『貞子3D』

『貞子3D』

原作:鈴木光司エス』(角川書店・刊) / 監督:英勉 / 脚本:英勉、藤岡美暢 / エグゼクティヴプロデューサー:井上伸一郎 / 企画:池田宏之 / 製作:椎名保、籏啓祝、内藤酵治、松世弘、山道秀樹、武本慎一郎 / プロジェクト統括:安田猛 / プロデューサー:小林剛、今安玲子、佐藤満 / 撮影:藤本信成 / 照明:和田雄二 / 美術:原田恭明 / 装飾:高畠一朗 / 衣装:宮本まさ江 / 編集:阿部亙英 / ステレオグラファー:西岡章 / 音響効果:柴崎憲治 / 音楽:川井憲次 / 主題歌:シド『S』 / 出演:石原さとみ瀬戸康史高橋努染谷将太高良光莉山本裕典田山涼成 / 制作プロダクション:東北新社 / 配給:角川映画

2012年日本作品 / 上映時間:1時間36分

2012年5月12日日本公開

公式サイト : http://www.sadako3d.jp/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2012/05/14)



[粗筋]

 高校の教師・鮎川茜(石原さとみ)の担任する生徒、典子が急死した。捜査に現れた警察は、いじめを苦にした自殺を疑うが、典子はどちらかと言えば快活な人気者で、いじめのターゲットになっているという事実も、誰かの恨みを買っているという様子もなかった。

 一方で、警察はここしばらく、そんな兆候のなかった人間が急に自殺を遂げる、というケースが相次いでいることを訝っていた。しかも、直前にバス停で起きた事件も典子の事件も、いずれも何らかの動画を観ながら死んだと見られている。事件を担当する小磯刑事(田山涼成)は、「呪いの動画では?」と騒ぐ部下に渋い顔をしていたが、茜のもうひとりの教え子で、典子と親しかった理沙が、やはり茜を相手に「呪いの動画が原因かも知れない」と訴えているのを目撃して、部下にその内容を調べさせることにした。

“呪いの動画”と呼ばれるものの始まりは、柏田清司(山本裕典)というアーティストが、ニコニコ動画で自らが死ぬ場面をリアルタイムで中継した動画のことだった。実際に、この中継を見ていた管理人と5人の視聴者が、ほぼ同時刻に謎の死を遂げている。中継を録画した映像は、ニコ動のサーバからも消えているが、それでも何らかの形で広まっているようだった。小磯刑事は“呪い”であるとは考えずに、遺体すら発見されていない柏田が生きているものと判断、その行方を探りはじめる。

 理沙はその後も、友人を死に追い込んだ“呪いの動画”を探ることに熱中していた。登校はしているが部活に出ていない、ということを知った茜は、自習室にいる理沙のもとに様子を見に行ったが、そこで目撃したのは、モニターから出て来た何かが理沙の首に絡みついている、異様な光景であった――



[感想]

 1998年に公開され、一世を風靡した『リング』に連なるシリーズの、約12年振りとなる最新作である。広告にも用いられているように、物語のアイコンたる“貞子”の復活がテーマとなっている――が、正直なところ、第1作どころか、その後陸続と生み出された“Jホラー”作品群にも及ばない出来映えである、と言わざるを得ない。

『リング』は原作の持つ、現実を超越しつつも明確なルールがあるがゆえの怖さを、“貞子”という恐怖の象徴を具体的に描き出すことで増幅、日本のみならず世界的に“黒髪に白いワンピース”という恐怖のヴィジュアルを定着させることに成功した伝説的作品である。そのあとを継ぎ、良さを踏襲しながら蘇らせる、というのが容易ではないのは理解出来るが、しかし本篇はシリーズが持つ美点を、そもそも誤解していると感じる。

 まず本篇は、“呪い”の伝播の経路がいまひとつピンと来ない。パンフレットを読むと、原作者はまだ解りやすく設定しているらしい(映画と同時に発売、というスケジュールだったため、私は未読)のだが、映画のなかではそのルールがほとんど伝わらないのだ。生中継の動画は通常、削除されてもサーバには保存されているが、作中ではそれが消えてしまっているところにも謎が存在する。どうやら動画が自発的に動き、ネットの海を彷徨っているかのような描写だが、だとしたら何を基準にターゲットを設定しているのか。殺し方にしても、序盤では犠牲者を自ら死に誘い込んでいるように映るのに、直接描かれる場面では、自ら手を下している印象を受ける。びっくり箱的な怖さはあるものの、ルールがあるからこそじわじわ忍び寄ってくるような怖さがない。はっきり言ってしまえば、その場限りの怖さでしかないのだ。

 ルール設定が曖昧でも、恐怖の描写の巧さで魅せることは可能だが、その意味でも本篇の出来はいまひとつだ。ところどころ、雰囲気を感じさせる描写はあるが、“恐怖”の焦点に位置するものが登場する段になるとあっさりカタがつき、余韻を残さない。

 モンスター映画風の表現は、アイコンたる貞子が従来以上にモンスターめいた描き方をしていることを思うと、決して間違ってはいないのだが、何故貞子がああいう形になったのか、という土台の設定がきっちりしていないので、いまひとつ受け入れにくい。旧作を知っている者にとっても無論のこと、恐らく本篇でいきなり作品世界に触れた人であっても、これだけ説明不足では、本篇の“貞子”に強い恐怖を覚えるのは難しいのではなかろうか。実のところ私は、終盤では苦笑いを禁じ得ない場面さえあった。

 全般に、あまり評価出来ない仕上がりだが、“貞子”というアイコンを復活させるためのアイディアそのものは決して悪くなかった。問題は、それを説得力のある形としても、恐怖の源としても、充分に掘り下げられていない点にこそある。掘り下げがまったく出来ていない作品は他にもあるし、それでも怖くなる場合はあるが、『リング』に連なる作品群にとっては、緻密な掘り下げ、ディテールの確立は決して軽んじていい部分ではなかったはずだ。

 ヒロイン格である鮎川茜に扮した石原さとみはかなりの好演である。ところどころ反応が腑に落ちない場面はあったが、それは脚本や演出の問題なので彼女の非ではない。表情のひとつひとつに説得力があり、クライマックスでまがりなりにも観る側に緊張を与え、恐怖をもたらすシーンがあるのは、ほとんど彼女の演技力のお陰、と言っていい――それだけに、作品の質が低いことが惜しまれる。

 原点である『リング』のモチーフは、そのままでは現代の映像文化に合致しないし、派生して思い浮かぶような“呪い”の伝播過程は、既に他の作品で採用済、という不利は確かにあった。しかしそれでも、世界的に日本流の恐怖表現を広めた作品の正統的な後継作として、もっと工夫と努力が必要だったのではなかろうか。これでは、復活には程遠い。



関連作品:

ザ・リング

ザ・リング2

女優霊

呪怨

座頭市 THE LAST

銀幕版 スシ王子! 〜ニューヨークへ行く〜

呪怨 黒い少女