『アルゴ』

TOHOシネマズ錦糸町、スクリーン前に掲示されたチラシ。

原題:“Argo” / 監督:ベン・アフレック / 脚本:クリス・テリオ / 製作:グラント・ヘスロヴベン・アフレックジョージ・クルーニー / 製作総指揮:デヴィッド・クローワンズ、ニーナ・ウォラースキー、クリス・ブリガム、シェイ・カーター、グレアム・キング、ティム・ヘディントン / 撮影監督:ロドリゴ・プリエト,ASC,AMC / プロダクション・デザイナー:シャロンシーモア / 編集:ウィリアム・ゴールデンバーグ,A.C.E. / 衣装:ジャクリーン・ウェスト / 音楽:アレクサンドル・デスプラ / 出演:ベン・アフレックブライアン・クランストンアラン・アーキンジョン・グッドマン、ヴィクター・ガーバー、テイト・ドノヴァン、クレア・デュヴァル、スクート・マクネイリー、ロリー・コクレイン、クリストファー・デナム、ケリー・ビシェ、カイル・チャンドラークリス・メッシーナジェリコ・イヴァネク、タイタス・ウェリヴァー、キース・ザラバッカ、ボブ・ガントン、リチャード・カインド、リチャード・ディレイン、オミッド・アブタヒ、ペイジ・レオン、シェイラ・ヴァンド、マット・ノーラン、J・R・カシア、ロブ・ブラウンスタイン、デヴィッド・サリヴァン、ジョン・ヴォイド、スコット・アンソニー・リート、マイケル・パークス、エイドリアン・バーボー、リンゼイ・ギンター、テイラー・シリング / スモークハウス製作 / 配給:Warner Bros.

2012年アメリカ作品 / 上映時間:2時間 / 日本語字幕:松浦美奈

2012年10月26日日本公開

2013年3月13日映像ソフト日本盤発売 [Blu-ray & DVDセット:amazon]

公式サイト : http://www.argo-movie.jp/

TOHOシネマズ錦糸町にて初見(2012/12/06)



[粗筋]

 1979年11月、イランのアメリカ大使館が、過激派によって占拠された。彼らの狙いは、当時国外に逃亡し、アメリカでガンの治療を行っていた前国王パーレビの身柄の引き渡しである。

 人道上、外交上の見地からアメリカは易々とこの要求を呑むことは出来ず、膠着状態は長期に亘った。時間が経つにつれ、問題となったのは過激派によって人質となった52人ではなく、占拠されるギリギリのところで脱出に成功した6人である。既に国境を押さえられていた都合で国外には出られず、まだ中立的な立場にあるカナダ大使の公邸に身を寄せていたが、もし逃亡が知られれば、6人が見せしめのために処刑されることは確実であり、更にはカナダにまで火の粉が飛ぶ可能性がある。国務省は早急に、6人を救出する必要があった。

 独自に救出策を練る一方、国務省はCIAにも協力を要請する。派遣されたのは、これまでに何度も人質の救出を成功させていたスペシャリスト、トニー・メンデス(ベン・アフレック)である。

 さしものトニーであっても、国務省の職員たちの案を否定しても対案さえひねり出せないほど困難な使命だったが、離れて暮らしている息子と電話をしているとき、トニーはにわかに突拍子もない閃きを得た。

 この頃、ハリウッドではSF大作が花盛りとなっていた。撮影にはしばしば特異な光景が求められ、スタッフは機材を海の向こうまで運搬して撮影することも珍しくない。そこでトニーは、SF映画の撮影と偽ってイラン政府に入国を申請、スタッフを装った6人を伴って脱出する、という計画を立案した。

 前例がなく、当然技術など確立されてもいないこの計画に、トニーの能力を知る上層部はともかく、協力を求めた国務省は難色を示す。しかし、最低のなかからマシなものを選ぶしかない現状、迷っている余裕はなかった。トニーは手始めに、かねてから親交のあった特殊メイクの専門家ジョン・チェンバース(ジョン・グッドマン)の協力を仰ぐところから、準備に着手する――



[感想]

 これが実話だ、ということにまず驚かされる。実のところ、題材の魅力だけでも観客を引っ張る力はある。

 だが、そこに製作者の手腕、俳優たちの演技力が遺憾なく発揮されれば、更に望ましい。本篇は、理想的なスタッフに恵まれた、と言っていいと思う。

 本篇のうまいところは、題材が孕む社会的な問題性を、恐らくは意識的に排除していることだ。何故、こういう事件が起きたのか、という点にはあまり踏み込まず、大使館から脱出したはずの人々が不可避的に窮地に追いやられた事情を、ナレーションなどを交えることなく手際よく伝えている。そもそもこのタッチに社会派の眼差しは邪魔だ、というのを早い段階で割り切り、サスペンスにおける舞台形成の手順に徹して描き、当事者には申し訳ないが、シチュエーションの“面白さ”を強烈に印象付けている。

 そして、いざ救出作戦の具体像が見えてからの紆余曲折が、ユニークながらしっかりとしたサスペンスの趣を作り出している。発案当初はその突飛さゆえに拒絶されそうになり、実行の段になると普通の救出作戦ではあり得ない手順を踏まざるを得なくなる。リアリティを付与するために、実際には製作するつもりの毛頭ない映画の製作発表を大々的に行うあたりなど、実はイラン潜入のくだり以上に本篇の真骨頂と言っていいかも知れない。

 まだろくに敵とのニアミスさえ起きていない段階でこの奇妙な緊迫感を維持できるのだから、いざ潜入して以降のスリリングさが申し分ないのも当然だろう。極めて危険な計画に、救助対象者でさえ尻込みし、更には外交上の事情からも障害が生じる。正直なところ、サスペンス映画として理想的すぎる話の転がり方は、どの程度まで現実に沿っているのか疑わしく思えるが、恐らく実際の出来事を整理して再構成するなどの工夫を施したうえで虚構を加えているのだろう。仮にどれほど虚構が含まれていたとしても、腹を立てるひとはいないはずだ。それほどに本篇の筋立ては純粋に面白く、牽引力に富んでいる。

 エンドロールで明示される、本篇中の映像の優れた再現度や、引用する音楽や映画、ひいてはワーナー・ブラザーズのロゴを当時多用されていたものに変更する趣向など、細部にまで配慮を施していることも窺え、当時や事件の成り行きを知っているひとにとっても多彩な楽しみ方がありそうだが、そういうことを抜きにして、純然たる娯楽映画として堪能できる仕上がりである。ほぼ2時間みっちりと、登場人物とともに極限の緊張感に身を浸し、ラストには爽快感を味わえる。

 監督と主演を兼任したベン・アフレックはこれがわずか3作目にも拘らず、堂々たる采配ぶりだ。現時点でゴールデン・グローブ賞4部門ノミネート、アカデミー賞でも有力株と目されているが、それも当然の痛快な1本である。



関連作品:

ゴーン・ベイビー・ゴーン

ザ・タウン

サンシャイン・クリーニング

人生の特等席

猿の惑星

最後の猿の惑星

エイリアン

チャーリー・ウィルソンズ・ウォー

別離

告発のとき