『007/スカイフォール(字幕)』

TOHOシネマズ日劇、外壁の看板。

原題:“Skyfall” / キャラクター創造:イアン・フレミング / 監督:サム・メンデス / 脚本:ニール・パーヴィスロバート・ウェイドジョン・ローガン / 製作:バーバラ・ブロッコリ、マイケル・G・ウィルソン / 製作総指揮:カラム・マクドゥガル / 共同製作:アンドリュー・ノークス、デヴィッド・ポープ / 撮影監督:ロジャー・ディーキンス,ASC,BSC / プロダクション・デザイナー:デニス・ガスナー / 編集:スチュアート・ベアード,A.C.E. / 衣装:ジェイニー・ティーマイム / 特殊効果スーパーヴァイザー:クリス・コーボルド / スタント・コーディネーター:ゲイリー・パウエル / 第二班監督:アレクサンダー・ウィット / 音楽:トーマス・ニューマン / 主題歌:アデル『Skyfall』 / 出演:ダニエル・クレイグハビエル・バルデムレイフ・ファインズナオミ・ハリスベレニス・マーロウアルバート・フィニーベン・ウィショー、オラ・ラパス、ロリー・キナー、ジュディ・デンチ / 配給:Sony Pictures Entertainment

2012年アメリカ作品 / 上映時間:2時間23分 / 日本語字幕:戸田奈津子

2012年12月1日日本公開

公式サイト : http://www.skyfall.jp/

TOHOシネマズ日劇にて初見(2012/12/01)



[粗筋]

 イスタンブールで事件は起こった。MI6の拠点が襲撃され、NATOの極秘指令に関する情報を収めたハードディスクが盗まれたのだ。いち早く駆けつけたジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)が現地の諜報員イヴ(ナオミ・ハリス)とともに犯人を追跡、追いつめたが、極限状態の難しい状況に陥り、ロンドンから指揮をしていたM(ジュディ・デンチ)はボンドに当たる危険を承知でイヴに銃撃を命じる。そして、銃弾はボンドひとりを貫き、殺しのライセンスを持つエージェントは、川に転落して姿を消した。

 それから3ヶ月後のロンドン。重大な機密情報を奪われたことでMは周囲からつるし上げを受けていた。首相直々に彼女を監視するよう命じられたという情報国防委員会委員長のマロリー(レイフ・ファインズ)はあからさまに引退を示唆するが、この窮地に仕事を放棄するつもりなどMにはない。だが、マロリーのもとから戻る途中で、盗まれたハードディスクにアクセスした、という信号を受信、その場所がMI6にあるMの執務室のPCだと判明した直後、彼女の目の前で、執務室は爆破された。Mの助手タナー(ロリー・キナー)のラップトップにはそのとき、“お前の罪を思い出せ”という何者かからのメッセージが表示されていた。

 同じ頃、遥か離れた地で、テレビから流れてきたイギリス諜報局を相手にしたテロ攻撃の報に瞠目していた男がいた。それは他でもない、ボンドであった――MI6でも生存が確認出来ず、M直々に弔辞を読んで葬ったはずだったが、彼は辛うじて生き延び、海辺の街で酒色に溺れていたのだ。だが、Mを襲った危機を知り、まだ傷口に銃弾の破片が残った身体のまま、ロンドンへと舞い戻る。

 療養中の自堕落な生活で鈍っていたボンドにとって、復帰のための適性テストは容易ではなかったが、Mは辛うじて通過したと告知、彼の復帰を認める。ボンドの肩に残っていた銃弾の破片から、ハードディスク強奪の犯人をパトリス(オラ・ラパス)と特定され、男が上海に現れたことを突き止めると、Mはボンドを派遣する。

 復帰したばかりで、ボンドのコンディションは万全からは程遠い。そして、彼を待ち受ける黒幕は、彼らのことを熟知する強敵であった――



[感想]

 シリーズ第1作から数えて50年目の節目だから、というだけではない。配給会社の経営危機から撮影が棚上げとなり、予算の縮小などネガティヴな話題が相次いだあと、どうにか完成に至った、という経緯が本篇にはある。だからこそ、徹底して情熱を注ぎ込まれ、研ぎ澄まされたかのような作品に仕上がったのかも知れない。

 冷戦時代の終結とともに、現実世界でスパイの重要性が薄れ、合わせてスパイ映画自体も衰退していってしまった。そんな中にあってこのシリーズは手を換え品を換え命脈を繋いできたが、ピアース・ブロスナンのシリーズで確立されたような、一種漫画的なスタイルもいつしか行き詰まり、6代目のジェームズ・ボンドに就任したダニエル・クレイグ参加以降の2作品では、成功を収めた“ジェイソン・ボーン”シリーズのリアル志向のアクションと、『クラッシュ』でアカデミー賞を獲得したポール・ハギスによる精緻な脚本を取り込み、より成熟した路線にシフトしていった。ボーン・シリーズ(とりわけポール・グリーングラス監督による2作)を愛する私としては喜ばしい変化である一方、アクション映画のスタイルがどれも似たり寄ったりになっていくことに、若干の不安を覚えてもいた。

