『プロメテウス(3D・字幕)』

TOHOシネマズ渋谷。

原題:“Prometheus” / 監督:リドリー・スコット / 脚本:ジョン・スペイツ、デイモン・リンデロフ / 製作:リドリー・スコットトニー・スコット、デヴィッド・ガイラー、ウォルター・ヒル / 製作総指揮:マイケル・コスティガン、マイケル・エレンバーグ、マーク・ハフマン、テレサ・ケリー、デイモン・リンデロフ / 共同製作:ニコラス・コルダ / 撮影監督:ダリウス・ウォルスキー / プロダクション・デザイナー:アーサー・マックス / 編集:ピエトロ・スカリア / 衣装:ジャンティ・イエーツ / キャスティング:ニーナ・ゴールド、アヴィ・カウフマン / 音楽:マルク・ストライテンフェルト / 出演:ノオミ・ラパスマイケル・ファスベンダーガイ・ピアースイドリス・エルバ、ローガン・マーシャル=グリーン、シャーリズ・セロン / 配給:20世紀フォックス

2012年アメリカ作品 / 上映時間:2時間4分 / 日本語字幕:戸田奈津子 / PG12

2012年8月24日日本公開

公式サイト : http://www.foxmovies.jp/prometheus/

TOHOシネマズ渋谷にて初見(2012/08/04) ※特別先行上映



[粗筋]

 巨大企業ウェイランド社が出資した調査船は、地球より遥か離れた惑星に到着した。

 彼らをこの地に導いたのは、地球のまったく異なる場所にある遺跡から発見された、同じ配置の星図である。似たような巨人に対する信仰を示すこの図形に、人類にとって重要な秘密が隠されている、という科学者エリザベス・ショウ(ノオミ・ラパス)らの推測に、ウェイランド社は多大な出資を行い、この計画が実行に移された。

 冷凍睡眠ののちにようやく辿り着いたその惑星には、確かに知的生物の遺したらしき建造物が存在した。宇宙服に身を包んだエリザベスと恋人である同僚のチャーリー・ホロウェイ(ローガン・マーシャル=グリーン)、そして各分野の専門家たちは、探査用ロボットを駆使して建造物の構造を確認しながら、慎重に先へと進む。

 そこに広がっていたのは、驚くべき空間であった。外部は宇宙服なしでは危険だが、深部に達すると、人間でも呼吸が可能になる。そこには巨人の屍体と、異様に大きな頭部のオブジェ、そして謎の容器らしきものが無数に陳列されていた。活気づくスタッフたちだったが、折しも鉱物を含んだ危険な嵐が迫っており、エリザベスたちは急遽プロメテウス号に帰還する。スタッフのうち2名が取り残されたが、嵐が去る翌朝までは迎えに行けなかった。

 若干の不安を孕みつつも、多くの発見に一同は興奮を隠せない。エリザベスもその晩は、ホロウェイと久しぶりに身体を重ね、幸福感に満たされて眠りに就いた。

 だが、翌朝から状況は、にわかに不穏な様相を呈しはじめる。取り残されたスタッフからの連絡が途絶え、ホロウェイは身体の不調を訴えながらも、捜索のために出動する。だが、スタッフの屍体を発見すると、ホロウェイの容態は急速に悪化し、一気に危険な状態になっていった――



[感想]

 本篇は、同じリドリー・スコット監督が発表したSFホラーの名作『エイリアン』の前日譚にあたる。日本公開に際しての広告ではあまり言及されておらず、先行上映などで鑑賞した人々のなかにはその点を疑問視する声が出ているが、個人的に、それは当然の判断ではなかったか、と考える。

 世界観があの名作を受け継いでいるのは間違いのないところである。随所に登場する美術や異様なモチーフの数々は、『エイリアン』を鑑賞しているといちいちニヤリとさせられるし、ちりばめられたショッキングな場面は、確かにSFホラーの系譜を踏襲している、という印象もある。

