『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』

TOHOシネマズシャンテ壁面ポスター。

原題:“The Help” / 原作:キャスリン・ストケット(集英社文庫・刊) / 監督&脚本:テイト・テイラー / 製作:ブロンソン・グリーン、クリス・コロンバス、マイケル・バーナサン / 製作総指揮:マーク・ラドクリフテイト・テイラー、L・ディーン・ジョーンズ・ジュニア、ネイト・バーカス、ジェニファー・ブラム、ジョン・ノリス、ジェフ・スコール、モハメドムバラク・アル・マズルーイ / 撮影監督:スティーヴン・ゴルドブラット,ASC,BSC / プロダクション・デザイナー:マーク・リッカー / 編集:ヒューズ・ウィンボーン,A.C.E. / 衣装:シャレン・デイヴィス / 音楽:トーマス・ニューマン / 出演:ヴィオラ・デイヴィスオクタヴィア・スペンサーエマ・ストーンブライス・ダラス・ハワードジェシカ・チャスティン、アーナ・オライリーアリソン・ジャネイ、アンナ・キャンプ、エレノア&エマ・ヘンリー、クリス・ローウェル、シシリー・タイソン、マイク・ヴォーゲルシシー・スペイセクブライアン・カーウィン、ウェス・チャサム、アーンジャニュー・エリス、テッド・ウェルチメアリー・スティーンバージェン / 1492ピクチャーズ/ハービンガー・ピクチャーズ製作 / 配給:Walt Disney Studios Japan

2011年アメリカ作品 / 上映時間:2時間26分 / 日本語字幕:石田泰子

第84回アカデミー賞助演女優賞受賞(作品・主演女優・助演女優部門候補)作品

2012年3月31日日本公開

公式サイト : http://Help-movie.jp/

TOHOシネマズシャンテにて初見(2012/05/23)



[粗筋]

 1960年代前半、奴隷解放宣言が行われて久しいこの当時になっても、アメリカ南部では白人社会と黒人社会がくっきりと分かたれていた。

 4年間の大学生活を終えてミシシッピ州ジャクソンに戻ってきたユージニア・スキーター・フェラン(エマ・ストーン)は、地元の新聞社に就職を決めた。作家志望の彼女に与えられた最初の仕事は、家事を題材として好評を博する“マーナ女史”のコラムの代筆。しかし、お嬢様育ちで家事の知識などない彼女は、幼い頃面倒を見てくれたメイドたちの助言を得ることにした。

 長い間、南部を離れていたスキーターは、メイドたちを取材するうちに、違和感を覚えはじめる。かつて奴隷制度を強く支持していた南部では、解放宣言からずいぶんと時の過ぎたいまもなお、白人たちの上流階級が幅を利かせ、メイドや下働きは黒人たちの仕事となっている。そればかりか、スキーターの旧友ヒリー・ホルブルック(ブライス・ダラス・ハワード)は“衛生上の問題”があるとして、白人家庭に雇われている黒人メイドたちが同じトイレを使用するべきでないと主張していた。ヒリーは友人のエリザベス(アーナ・オライリー)に対しても同様の主張を繰り返し、スキーターが主に助言を受けていたエイビリーン・クラーク(ヴィオラ・デイヴィス)専用のトイレを屋外に作らせてしまった。およそ平等とは言い難い扱いに、スキーターは強い疑問を覚える。

 新聞社の上司であるエレーン・スタイン(メアリー・スティーンバージェン)がこの話に関心を示したことで、スキーターはこの事実を自著の題材にしようと考えた。さっそくスキーターはエイビリーンに協力を求めるが、エイビリーンの返事は芳しいものではなかった。

 スキーターの理解通り、南部では未だ黒人差別は色濃く、そのことについての不平を表沙汰にすれば、最悪命を危険に晒しかねない。エイビリーンに限らず、白人女性に対して実情を語るメイドは存在しそうもなかった。