 前作から3年を経た本篇では、史上初めて、アカデミー賞監督であるサム・メンデスを招いている。前作でも、インディペンデント作品で経験を積んできたマーク・フォースターを据えており、いよいよシリアスに、文芸路線に傾いていくのか、と当初は想像していたのだが、実際に完成された本篇は、微妙に違ったテイストを醸している。

 どの作品でも異様なほどに美しい構図で魅了してきたサム・メンデス監督であるだけに、初のアクションとなる本篇でも構図に隙はない。舞台の遠景、登場人物同士の静かな駆け引きの場面は当然ながら、アクション・シーンでも随所で絶妙な映像を用いてくる。冒頭12分にわたるプロローグの、激しいシークエンスにおいてでさえ、その冴えは窺える。

 シナリオの成熟度も、前2作と比較して遜色はない。よくよく分析していくと構造自体はシンプルに近いのだが、シチュエーションの掘り下げは行き届いている。敵の黒幕がなにを意図して行動しているのか、それがボンドの立ち位置にどう影響したのか。奥に潜む主題もきちんと一貫しており、味わい深い。

 そうして、ある側面から分析していくと、あくまで本篇はダニエル・クレイグが起用されてからの007シリーズの様式を踏襲しているかに見える。事実、大筋ではその通り、と言っていいのだろうが、しかし少しだけ、トーンが変化している。

 ポイントは映像や、ボンドの立ち居振る舞いが醸しだす色香が、前2作よりも増していることにある。サム・メンデス監督と名撮影監督ロジャー・ディーキンスという組み合わせならではの安定感のある構図に、ふんわりと漂う、品のある艶めかしさ。ダニエル・クレイグ版でも損なっていなかった、女たらし、というボンドの個性は、しかし物語が抱えた“宿命の女”の存在によっていささか純化されてしまった感があったが、その束縛から解き放たれたゆえか、本篇においては程良い匙加減で戻っている。レーティングに配慮してか、直接的な描写は最小限に抑えられているが、それでもボンドが醸しだす“男”としての魅力は、前2作よりも濃密だ。寡黙ではあるが、ときおり発するイギリス人らしいユーモアも、効果を上げている。

 そして本篇のもっとも特徴的な一面は――スパイ映画である、ということだ。

 当たり前じゃないかそんなもん、と思われるかも知れないが、言うほど単純でもない。前述したように、冷戦の終結とともにスパイ映画は急激に衰退した。それは、物語としてカタルシスをもたらすような敵を設定することが難しくなり、スパイそのものの存在意義が曖昧になってしまったが故である。“ジェイソン・ボーン”シリーズはその事実に向き合い、さながら亡霊のような自らの過去と対峙する状況を描くことでこの問題を打開してきたが、ダニエル・クレイグが引き継いだ6代目ボンドのシリーズでは、決してこの点に充分に自覚的ではなかった。

 しかし本篇では、ボーン・シリーズとは異なる形で“過去の亡霊”を出現させることで、ボンドの戦うべき強固な相手を設定するとともに、スパイというものの存在意義についての問いかけさえ巧みに組み込んでいる。ハビエル・バルデム演じる、あまりに個性の強烈なシルヴァ初登場のシーンでの長広舌と、クライマックスの手前、査問会の席で政府のお歴々を前にMが信念を口にするシーンは、本篇の白眉であるとともに、極めて象徴的な場面だ。

 中心人物であるボンド自身は決して多くを語らないが、自らの狙撃を指示する声を聞いてなお、Mの窮地を知るや祖国に帰還し、なまった身体に鞭打って任務に臨む。クライマックス、そんな彼に共鳴するようにして、関係者たちが自らの職務に赴くさまは、決して華々しくはないが実に凛々しい。そこには確かに、諜報部員という自らの職掌に矜持を持つ人々の姿があるのだ。

 ボンドたちを翻弄する圧倒的な悪役に扮したハビエル・バルデムや、これまで以上に露出してボンドを支える脇役としての存在感を示したジュディ・デンチなど役者陣の素晴らしさや、私程度の知識しか持ち合わせなくとも、ダニエル・クレイグが着任して初めて登場するQや“Her Eyes Only”という台詞に、クライマックスでにわかに姿を見せたアストン・マーティンといったファンをニヤリとさせるモチーフの数々、そして結末であらわになるもうひとつの主題など、語るべき点は尽きない。しかしいずれにせよ、本篇が多くの苦難を乗り越え、厳しい状況のなかにあっても見事に結実した、節目に相応しい傑作であることは、観ていただければ解るはずだ。



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