『転校生』

神保町シアターの展示、『転校生』部分をアップ。

原作:山中恒 / 監督:大林宣彦 / 脚本:剣持亘 / 製作:佐々木史朗 / プロデューサー:森岡道夫、大林恭子、多賀祥介 / 撮影:阪本善尚 / 美術:薩谷和夫 / 照明:渡辺昭夫 / 編集:P・S・C・エディティングルーム / 録音:稲村和己 / 音響:林昌平 / 出演:尾美としのり小林聡美佐藤允樹木希林宍戸錠入江若葉中川勝彦、井上浩一、岩本宗規、大山大介、斎藤孝弘、柿崎澄子、山中康仁、林優枝、早乙女朋子、杉田真貴、石橋小百合、伊藤美穂子、加藤春哉、鴨志田和夫、鶴田忍、人見きよし、志穂美悦子 / 配給:松竹

1982年日本作品 / 上映時間:1時間52分

1982年4月17日日本公開

2001年4月21日映像ソフト最新盤発売 [DVD Video:amazon]

『80年代ノスタルジア』(2012/5/12〜2012/6/8開催)にて上映

神保町シアターにて初見(2012/05/31)



[粗筋]

 広島県尾道市斉藤一夫(尾美としのり)の通う中学に、斉藤一美(小林聡美)という少女が転校してきた。一字違いの彼女は、一夫を見るなり、自分たちが幼馴染みであったことを指摘する。一美は無邪気に大喜びしてつきまとうが、悪友たちとつるむことに慣れていた一夫には鬱陶しくて仕方ない。かといって振り払うことも出来ず、神社の境内に着いたとき、一美が階段から落ちそうになった。慌てて助けようとするが、一夫も一緒になって転落してしまう。

 しばらく意識を失っていたが、目醒めたふたりは、会話もなくそれぞれの家を目指した。家に着いてから少し経って、ようやくふたりは衝撃の事実に気づく――一夫と一美の、身体が入れ替わっていたのだ。一夫の身体になった一美は悲嘆に暮れるが、戻る方法が解らない以上どうしようもなく、ふたりはしばらく身体に合わせて生活することを決める。

 本来と異なる性、異なる家族と生活を送るのは、だが想像しているよりも遥かに厄介なものだった。“一美”はすっかり粗野な振るまいをする女子として認知されてしまったし、“一夫”は女っぽくなり、急に成績が上がったことで周囲を驚かせる。一夫は、女っぽくなった“一夫”を揶揄する悪友たちに憤り、“一美”の身体で懲らしめる、という暴挙に出てしまうが、日頃から無神経な振るまいが多い連中だったために、“一美”の評価は女子のあいだで奇妙に高まってしまった。

 身体の入れ替わったふたりの奇妙な暮らしは、不思議な日常を築き始めていたが、ある日、思いもかけない事態が起こる。一夫の父の栄転が決まり、家族で引っ越すことになったのだ……



[感想]

 これだけ有名な作品なので、いちど観たことがある――と思っていたのだが、いざ鑑賞してみると、記憶と一致しない。どうやら、のちにテレビドラマとしてリメイクされたものを観ていて、そちらで記憶していた可能性がある。まったく見覚えのないシーンばかりではなかったので、漫然とでも眺めた経験はありそうだが、それでも記録上は“初見”としておいた。仮に観たとしても、よほど幼い頃だったのだろう。

 大人の眼で観て、とにかく圧倒されるのは、文字通りに身体を張った小林聡美の熱演ぶりだ。最初は本当に可憐な少女だったが、入れ替わった途端にまさに男の振る舞いに一変する。大股で歩き不遜な表情をし、ブラジャーなど着け慣れていないから、上半身裸の姿も惜しみなくカメラに晒す。役柄が役柄なので、恥ずかしいのに色気はない、という若い女優には辛い演技が強いられているはずだが、これを完璧にこなしている。最終的に少女に戻った直後は少し違和感があるものの、最後にはきちんと女性に戻り、愛らしさを示すに至っては感動さえ覚えるほどだ。尾美としのりの気持ち悪いほどの少女ぶりも熱演だが、やはり本篇の肝は小林聡美と言っていいだろう。

 それでいて、性別が入れ替わる、というシチュエーションで考えられるトラブルや、青春ドラマならではの面白さを限界まで網羅したシナリオの完成度も高い。全体に過剰気味ではあるが、下着や生理についての問題、なるべく家人の注意を惹かない時間帯に相手を訪ねてフォローする、といった部分が丹念に押さえられている。本篇以降も、同じ原作のリメイクや各種パロディで似たようなシチュエーションは描かれているし、更に掘り下げられてはいるが、本篇が基本をほぼ完成させたのではないか、という印象を抱く。だからこそ、身体が戻った直後の、このシチュエーション以外にあり得ない情景が、笑いを誘うとともに感動をもたらしもするのだ。

 一方で、映像的な工夫の豊かさ、美しさにも瞠目すべきものがある。本篇を皮切りに監督の大林宣彦尾道を舞台にした映画を続けて撮っているが、坂が多く海に面した地形を活かした光景は鮮やかな印象を残すが、それをいっそう強調しているのが、色調の変化だ。実は本篇、最初のうちはモノトーンに近い映像になっているが、ちょうどふたりの身体が入れ替わったあたりからそれとなくカラーに切り替わっている。事件、或いは冒険とも呼ぶべき状況が、登場人物たちの世界を華やかにする、という展開を補強するこの工夫が、様々な情景の美しさをも鮮烈にしているのだ。

 年齢設定のわりには言動が幼く感じられる場面があったり、途中でちょっと登場するだけの一美の旧友がやたらと濃いキャラクターだったり、台詞の組み立てに弱さを感じるものの、築きあげた世界観と情緒豊かな映像は素晴らしい。そして、少々芝居がかりすぎているが、本篇だからこそ成り立つラストシーンはいちど観たら忘れがたいものがある。

 のちに大林監督自身が設定を現代に、舞台を長野に移して、後半の展開を大幅に変更したリメイク版『転校生 さよなら あなた』を撮っているが、やはり本篇のクオリティ、清冽さには及ばない。今後も変わらず、ファンタジー設定を採り入れた青春ドラマの名作として語り継がれる1本だろう。



関連作品:

転校生 さよなら あなた

異人たちとの夏

ガマの油

それでもボクはやってない

時をかける少女