 だがそんな矢先、エイビリーンの親友であり、ヒリーの家で長年メイドを務めてきたミニー・ジャクソン(オクタヴィア・スペンサー)が解雇されてしまう。理由は、暴風雨の夜、屋外に用意されたメイド用のトイレではなく、家人のトイレを使用したからだった。かねてから粗暴だったミニーの夫は妻が職を失ったことに激昂、暴力を振るうようになり、ミニーは家でも居場所を失ってしまう。

 そして遂に、エイビリーンは決意する。周囲の眼を避けてスキーターを自宅に招き、黒人メイドたちを巡る現実と、彼女たちの経験を語りはじめた――



[感想]

 日本人のなかにはあまり実感のないひとも多いと思うが、人種差別というのは決して過去の問題ではない。現在もあちこちに蔓延しており、それは“奴隷解放宣言”という節目を経たアメリカでも同様だ。奴隷制度が深く根ざしていた南部では、解放宣言のあとも実質的な隔離が行われ、白人社会と黒人社会とのあいだには深い深い溝があった。『風と共に去りぬ』のように、立ち位置の自覚が生み出す一種のユートピア世界、というわけではなかったのだ――恐らく、いまも本質的に変わっていない土地もあるだろう。

 本篇は序盤から、1960年代アメリカ南部の実態をある意味では軽快に、だが同時に非常に生々しく描き出している。

 本篇は黒人メイドのエイビリーンが本質的には主人公なのだが、物語においてはもうひとり、スキーターという白人側の人間を視点人物として組み込んでいるのがポイントだ。南部における白人と黒人との難しい関係性に当初はどちらかと言えば無自覚である彼女の立ち位置、振るまいが、観客にこの厄介な問題を巧みに了解させるのと同時に、物語から重々しさを取り除くのに奏功している。

 白人側のいわば“悪役”であるヒリーにまったく罪の意識がなく、黒人女性でも特に辛い境遇に追い込まれるミニーにも強さがあるのも重要だが、黒人寄りではあるがもう一方の眼差し、そして日常感覚を疎かにしていないのが、軽快さとリアリティに貢献している。この両者のバランスを絶妙に保つことに成功しているのは、白人家庭で黒人の乳母に育てられ、そして都会で異なる価値観に接してきたスキーターの存在が非常に大きい。しかも彼女が帰郷し、現地の新聞社に職を得てまず与えられた仕事が、家事に関するコラムだった、というのが効いている。

 当初は反抗心から匿名でエイビリーンが黒人メイドの実情を語り、やがてミニーもこれに加わる。そこから終盤に至っての逆転の鮮やかさ、といったドラマ構成の隙のなさは言うまでもないが、本篇は随所に提示される反抗心や、重要な選択の、当然でありながら意外である、というインパクトの作り方が巧い。

 その最高潮はラストシーンに集約されるが、しかし何よりもこの巧さを証明しているのは、職を奪われたあとにミニーが行う“反逆”であろう。まさに彼女の職掌、人柄を凝縮し、ウイットに富んでいるうえ、相手には徹底したダメージを与えつつも、決して安易に口外させない。こんなに見事な反撃のひと幕、なかなかお目にかかれない――感受性の強い方は、本篇を観たあとしばらく特定のものが口に入らなくなるかも知れないが、それでもたぶん、気持ちのなかでは痛快さの方が勝っているはずだ。ミニーを演じたオクタヴィア・スペンサーがオスカーに輝いたのは当然ながら、彼女の渾身の一撃を受け止めるに相応しい悪役を完璧に演じきったブライス・ダラス・ハワードにも拍手を送っていただきたい。

 題材は非常に重く、そしてこれで世界が変わった、などと安易に捉えている登場人物も、結末を迎えてなお少ない。未来が保証されているわけではないのだ。しかしそれでも、本篇のラストシーンには力強さがみなぎり、勇気づけられるような心地がする。2年前のアカデミー賞において、やはり助演女優賞を獲得した『プレシャス』にも通じる、リアルで過酷だが、パワフルな傑作である。



関連作品:

風と共に去りぬ

50/50 フィフティ・フィフティ

スペル

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

プレシャス

キャリー