『ミッドナイト・イン・パリ』

TOHOシネマズ六本木ヒルズ階段下のポスター。

原題:“Midnight in Paris” / 監督&脚本:ウディ・アレン / 製作:レッティ・アロンソン、スティーヴン・テネンバウム、ハウメ・ロウレス / 製作総指揮:ハビエル・メンデス / 共同製作:ヘレン・ロビン、ラファエル・ベノリエル / 撮影監督:ダリウス・コンジ,ASC,AFC / 美術:アン・セイベル,ADC / セット:エレーヌ・デュプルイユ / 編集:アリサ・レプセルター / 衣装:ソニア・グランデ / キャスティング:ジュリエット・テイラー、パトリシア・ディチェルト、ステファン・フォンキノス / 出演:オーウェン・ウィルソンキャシー・ベイツエイドリアン・ブロディカーラ・ブルーニマリオン・コティヤールレイチェル・マクアダムスマイケル・シーン、ニーナ・アリアンダ、カート・フラー、トム・ヒドルストン、ミミ・ケネディ、アリソン・ピル、レア・セドゥー、コリー・ストール / ポンチャートレイン・プロダクション製作 / 配給:Longride

2011年スペイン、アメリカ合作 / 上映時間:1時間34分 / 日本語字幕:石田泰子

第84回アカデミー賞脚本賞受賞(作品・監督・美術部門候補)作品

2012年5月26日日本公開

2012年11月16日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

公式サイト : http://midnightinparis.jp/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2012/06/18)



[粗筋]

 ギル・ベンダー(オーウェン・ウィルソン)は婚約者イネズ(レイチェル・マクアダムズ)の父親の商談に同行して、はるばるパリへと赴いた。ハリウッドで他愛のない娯楽映画の脚本家として地位を確立しているギルは、だがより創造的な仕事がしたい、という想いを抱えており、ずっと小説の執筆に挑戦している。そんな彼にとって、多くの芸術家達が集ったパリは憧れの街だったのだ。

 イネズと水入らずで過ごしたい、と思っていたギルだったが、途中からイネズの男友達ポール(マイケル・シーン)が合流したことで、思惑は崩れてしまう。ポールは行く先々で知識を披露してイネズや同行者の関心を惹くが、ギルはそのいい加減さにうんざりして、ワインの試飲会に参加したあと、踊りに行くというイネズたちと別れ、ひとりでパリの街を彷徨う。モンターニュ・サント・ジュネヴィエーヴ通りのラベ・バセ広場に迷い込み、物思いに耽っていると、午前零時を知らせる鐘とともに、1台の古めかしいプジョーが走ってきた。何故か乗員に手招きされたギルは、ふらふらと一緒に乗り込み、気づけば古式ゆかしい社交クラブに辿り着く。

 そこにいる人々もまた、どこか浮き世離れしていた。奇妙な居心地の好さを味わいながら、言葉を交わしているうちに、驚くべきことに気づく。品のいい参列者はF・スコット・フィッツジェラルド(トム・ヒドルストン)とゼルダ(アリソン・ピル)、ピアノの弾き語りで湧かせているのはコール・ポーター、しかもその夜のパーティを主催しているのはジャン・コクトーだというのだ。更に、別のバーに案内されてみれば、そこには長年憧れていたアーネスト・ヘミングウェイ(コリー・ストール)の姿もある。

 信じがたいことだが、ギルはいま、21世紀ではなく、華やかなりし1920年代のパリにいるのだ――!



[感想]

 ひょんなことから過去の世界に迷い込んでしまう――というのはフィクションではよく用いられる趣向だ。それだけに、安易に採り入れると火傷をするが、扱うのがウディ・アレンともなるとちょっと事情が異なるらしい。

 長年ニューヨークという街に寄り添い、都市の雰囲気をも作風に取り込んできたウディは、近年になって拠点をイギリスに移した。『マッチポイント』で初めてロンドンを扱うと、『それでも恋するバルセロナ』でスペインのバルセロナに赴き、そして今回はパリに挑んだ。いずれも舞台となる都市そのものに映画的な魅力が満ちているゆえだろうが、ウディ・アレン監督は特に、こうした街の雰囲気を巧みに掬い上げて作品を生み出している感があり、本篇でもその巧さは健在だ。

 そして、その魅力の活かし方を、過去のパリに遡る、という趣向に託しているのが着眼だ。

 現代のパリにも、“花の都”としての美しさは健在だが、往時、各国の芸術家達が集い交流したころのパリの持つイメージのほうが鮮やかだろう。現代のパリの光景や文化を、冒頭の風景やギルの婚約者たちの交流を通して描く一方で、多くの人々が憧れる、煌びやかな人々の交流を夜の世界にちりばめていく、この趣向はシンプルながら非常に目映い。

 加えて本篇は、過去の著名人達との交流、という部分をあまりSF的に掘り下げることをあえてせず、ほどほどに、ファンタジー的に捉えるに留め、あくまでもパリの華やかさと、もうひとつの主題を描くことにのみ活かしている点も巧い。SFを愛好する作り手に委ねると、もっと厳格なルールを設定して、カチコチのイメージで構築していきそうだが、本篇はギル自身が一連の出来事を一種の夢物語として捉えているかのように描くことで、過剰に踏み込ませない。深夜零時に広場にいれば、プジョーが自然と過去の世界へ誘ってくれる、という程度の緩いルールが、終盤での思いがけない成り行きに制約をかけないし、ギルを現代に戻りやすくしている。実は1箇所だけ、SFめいた歴史の改変が行われた痕跡を描いているが、それとて虚実をないまぜにしたかのようなムードを醸成する役を果たしている程度で、むしろ余計に物語の柔らかさを印象づけている。

 しかしこの作品の最大のポイントは、そうしてパリの魅力を過去に遡って描くことが、ギルという人物を通し、芸術に携わる人々が陥りがちな“錯覚”“幻想”をそっと払いのける効果を上げていることにある。この描き方もまた恐ろしく単純明快だが、決して気取らず、他の作品と変わらぬウイットを軸に表現しているので、余計に沁みる。シンプルな発想にも拘わらず、アカデミー賞のオリジナル脚本部門でオスカーに輝いたのは、シンプルな主題とシンプルな趣向が、ウディ・アレンならではの洒脱な台詞回しと巧く合致したからだろう。

 本篇は、創作に携わる人間のみならず、やもすると陥りがちな考え方を、ウイットに富んだ描写で揶揄している――決して全否定ではなく、少し見方を変えてみたらどうですか? というトーンで。観終わったあと、肩にかかった余分な力が抜けるような好篇である。



関連作品:

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