『ロスト・アイズ』

ロスト・アイズ [DVD]

原題:“Los Ojos de Julia” / 英題:“Julia's Eyes” / 監督:ギリェム・モラレス / 脚本:ギリェム・モラレス、オリオル・パウロ / 製作:ギレルモ・デル・トロホアキン・パドロ、マル・タルガローナ / 撮影監督:オスカル・ファウラ / 編集:ホアン・マネル・ビラセカ / 音楽:フェルナンド・ベラスケス / 出演:ベレン・ルエダ、ルイス・オマール、パブロ・デルキ、フランセスク・オレーリャ、ジョアン・ダルマウ、ボリス・ルイス、フリア・グティエレス・カバ / 配給:Presidio / 映像ソフト発売元:松竹

2010年スペイン作品 / 上映時間:1時間57分 / 日本語字幕:? / R-15+

2011年6月18日日本公開

2011年11月11日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

公式サイト : http://www.facebook.com/losteyes.movie

DVD Videoにて初見(2013/01/05)



[粗筋]

 観測所で催された学会の最中、突然奇妙な息苦しさに見舞われたフリア(ベレン・ルエダ)は、双子の姉・サラ(ベレン・ルエダ二役)の身に何かあったのでは、と思い、夫イサク(ルイス・オマール)とともに半年ぶりにサラの家に赴く。そこでふたりが見つけたのは、地下室で首を吊った状態のサラであった。

 サラは徐々に視力を喪う病が進行して1年前に失明しており、移植のドナーが現れるのを待っていたが、待ちくたびれて自ら命を絶った、というのが捜査に当たった刑事の見解だった。だが、サラの家で後始末をしていたフリアは、近隣で起きていた停電が恢復した直後、CDが鳴りはじめたことに違和感を覚える。しかも流れたのは、サラが嫌いだった曲――フリアは、サラが死んだ際、他に人がいたのでは、という疑念を抱く。サラは自ら死んだのではなく、誰かに殺されたのではないか、と考えたのだ。しかも、それ以来フリアは、何者かがまとわりついているような気配を感じはじめる。

 それでも警察は、サラが自殺した、という結論を動かそうとしない。そんなときフリアは、サラが失明した直後に面倒を見てもらった、という隣人ソレダド(フリア・グティエレス・カバ)から、最近サラが盲人たちのための福祉センターに通っていたことを知らされた。センターに赴いたフリアは、サラと交流のあった人々から、彼女には最近、ボーイフレンドがいた、と教えられる。

 直後、自分を尾行している者の存在に気づいたフリアは、懸命に追いかけたが、建物を出たところで発作を起こし、見失ってしまう――サラから視力を奪った病が、フリアにも牙を剥いたのである。

 失われゆく光と、深まる疑念。そんななか、フリアを新たな悲劇が襲う……



[感想]

 ギレルモ・デル・トロが製作を手懸けた作品には、私の知る限り、外れがない。報道の自由が孕むジレンマを扱った『タブロイド』、超自然ホラーという殻の中に優れたドラマを秘めた『永遠のこどもたち』、倫理まで問いかけるSFサスペンスの秀作『スプライス』、そして自身で脚本まで担当し磨き上げた往年の名作怪奇映画のリメイク『ダーク・フェアリー』――まあ好みの問題が大いにあるにせよ、この方の名前がクレジットに掲げられている作品はほとんど、それぞれのジャンル、スタイルの枠内で堅牢に組み立てられていることは断言していいだろう。

 本篇もまた例に漏れず、まるで初期のダリオ・アルジェント作品のような空気を宿しながら、緻密に組み立てられたスリラーとなっている。むしろ、完成度としてはアルジェント作品よりも上、ジャンル全体を見渡しても上位に属する傑作と言ってもいい。

 この作品の着眼は何より、病によりじわじわと失明しつつある女性を中心に据えたことにある。現実にこうした進行をする病が存在するのか、というのは問題ではない。序盤から、視野が限られているが故に生じる恐怖、怯えを織りこんで不穏な空気を醸成していくとともに、ヒロインであるフリアの今後を心配するあまりに事件への関与を巡って夫と言い争いになる、といった派生的なエピソードを生み出し、ストーリーを転がす原動力ともなっている。

 特に唸らされるのは中盤以降だ。病が進行し、遂に失明寸前まで追い込まれたフリアは、医師の薦めで急遽移植手術を受けるが、術後約2週間は目を閉じていないと新しい目も駄目になる、と言われる。そこでずっと眼に包帯を巻いたまま過ごすことになるのだが、この特異な状況で演出されるサスペンスが素晴らしい。目が見えない、というフリアの立場を観客にも共有させる独特のカメラワーク、しばしば襲いかかる妄想がフリア自身を疑心暗鬼に駆り立て、いっそう事態を混乱させていく。

 本篇は、犯人は誰か、という謎解きの興味で惹きつける、というよりは、誰が犯人か解らない、という状況に視点人物であるフリアもろとも観客を据え、振り回し続けるところにこそ本領があり、面白さがある。疑いの対象が少しずつずれ、誰を信用していいのか解らない。事態も変化していき、段階的に明かされる事実が驚きと、新たなる恐怖をもたらしていく。本篇の犯人について、ひとによっては途中で察しがつくだろうが、だからといって自分の勘を信用はできないだろうし、気がついたところで緊迫感が薄れるわけではない。

 謎解きの興趣は乏しい、とはいうものの、衝撃をもたらすため、或いは後々の出来事に繋がる伏線など、仕掛けは緻密だ。犯人の背景が、フリアの設定と巧く絡んでいることが終盤の展開に深みを添えているし、最後のシーンの印象も鮮烈に際立たせている。エピローグはいささか情緒的に過ぎるが、悲劇でしかなかった出来事にほんの少しだけ救いを残し、余韻を優しくしている。

 決して過激ではないが、鮮血の描写もあって、全篇にまつわる香気には王道のスリラーの趣がある。手に汗握る感覚を味わえるスリラーが欲しかった、というひとにとって、独自の趣向まで凝らした本篇は、思いがけないところからもたらされた歓びとなるに違いない。





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