 だが、もしこれを『エイリアン』と同じ路線にあるSFホラーである、と捉えて鑑賞した場合、そうした通底する世界観を楽しめる一方で、物足りなさを感じるはずだ。あの伝説の作品と比較して、恐怖をもたらす種類の衝撃というものには乏しいし、結末も少々収まりが悪い。

 他方で、宣伝においてやたらと“人類の起源”に絡む物語であることを訴えているが、そのわりに考察を促すような描写が乏しいことも、不満に繋がると思われる。多くの謎めいた要素は、ほとんど『エイリアン』とのリンク、という意味では興味深いが、そこから敷衍するとあまりに連携が直接的であったり、掘り下げるほどのものではない、と感じられてしまうのが難点だ。

 しかし、本篇の狙いは恐らく、『エイリアン』を踏襲しただけのSFホラーに仕立てることにも、大袈裟に人類の起源の謎を創造することにもなかった、と思われる。この作品で描きたかった本当の主題はたぶん、知識の探求、生命の神秘といったものに駆り立てられる人間の業そのものなのだ。

 世界各地の、バラバラの遺跡に記された星図を、文明の起源に関わるものと解釈し、宇宙を超えて旅をする、という貪欲さ。警戒すべき状況で気密服のヘルメットを脱ぎ、不可思議な事象をあえて調査しようとする姿勢。人類の起源の秘密が隠されている、と仄めかされても関心を抱かないようなひとにとっては、何が彼らをここまで動かすのか、いまひとつ理解出来ないだろう。

 最も象徴的な存在は、アンドロイドのデヴィッド(マイケル・ファスベンダー)の存在だ。人間のクルーが冷凍睡眠に入っているあいだ、異星の文明を解読するのに有用な知識を蓄え、同時に人間らしさを学び続けたと思しい彼の振る舞いこそ、本篇において何よりも謎めき、理解しかねる部分だろう。だが、彼がただのアンドロイドではなく、クルーが眠りに就いている果てしなく長い時間に、知識を貪り、独自に探求を積み重ねてきたことを考えれば、不自然ではない。そしてその振る舞いこそ、ある意味で、知的生命体だけが持ち得る知識というものに対する渇望を象徴するものだ。中盤において、クルーたちを混乱させる原因となった行動にしても、最後の最後でアンドロイドというには不可解な願いを口にするのも、考えようによっては彼が人間を人間以上に深く学び、知識に対する欲深さまでも我が物としているから、と言えるのだ。

 そして、その欲望を触発するために、奥行きのある世界観が求められたからこそ、本篇は最初から完成されていた『エイリアン』のモチーフを踏襲し、膨らませ掘り下げることで主題の表現に援用した。そして、更にその主題を彩るために、『エイリアン』でも高く評価された美術を研ぎ澄ませ、音響効果も最大限に活かして、劇場用映画に相応しい、異様で壮麗な空間を作りあげた。荒涼たる異星の光景、そのなかに存在する圧倒的な人工美。日常にはあり得ない空気を実感させ、登場人物たちが味わう切迫感をも疑似体験させるほどの音響は、こんななかでも未知のものに対する好奇心を抱く人々の業の深さをより際立たせるとともに、劇場で鑑賞する意義を本篇にもたらしている。

 つまり本篇は、『エイリアン』の世界観に連なる正統的な作品である以上に、圧倒的な構築美と、主題に対する透徹した姿勢を備えた、優れたSF映画なのである。ホラーである、という性質も決して損なってはいないし、あの馴染みのあるクリーチャーも、我々の知っているものとは異なる形で――それ故に、また別種の興味を掻き立てもするが――登場するが、それらを愛でるのはともかく、拘りすぎていては、本当の魅力を見失いかねない作品である、と思う。だから、『エイリアン』との関連性を声高に謳わないのは、製作意図に適っている、と言えるのだ。



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