェレミー・ヒンデル / 編集:ウィリアム・ゴールデンバーグ,A.C.E.、ディラン・ティチェナー,A.C.E. / 衣装:ジョージ・L・リトル / キャスティング:マーク・ベネット,CSA、リチャード・ヒックス,CSA、ゲイル・スティーヴンス / 音楽:アレクサンドル・デスプラ / 出演:ジェシカ・チャスティン、ジェイソン・クラークジョエル・エドガートンジェニファー・イーリーマーク・ストロングカイル・チャンドラーエドガー・ラミレスジェームズ・ガンドルフィーニクリス・プラットフランク・グリロハロルド・ペリノーレダ・カテブ、ジェレミー・ストロング、スコット・アドキンス、マーク・デュプラス、シモン・アブカリアン、アリ・マルヤル、ヘンリー・ギャレット、ホマユン・エルシャディ、ジュリアン・ルイスジョーンズ / マーク・ボール/ファースト・ライト/アンナプルナ・ピクチャーズ製作 / 配給:GAGA

2012年アメリカ作品 / 上映時間:2時間38分 / 日本語字幕:佐藤恵子 / PG12

第85回アカデミー賞音響編集部門受賞(作品・オリジナル脚本・主演女優・編集部門候補)作品

2013年2月15日日本公開

公式サイト : http://zdt.gaga.ne.jp/

TOHOシネマズシャンテにて初見(2013/03/30)



[粗筋]

 2003年、某国某所。アルカイダの一員として捕らえられた男・アンマルの訊問の場に、マヤ(ジェシカ・チャスティン)は立ち会っていた。身体に傷は負わせないが、確実に苦しみを与え、尊厳を奪う過酷な拷問に目を逸らす彼女に、訊問を担当するダニエルは不安を覚える。マヤは若く、あまりに経験が足りないのではないか。しかしCIAパキスタン支局のブラッドリー支局長(カイル・チャンドラー)は簡潔に応える。あれで、冷血らしい。

 訊問はなかなか成果をあげないまま、年が変わり2004年、非イスラム系人種、特に白人を標的とした無差別殺人テロが行われた。情報を引き出せなかったことに罪悪感を抱くダニエルに、マヤはこれを利用することを提案する。ちょうど先日、彼らはアンマルに対し、96時間眠らせない過酷な訊問を行ったばかりだった。マヤは、その間に捕虜が白状した情報をもとにテロが回避できた、という話をでっち上げ、情報を引き出そうと考えたのである。このマヤの目論見は見事に奏功し、アンマルはオサマ・ビンラディンと外部との連絡係を務める人物の名前“アブ・アフメド”を引き出した。

 一気に事態は進展したかに思われた。だが、捕らえている複数の捕虜たちに事情聴取するも、“アブ・アフメド”の所在はおろか、素性も明瞭にならない。やがてアルカイダNo.3の地位にあるアブ・ファラジを逮捕すると、彼とビンラディンとの連絡役を務めていたのが“アブ・アフメド”であったことが明確になるが、依然としてこの謎の人物は網にかかってこなかった。

 2005年にはロンドンで地下鉄やバスを狙った連続テロが発生、マヤ自身も食事中に爆破テロに遭遇するなど、使命感と緊張に追いつめられ憔悴していくなか、アルカイダで幹部を務めていたヨルダン人医師バラウィが、金と引き替えに情報を流す、という話を持ちかけてくる。警戒しつつも、確実性が高い、とマヤたちは彼を拠点へと招き入れた。

 罠だった。現れた医師は、マヤの同僚ジェシカ(ジェニファー・イーリー)たちCIA局員を巻き添えに自爆する。直前までメッセンジャーで言葉を交わし、重要な手懸かりが得られるはず、と喜んでいたマヤが喪失感に打ちひしがれていると、追い打ちをかけるように、ある捕虜の証言がマヤのもとに届けられる。彼女が探し続けていた“アブ・アフメド”は2001年時点で亡くなっており、既に埋葬されている、というのだ――……



[感想]

 実際にオサマ・ビンラディンが暗殺された、という報道があって、まだ2年も経っていない。この速さでの映画化は、まるでニュースに接しているような心地がする。

 この速さでの映像化は、本篇が『アバター』との激戦を制し、アカデミー賞に輝いた『ハート・ロッカー』のキャスリン・ビグロー監督と脚本家マーク・ボールのコンビによる企画であったことが大きいだろう。高い評価を受け、次回作が待ち望まれるなかでこの出来事があり、ちょうどオサマ・ビンラディン追跡についての作品を構想していたという事情もあったそうで、必要となるリサーチが多くなかった、というのも奏功したようだ。

 スタッフの手腕に加え、リサーチ面で恵まれたお陰もあってか、本篇のリアリティは尋常ではない。現代に鑑賞するからこそ感じられる即時性、真実味が、スクリーンから突き刺さってくるような感覚を味わえる。映像的にも、ハンディカメラを用いた揺れの多い映像を主体とすることで、計算の行き届かないドキュメンタリーめいた空気をうまく演出、安手の再現ドラマめいた雰囲気とは一線を画した出来栄えだ。

 スタッフの証言によれば、当然ではあるが事実そのままではなく、役割の集約や、フィクションならではの劇的な要素も組み込んでいるらしいが、そのことはさして気にならない。確かに牽引力を保つための工夫がなされているが、そのことで生々しい緊迫感や、事実を踏まえているからこそのヒリヒリするような焦燥感は損なわれていない。その手腕は賞賛に値する。

 ただ、観ていてどうしても幾つかの疑問を覚える。果たして、決着から僅か1年程度で完成を見た本篇は、どのていど真実を伝えているのか。行為の是非を、この段階で判断していいのか、ということだ。

 その点は、本篇が本国で公開されて間もなく、この作品が“拷問”を肯定しているとして非難されたことからも窺える。見れば解るが、本篇にとっては“拷問”の描写は外したくても外せない、重要なパーツだ。是非を問うのではなく、こういうことが行われたので、この事実に辿り着き、事態はこう進展した、という説明のうえで、ぼかすことは出来ない。恐らく、これがあと10年先に製作されるとすれば、歴史的事実であるから、という理解のうえで受け入れられた可能性はあるが、現段階ではまだまだ感情的、信条的に許容しにくい層を出してしまう。混じりっけのないノンフィクションであるならまだしも、フィクションとして構築し、娯楽性を疎かにしない作りは、真偽に疑問を抱かせる分、余計に問題を背負ってしまっている。

 しかし、この素早さと、相反するかのようなクオリティの高さにはやはり感嘆せざるを得ない。単純な再構成に留まらず、“ビンラディン捜索”という主題をひとりの女性のドラマと一体化させた点や、嫌煙風潮の浸透や携帯電話の変化で時代の流れを組み込んだり、訊問を担当していた捜査官が音を上げて前線を離脱してしまうなど、細部を固めてリアリティを緻密に補っている点も傑出している。『ハート・ロッカー』でも示した、繊細な配慮に支えられた武骨さが、派手ではないがどっしりとした衝撃を観る側に与える仕上がりだ。

 前述したように、速報性こそある意味存在意義のひとつである本篇は、数年後にはその解釈について否定的見解のほうが多くなっている危険も孕んでいる。しかし、そのときになって改めて想いを馳せ、こういう捉え方もあったのだ、というひとつの証になる可能性も、何らかの示唆となる可能性も秘めている。故に、尚早かも知れない、と危惧させる一方で、だからこそいま作られる価値も、観る価値もある作品と言えるのかも知れない。



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