『LOOPER/ルーパー』

TOHOシネマズ日劇、外壁の看板。

原題:“Looper” / 監督&脚本:ライアン・ジョンソン / 製作:ラム・バーグマン、ジェームズ・D・スターン / 製作総指揮:ダグラス・E・ハンセン、ジュリー・ゴールドスタイン、ピーター・シュレッセル、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、ダン・ミンツ / 撮影監督:スティーヴ・イェドリン / プロダクション・デザイナー:エド・ヴァリュー / 編集:ボブ・ダクセイ / 衣装:シャレン・デイヴィス / 特殊メイク:辻一弘 / 音楽:ネイサン・ジョンソン / 出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィットブルース・ウィリスエミリー・ブラントポール・ダノ、ノア・セガン、パイパー・ペラーボジェフ・ダニエルズ、トレイシー・トムズ、フランク・ブレナン、ギャレット・ディラハント、ニック・ゴメス、ピアース・ギャニオン / 配給:GAGA×Pony Canyon

2012年アメリカ作品 / 上映時間:1時間58分 / 日本語字幕:松浦美奈 / PG12

2013年1月12日日本公開

公式サイト : http://looper.gaga.ne.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2013/01/12)



[粗筋]

 タイムトラベル、なんてものは架空の存在だと思ってないか? あんたたちの時代にはまだそうかも知れない。しかし、オレたちの時代には誕生している。

 いや、厳密に言えば、このオレ、ジョージョセフ・ゴードン=レヴィット)がまだ意気揚々としている2044年には作られていない。発明されるのはいまから30年後だ。しかし、この技術はすぐに法律によって禁じられ、活用するのは犯罪者だけになった。

 2074年、わずか半年のうちに5つの組織を制圧、カンザスシティの闇の帝王に君臨した“レインメーカー”は、裏切り者や敵対勢力など、処刑するべき人間を過去へと送りこまれる。そして、2044年にいる者が、送りこまれた人間をラッパ銃で処刑し、処分する。未来から屍体は消え、組織は安泰、というわけだ。2044年の世界は、30年後から送りこまれたエイブ(ジェフ・ダニエルズ)が必要な人員を組織、“現地”でのしのぎや、処刑を監督する仕組みになっている。そのなかで、処刑を担当するオレたちのような人間を、ルーパーと呼んでいる。報酬は、荷物に括りつけられた銀塊だ。

 簡単だが実入りのいいこの仕事の“引退”は、突然通達される。ある日、いつもと同じように荷物を処分していると、その荷物が30年後の自分であることを、銀塊の代わりに大量に括りつけられた金塊で悟らされる。それをオレたちは“ループが閉じる”と言い、その日を境に仕事を退き、30年と定められた余命を過ごすことになるのだ。

 だが、ときどき失態を犯す奴が現れる。こともあろうに、オレの親友であるセス(ポール・ダノ)がこのイレギュラーに陥ってしまった。送られた荷物が30年後の自分であることに気づき、油断している隙に逃げられてしまったのだ。奴はオレを頼ってきたが、エイブはセスの行動を見抜いている。奴を引き渡す以外に、方法は残されていなかった。

 この頃から、ループが閉じていく奴が相次ぐようになる。オレの負担は奇妙なほどに重くなっていった。そして、いつもと同じ調子で、ラッパ銃を構え待ち構えていたオレは、目の前に現れた“荷物”が頭に覆いを被っていないことにまず度胆を抜かれる。そして、それが未来のオレ(ブルース・ウィリス)だ、と気づいた次の瞬間、不意を衝かれ、殴り倒されてしまう……



[感想]

 タイムトラベルものこそSFの醍醐味――と言ってしまうと色々と語弊があるが、しかし極めて定番だからこそ、実は扱いが難しい題材である。安易にやれば、作中で矛盾を来して破綻してしまうし、かといって守りに入れば凡庸なだけの代物にもなってしまう。何より、お馴染みだからこそ、SF愛好家のみならず、こうした入り組んだ趣向を好むひとの目が厳しくなる。

 その点、本篇はこの“タイムトラベル”という趣向に対する向き合い方が堂に入っている。行き来が簡単、という状況にせず、法によって統制されているからこそ犯罪に悪用される、という他の出来事でもあり得るジレンマを組み込むことで、新しい光を当てた。そこを起点にして、多くのアイディアを採り入れ、ひとつひとつはオーソドックスなアイディアであっても、トータルとしては独自の強度を備えた作品世界を生み出している。

 タイムトラベルを題材にしたフィクションは、たいていの場合、パラドックスに悩まされることになる。かの名作『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『ターミネーター』でさえ、よくよく検証していくと深刻な矛盾に行き会ってしまう。だが、こうした作品について、その点がさほど問題視されないのは、疑問点を凌駕するほどに物語が面白かったり、ルールが洗練されているからだ。

 本篇も、よくルールを検証してみれば、確実にタイム・パラドックスに捕らわれてしまう。しかし、よほどそうしたルールの矛盾に敏感なひとでもなければ、意識することは少ないだろう。この作品のルールはそのくらい完成度が高く、物語の面白さに貢献している。

 30年後に生まれ犯罪に用いられるタイムトラベルの技術、それ故に状況によって余命を束縛される、という、運命を意識させる設定がもたらす奇妙な諦念。だからこそ当然のイレギュラーが発生するが、その場合にルーパーを襲う“悪夢”を描くあたりが巧妙だ。しかも、その描写において、別のルールを提示し、それを粗筋で記した以降の、ヤング・ジョーとオールド・ジョーとの追いつ追われつのドラマにも敷衍していくのがまたしたたかだ。

 主人公は間違いなく若き日のジョーのほうだが、しかしこのジョーの行動が正しいのか、老いジョーのほうが正しいのか、という混乱が生じている。下手な語り手であればこの時点で失敗作に転落させてしまうだろうが、本篇はむしろこの混乱を、うまく緊張と、観客を牽引する謎に昇華している。果たしてどちらが正しいのか、どちらが物語を終結に導いていくのか? 解らないからこそ謎が途切れず、最後までのめり込んでしまう。

 それにしても素晴らしいのはジョセフ・ゴードン=レヴィットである。他の作品をご覧になった肩ならご存知だろうが、彼は決してブルース・ウィリスに似てはいない。より細面で、照れているような柔らかな笑みが魅力なのだが、本篇に登場する彼は、驚くほど見事に“若きブルース・ウィリス”の見た目と雰囲気を纏っている。共演者でさえ度胆を抜かれた、という特殊メイクの力ももちろんあるだろうが、口調や素振りを巧みに吸収し、モノマネとは違う、本篇の“オールド・ジョー”の若き日、というイメージを完璧に体現した演技には舌を巻くばかりだ。

 本篇の結末は、だがそうして緻密に組み立てられたわりに、予想することは困難ではない。故に“安易”という評価に飛びついてしまうひともいるだろうが、それこそ軽率な判断だ。そこに至る道筋は決してシンプルではなく、多くの人物や出来事が絡み、紆余曲折を経て辿り着いている。だからこそ、本来パラドックス如実に抱えこむ発想であるにも拘わらず、それをほとんど意識させず、サプライズとしても効果を上げ、感動さえももたらす。

 たとえば『マトリックス』のような革新を感じさせる、というものではない。しかし、タイムトラベル、という題材を用いたものを一括りにするならば、間違いなく最高水準に属する傑作である。



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