『トータル・リコール』

ユナイテッド・シネマ豊洲、スクリーン12入口に掲示されたポスター。

原題:“Total Recall” / 原作:フィリップ・K・ディック『追憶売ります』 / 監督:レン・ワイズマン / 脚本:カート・ウィマー、マーク・ボンバック / 原案:ロナルド・シャセット、ダン・オバノン、ジョン・ボヴィル、カート・ウィマー / 製作:ニール・H・モリッツ、トビー・ジャッフェ / 製作総指揮:リック・キドニー、レン・ワイズマン / 撮影監督:ポール・キャメロン,ASC / プロダクション・デザイナー:パトリック・タトポロス / 編集:クリスチャン・ワグナー / 衣装:サーニャ・ミルコヴィッチ・ヘイズ / 視覚効果スーパーヴァイザー:ピーター・チャン / キャスティング:デブラ・ゼイン,CSA / 音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ / 出演:コリン・ファレルケイト・ベッキンセールジェシカ・ビールブライアン・クランストン、ボキーム・ウッドバイン、ジョン・チョウ、ビル・ナイ / オリジナル・フィルム製作 / 配給:Sony Pictures Entertainment

2012年アメリカ作品 / 上映時間:1時間58分 / 日本語字幕:林完治

2012年8月10日日本公開

2013年1月9日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video(初回生産限定):amazonBlu-ray & DVDセット:amazonBlu-ray amazon限定スチールブック仕様:amazonBlu-rayコレクターズBOX:amazon]

公式サイト : http://www.totalrecall.jp/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2012/09/20)



[粗筋]

 21世紀末、人類は世界大戦で大量の化学兵器を使用、結果として地球は大半が居住困難な状態となった。人類は、かつてのイギリスにあたる、支配層が暮らすブリテン連邦と、ちょうど地球の真裏にある往年のオーストラリアに形成された、貧困者が暮らす“コロニー”のふたつに分裂する。“コロニー”の労働者たちは毎日、地球を貫く巨大エレベーター“フォール”を用いてブリテン連邦に移動し、仕事をしてコロニーに戻る、ということを繰り返して生計を得ている。

 ブリテン連邦の住人だけが富を享受する状況に不満を蓄積したコロニーの一部住人は、反体制活動に身を投じるようになった。マサイアスという指導者のもと、日々テロ行動に及ぶ彼らに、ブリテン連邦の代表コーヘイゲン(ブライアン・クランストン)は警察用ロボット・シンセティックの増産を提言する。

 そうしててんてこ舞いとなった工場の一つに勤務するダグラス・クエイド(コリン・ファレル)は、最近奇妙な夢に悩まされていた。失踪する列車の中で何者かに追われ、ひとりの女と助け合って逃げていたが、最後に捕縛される、という夢である。

 妻のローリー(ケイト・ベッキンセール)は気にしなくていい、と諭すが、ダグラスは自分が平凡な暮らしに飽き、冒険に憧れているのではないか、という想いに囚われた。そんな彼の目を惹いたのが、リコール社のCMである。自分が憧れてやまない体験を、記憶として脳に書き込む、というサービス内容は、夢に悩まされるダグラスに響いた。

 脳障害を起こす例もあった、という忠告を受けながらも、ダグラスは関心が尽きず、とうとう雑多な歓楽街の片隅にあるリコール社の店舗に足を向ける。店構えも店員もどこか胡散臭いが、話はトントン拍子に進み、ダグラスは記憶の移植を頼むことになった。

 だが、いざ記憶を移植しようとしたとき、店員が妙なことを指摘する。ダグラスの脳には既に、いちど記憶を移植した痕跡がある、というのだ。

 そしてそのとき、店内に警察の特殊部隊が現れた。店員を射殺すると、ダグラスに対しても銃口を向けるが、このときダグラスは、自分でも予想外の反応を示す。重装備の警官たちに立ち向かい、またたく間に戦闘能力を奪ってしまったのである――



[感想]

 フィリップ・K・ディックによる短篇小説の再映画化、と聞いていたが、同題映画のリメイク、と素直に言ったほうがいいだろう。そのくらい、基本的な骨格は共通している。

 ただ、ヴィジュアルの印象はかなり変化している。火星の灼けついたような、乾いた空気が濃密だったあちらに対し、本篇は無機質な光景と、やたらと薄汚れて湿った空気が充満している。全体的なトーンの暗さは似通っていても、意識的に差異をつけているように感じた。骨格は共通、とは言い条、ストーリーの細部も違っている。

 だが、面白さは決して減じていない。夢に悩まされる男が、何気なく立ち寄った“記憶屋”で、自らの記憶が改竄された過去があることを知り、訳も解らぬまま追われる身となる。己の過去が危うくなると、敵も味方も判然としない状況となり、男は激しく翻弄される……。

 オリジナルでは筋骨隆々たるアーノルド・シュワルツェネッガーが演じていたため、始まった時点から主人公がただの人物とは思えず、当然のように激しいアクションへとなだれ込んでいったが、本篇で同じ人物を演じるコリン・ファレルは、アクション大作への出演経験もあるが、どちらかと言えばサスペンスや、独立系の作品によく顔を見せる、演技派の俳優である。それ故に、アクションそのものに不自然さはないが、同時に自分の強さ、立ち位置に疑問を抱く、という人物像も浮き彫りにし、物語本来の緊張感をレベルアップさせている。原作者のフィリップ・K・ディックはもともと記憶や自己の存在意義を問う作品を多く手懸けており、シュワ版でもこうしたテーマはきちんと盛り込まれていたが、本篇はより原作者の精神に近づけた、と言えるだろう。

 一方で、アクション描写も決して手を抜いていない。電気磁石で制御した乗用車を用いたカーチェイスがあるかと思えば、建物のベランダからベランダへ飛び移る泥臭くも危険な生身の追跡劇を演じる。クライマックスでは、縦横に行き交うエレベーターをかわしながらの複雑なアクション・シーンもあり、趣向はふんだんだ。

 しかし、ちょっと勿体なく思うのは、作中登場する未来的なモチーフに、ことごとく既視感を覚えることだ。コロニーの歓楽街のイメージは同じフィリップ・K・ディック初の映画化作品『ブレードランナー』の束縛を未だ逃れていないし、ロボットの警官、というのも最近の『アイ,ロボット』を筆頭に繰り返し登場している。清潔感と沈鬱さのない混ざったような美術全般も、最近映画化されたディック作品のイメージを踏襲しすぎているように映る。

 もっとも、多くのSF映画が撮影され、基本的なパターンはほとんど網羅され尽くしている、と言っていい現在、新しいイメージを創造するのは容易ではない。新奇なものにこだわって破綻させてしまうよりは、いちど用いられたイメージを敷衍し、より洗練し整合性のあるものに仕立てた方が合理的だ。冒険にもう少し乏しい、という印象は否めないものの、既に完成されたテーマを描く上で、モチーフの取捨選択は完璧と言っていい。

 映像やアクションの構成そのものが王道なので、新味に欠く、と否定的に捉えてしまうひとも多いだろうが、王道であるが故に完成度の高いSFアクション・エンタテインメントとなっている。シュワ版にどーしようもなく愛着がある、というひとでもなければ、充分に楽しめるだろう。



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