『鍵泥棒のメソッド』

TOHOシネマズ西新井、施設外壁に掲示されたポスター。

監督&脚本:内田けんじ / プロデューサー:深瀬和美、赤城聡、大西洋志 / エグゼクティヴプロデューサー:藤本款 / 撮影:佐光朗 / 美術:金勝浩一 / 編集:普嶋信一 / キャスティングディレクター:杉野剛 / 音楽:田中ユウスケ / 主題歌:吉井和哉『点描のしくみ』 / 出演:堺雅人香川照之広末涼子荒川良々森口瑤子小山田サユリ木野花小野武彦 / 製作プロダクション:シネバザール / 配給:KLOCKWORX

2012年日本作品 / 上映時間:2時間8分

2012年9月15日日本公開

公式サイト : http://kagidoro.com/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2012/09/26)



[粗筋]

 売れない役者・桜井武史(堺雅人)は人生に絶望し、自殺を試みた。しかし、電灯にぶら下げたケーブルがあっさりと切れ、失敗。残った金をかき集め、せめて身ぎれいになっておこうと、桜井は近所の銭湯へ赴く。

 桜井が身体を流していると、事件が起こった。あとから入ってきた客(香川照之)が、石鹸に足を取られて転倒、昏倒したのである。そのとき、客が手にしていたロッカーの鍵が滑り、桜井の足許に飛んできた。にわかに魔が差した桜井は、自分の鍵とその客の鍵をそっと交換、救急車で搬送される客を横目に、彼が使っていたロッカーを開けてしまった。

 桜井は客の服と、銭湯まで乗ってきた車を借り、その所持金を拝借して、借金している友人たちに返済して回った。かつての恋人・理香(内田慈)まで訪ねたあと、残ったお金や服を返すために、客の収容された病院に赴くが、くだんの客は頭の打ち所が悪かったために、記憶を失っている。そのことを知った桜井は、事情を語ることなく、客の荷物を入れた紙袋を携えて、病院を出てしまった。

 一方の客は、記憶を失ったことを除いて身体に異常はなく、間もなく退院が認められた。ロッカーの荷物から、自分が“桜井武史”である、と判断されてしまった客は、ピンと来ないながらも、身分証に記された住所に赴こうとする。そのとき、病院の前で道を訪ねた女性が、親切にも客を家の近くまで送る、と申し出てくれた。高級品の特集をメインとする雑誌の編集長を務めるその女性、水嶋香苗(広末涼子)は車中で“桜井”の事情を知り、同情して、後日も様子を見に来る、と言って立ち去っていった……



[感想]

 監督の内田けんじは、複数の視点から物語を綴り、様相の変化を畳み掛けるように見せていく『運命じゃない人』、ひとりの女を軸とする事件をトリッキーに見せた『アフタースクール』と、練り込まれたシナリオで観客を魅せてきた。

 本篇については、注目の高かった製作段階から「今回は解りやすくする」といった趣旨の発言を監督がしていたとおり、前2作と比較すると、冒頭から状況は明白だ。テンポも軽快なので、素直な印象を受ける。

  たしかに、前2作ほどにひねりを効かせた作品ではない。しかし、練り込まれたシナリオ、という内田監督作品のテイストは間違いなく保持している。むしろ、仕掛けがスッキリしたからこそ、語りの巧さ、成熟が実感できる内容になっているとさえ言えそうだ。

 仕掛けこそ明快だが、本篇の秀逸さは、それを活かすための描写、伏線の豊富さにある。冒頭、コンドウの仕事ぶりを描くくだりで既に布石は用意されており、それが段階的に響いてくる巧さは、旧作にあったサプライズに劣るものではない。

 かくも緻密でありながら、当代きっての演技派である堺雅人香川照之が伸び伸びと、自由に演じているように感じる点も見事だ。じっさい、かなりのアドリブを混ぜていることも事実らしいが、そういうゆとりさえ生み出せるアイディアをきっちり飼い慣らしている、そのこと自体が評価できる。

 そして、そうした表現がすべて、映画ならではの手法で描かれていることに、ニヤリとせずにはいられない。冒頭、ふたりのメインキャストが交錯するまでのくだりで描かれたモチーフを終盤で反復させる技が巧みだが、このスタイルを敷衍した、クライマックスの仕掛けのしたたかさには舌を巻く想いがする。

 特に秀逸なのは、やはりラストの趣向だ。サプライズというのとは違う、しかし意表を衝かれた、という驚きと、色々なものが腑に落ちる爽快感、更にトキメキまで共存させてしまった辺りには脱帽する他ない。あのアイディアを、他の表現媒体でやろうとしたところでなかなか巧くいかないことを思えば、これほど映画に対する自負を感じさせる結末もそうはない。

 発想がシンプルになったからこそ、映画であるが故の面白さがいっそう如実になった。『運命じゃない人』や『アフタースクール』が愛すべき傑作であることは動かないが、本篇は内田けんじ監督が優れたフィルムメーカーであることを、何よりもはっきり証明した記念碑的作品と言っていいのではなかろうか。



関連作品:

運命じゃない人

アフタースクール

武士の家計簿

カイジ2 人生奪回ゲーム

ゼロの焦点

シャレード

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