『アナザー Another』

TOHOシネマズ西新井、建物外壁のポスター。

原作:綾辻行人(角川書店・刊) / 監督:古澤健 / 脚本:田中幸子古澤健 / 製作:池田宏之、市川南、阿佐美弘恭 / プロデューサー:小林剛、下田淳行 / エグゼクティヴプロデューサー:井上伸一郎 / 企画:椎名保 / 撮影:喜久村徳章 / 美術:丸尾知行 / 照明:関輝久 / 編集:大永昌弘 / 装飾:山本直輝 / 衣装:宮崎みずほ / VE:鏡原圭吾 / VFXスーパーヴァイザー:立石勝 / 音楽:安川午朗 / 主題歌:加藤ミリヤ『楽園』 / 人形制作:恋月姫 / 出演:山崎賢人橋本愛袴田吉彦加藤あい、宇治清高、井之脇海岡山天音秋月三佳岡野真也今野真菜正名僕蔵佐藤寛子、三浦誠己、つみきみほ銀粉蝶 / 角川映画製作 / 配給:東宝

2012年日本作品 / 上映時間:1時間49分 / PG12

2012年8月4日日本公開

公式サイト : http://another-movie.com/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2012/08/09)



[粗筋]

 1998年。榊原恒一(山崎賢人)は、父が海外に単身赴任しているあいだ、母の実家がある夜見山に身を寄せることになった。だが、引っ越し早々に、昔から彼を悩ませている発作を起こし、恒一は病院に担ぎ込まれ、始業式から1ヶ月遅れで夜見山北中学校に転校する羽目になる。

 編入された3年3組で、恒一は奇妙な出来事に遭遇した。教室のいちばん後ろ、孤立したような席に、左目に眼帯をした少女が座っていた。入院中、人形を抱えて霊安室に入っていった姿を見かけた彼女が偶然同じクラスにいたことに驚く恒一だったが、どういうわけか同級生たちはみな、「そこには誰も座っていない」という。体育の時間にも、見学すらせず屋上や図書室にその影をちらつかせるが、他の同級生たちには見えていないようだった。

 屋上でようやく話しかけることが出来た彼女の胸のネームタグには、見崎鳴(橋本愛)と記してある。恒一は鳴のあとを追い、正体を探ろうとするが、同級生たちは奥歯にものが挟まったような言い方で恒一を抑えようとするが、その奇妙な言動は却って恒一を鳴という存在に惹きつけていく。

 探っているうちに、鳴は間違いなく存在しており、何らかの理由で“いないもの”扱いされていることを恒一は知る。何故、そんなことをする必要があるのか? 鳴を問い詰めようとした矢先に、悲劇が起きた……



[感想]

 ある程度年季の入った綾辻行人愛読者にとって、“映像化”は鬼門と言っていいほどのトラウマだった。最初に2時間ドラマになったのは、『時計館の殺人』とともに初期を代表する名作『霧越邸事件』であったが、奥深い山中に築かれた広壮な西洋館が民宿に改竄されてしまった姿に、絶望したファンは少なくなかった。のちにドラマ化された『鳴風荘事件』はこれに比べれば遥かに良心的であったが、大仕掛けを2時間ドラマの低予算で映像化したが故の安っぽさは、やはり辛いものがあった。小説に基づいたのではなく、有栖川有栖とともに原案を作る形で発表していた犯人当てドラマ『安楽椅子探偵』だけは成功例と言えるが、『鳴風荘事件』以降、長篇作品の映像化がないのは、もともとヴィジュアルとして表現するのが難しい舞台やトリックが多かったうえに、執筆点数が減っていたこともあって、やむを得ないと言えよう。

 だが、もともと綾辻行人というミステリ作家は、ダリオ・アルジェント作品に心酔し、オマージュを捧げた『緋色の囁き』から始まるホラー・タッチのシリーズが存在したほどで、そう考えると映像との親和性が皆無というわけではない。そのムードとミステリ的な趣向を、的確な匙加減で映像に取り込むことが出来れば、ダリオ・アルジェントの初期作品や、ときおり現れては観客を瞠目させる、知的なスリラーの流れを汲む映画に昇華出来るのではないか、と思っていた。

 そこへ登場したのが、本篇である。前述した通り、綾辻作品はうまく映像化すれば優れた雰囲気を備えたスリラー映画になりうる資質を備えている一方で、小説という表現方法を活かした仕掛けが映像化の妨げとなる問題もあったが、本篇は前者を活かし、後者を巧みな匙加減で盛り込むことで、理想的と言っていい出来映えを実現した。

 如何せん、詳しくは述べられないが、予め仕掛けを知っていると、呆気に取られるくらい大胆な伏線が仕掛けられてある。そのいけしゃあしゃあとした表現もさることながら、本篇は“偶然”を活かしたスリラーであるが故の恐怖、衝撃の描き方が実に巧い。最初の惨劇では、複数の予兆を観客の前にちらつかせて緊張感を高め、微妙に予想を覆す形で回収する。前振りの組み立てに工夫を施すことで、決して血みどろではない恐怖を演出している。

 綾辻行人ダリオ・アルジェントに心酔していることを思うと、もっとグロテスクでもいいように思ってしまうところだが、しかしそこで踏み止まり、“学園ホラー”であることを徹底していることも美点だ。

 この作品の中心人物はいずれも中学生であり、ルールの必要があってとは言え、クラス全体でひとりの少女を“いないもの”にしてしまう構造は、否応なしにイジメを想起させる。実際には意味合いが違えど、そこから生じる少年少女故の迷い、心の揺れ、孤立した状況にありながら心を通わせる相手がいる、という甘酸っぱいムードをきちんと汲み取り、本篇は青春ドラマとしてのムードも充分に醸しだしている。大人にとってはノスタルジーを誘う要素でもあるが、同じ年齢層にとっても共感を与えるはずであり、つまりはターゲットとなる層をレーティングで弾いてしまうような描写は無用というものだろう。

 そういう意味で、見崎鳴、というキャラクターの特性が非常に効いている。周囲から孤立し、それを受け入れている寂しげな佇まい。常に左目に当てている眼帯や、初登場のときに抱き、彼女の自宅を飾っている美しくも不気味な人形たち。そうしたモチーフが醸しだす謎めいた雰囲気もさることながら、背景を知ったあとの恒一と見せる交流のなかで覗かせる年齢相応の無邪気さ、そしてそれ故に重い終盤の決意と行動が非常に印象的だ。その重層的な表情を見事に体現した橋本愛がはまり役だった。

 有り体のホラーとは異なる終盤の展開、そこでも繰り返される死への予兆の描写が高める緊迫感は秀逸だが、そのなかで更に意外性と、それ故のドラマを盛り上げる手管も絶妙だ。VFXにわざとらしさが濃いのが残念だが、そんなことを忘れさせるくらいに、終盤の牽引力が優れている。

 個人的に引っかかったのは、ラストの2つの場面である。確かにこのドラマの締め括りとして、映画としてもしっくりくるひと幕であり、採用した気持ちはよく解るのだが、随所に不自然な点がある。作中のあるサプライズについて、あと幾つか大胆な伏線を用意してもよかったのでは、ということも含め、もう少し繊細さに乏しいことが惜しまれる。

 しかし、奇妙な導入に緊張感のある展開、そして衝撃のクライマックスと、本篇は優秀なスリラーとしての要素がしっかりと詰まっている。そのうえで青春ドラマとしてのムードも備えているのだから、映画としての満足度は高い。原作者のファンを長年やっている者としても、初めて溜飲の下がる、上質の作品であった。



関連作品:

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