『ボクたちの交換日記』

ユナイテッド・シネマ豊洲、チケットカウンター脇に掲示されたポスター。

原作:鈴木おさむ『芸人交換日記〜イエローハーツの物語〜』(太田出版・刊) / 監督&脚本:内村光良 / チーフプロデューサー:重松圭一 / プロデューサー:青木裕子松本整、細谷まどか、岩田祐二、田村正裕 / アソシエイトプロデューサー:冨田裕隆 / ラインプロデューサー:武内一成 / 撮影:北山善弘 / 美術:津留啓亮 / 編集:小堀由起子 / 映像:藤本伊知郎 / 照明:林広一 / サウンドデザイン:藤本義孝 / 録音:山成正己 / 音楽:武部聡志 / 主題歌:FUNKY MONKEY BABYS『サヨナラじゃない』(ドリーミュージック・) / 出演:伊藤淳史小出恵介長澤まさみ木村文乃川口春奈ムロツヨシベッキーカンニング竹山大倉孝二佐藤二朗佐々木蔵之介 / 制作プロダクション:共同テレビジョン / 配給:Showgate

2012年日本作品 / 上映時間:1時間55分

2013年3月23日日本公開

公式サイト : http://koukan-nikki.jp/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2013/03/12) ※ユナイテッド・シネマ全国一斉試写会



[粗筋]

 田中洋平(伊藤淳史)と甲本孝志(小出恵介)のコンビ“房総スイマーズ”が結成して12年が経った。未だ鳴かず飛ばずの状況のなか、家賃滞納でアパートを追い出された甲本は、転がり込んだ恋人・新谷久美(長澤まさみ)のマンションが田中のアパートから近いことを幸いと、田中に交換日記を提案する。ネタ合わせのときぐらいしかろくに会話もなくなったふたりが、思ったことをはっきりと綴り、膿を出してブレイクのためのきっかけにしよう、というのである。

 当初、田中は“嫌です”のひと言で拒絶しつづけたが、甲本のしつこさに音を上げ、なし崩しのうちに交換日記のリレーが始まった。お互いの生活や暮らしぶりに言及し、お笑いを始めたときの想い出や、過去の辛い記憶を振り返り……。近ごろドライな関係になりつつあったふたりは、少しずつお笑いへの情熱を蘇らせていく。

 交換日記を始めて半年ほど経ったとき、房総スイマーズはかつて目をかけてもらったTVディレクターの川野(佐々木蔵之介)から、『笑軍』と題したコンテストへの参加を促された。漫才、コント、ピン芸などジャンルは問わず、プロアマ不問でネタを競い合う、というものである。

 久しぶりにいい関係を築きはじめていたところに加え、コンテストに関しては苦い経験がある甲本は当初尻込みするが、「これが最後のチャンスだ」という田中の言葉と、身辺に訪れた変化を契機に、出場を決意する――



[感想]

 初めての監督作品『ピーナッツ』を観て以来ずっと、内村光良には是非とも、続けて映画を撮って欲しい、と思っていた。

 内村の出演する番組に馴染んでいるひとは、彼が大の映画ファンであることは知っている。その造詣が生み出す、実に映画的な構図の確かさや、配慮を感じさせる台詞回し。また、お笑い芸人として培ってきた間の取り方の巧さや、何より笑いそのもののセンスなどが、前作では絶妙に作用し、楽しくもホロリとさせる秀作に仕上がっていた。当時の冠番組内村プロデュース』レギュラーの芸人たちを起用したキャストの演技は決して上手いとは言い難かったが、彼らの美点、面白さを承知しているだけに、その拙さも活かしており、処女作にして堂々たる監督ぶりだった。その才能を、1作きりで終わらせるのは勿体ない、とずっと思っていたのだ。

 決して満足のいく成績ではなかったのか、或いは本業の多忙さゆえにか、なかなか続篇は届けられず、7年を経てようやく念願叶った格好だが――やはり、私の予感は間違っていなかった。本篇もまた、とても快い良作なのである。

 原作者がそもそもお笑い芸人たちの実像に精通した放送作家であることも大きいのだろうが、やはり監督自身が芸人であることがかなり奏功しているのだろう、本篇の主人公たちの振る舞いはとてもリアルで、なおかつ、彼らに注ぐ眼差しがとても優しい。お笑いの世界で生きていく辛さ、厳しさを随所に匂わせながら、たとえばそこに不幸自慢のような卑屈さや、キャラクターを際立たせるためのわざとらしさは一切含まれていない。ネタ作りは相棒に任せっきりで自分は借金を重ねてでも後輩にいい顔をし、恋人の家に転がり込んで彼女の収入を当てにして暮らす――という小出恵介演じる甲本の人物像はかなりひどい部類に属しそうなものだが、それを糾弾するような話回しにならず、甲本というキャラクターの一種のキュートを感じさせるレベルに留めている。

 甲本も、川野やプロダクションの社長も才能を認める、という設定の田中が、平素はむしろ不器用な人物に描かれ、日常シーンではほとんどオーラを感じさせない、という表現もなかなかに実感的ではなかろうか。仄聞する話では、普段は無愛想なお笑い芸人というのはあまり珍しくないというし、普段から才気の閃くような描き方をしていれば、恐らくわざとらしくなる。何より、日常の田中が朴訥とした振る舞いをしているからこそ、ところどころに挿入されたネタの完成度に唸らされる。

 当たり前といえば当たり前だが、本篇に挿入された“房総スイマーズ”のネタは、映画と切り離して観ても本当に笑えそうなクオリティを示している。笑えそう、というのは、ネタひとつをぶっ通しで見せる場面がなく、全体像は明瞭でないためだが、しかし、断片だけ作って上出来のネタっぽく見せているような印象は受けない。通しで見てみたい、と思わせるほどだ。脚本も兼任した監督の面目躍如と言えるだろう。

 肝心なお笑いの部分がそれくらい丁寧に作ってあるから、日常の穏やかさ、なかなか軌道に乗ることが出来ないもどかしさ、失望が胸に迫ってくる。主人公のふたりを、本職の芸人ではなく俳優が演じているのも大きい。リアリティを感じさせつつ、しかし過剰な生々しさをもたらす一歩手前で踏みとどまっている。それが、作品全体に折り目の正しいコメディとしての風格を与え、少し盛りを過ぎたころの青春映画、というムードを作り上げている。本篇の優しい痛み、とでもいうべきかんかくは、しばらく浸っていたくなるくらい心地好い。

 ただ個人的には、終盤の展開、演出はいささか情緒に走り過ぎて、乗ることが出来なかった。話運びの月並みさ、不自然さが強まってしまい、率直に言ってバランスを崩してしまっている、と感じた。確かにドラマとしてはきちんと締めくくっているし、涙を誘う流れだが、私はもっとさりげなくまとめるか、あえてぼかした終わり方でも良かったように思う。こと、後年の出来事は、メインキャストの老けメイクがみな軽すぎて、手前までの真に迫った印象を損なってしまったのが惜しまれる。

 終盤の描き方がどうも納得できないため、私自身はこれを傑作とは言い切れない。だが、過程の暖かさや優しさと、匙加減をしつつも真に迫った苦みは、驚くほどの居心地の好さを作品にもたらしている。そこには監督の、映画とお笑いに対する愛情が籠もっているが故だろう。

 やっぱり、内村監督には今後も、寡作であっても映画を撮り続けて欲しい、と願わずにいられない。こういう、安心感を与えてくれる作品を撮れるひとというのは、決して多く現れるものではないから。



関連作品:

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