『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』

『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』

原題:“狄仁傑之通天帝國” / 原案:ロバート・ファン・ヒューリック / 監督&製作:ツイ・ハーク / 脚本:チャン・チァルー / アクション監督:サモ・ハン / 撮影監督:チャン・チーイン、パーキー・チェン / 美術監督:ジェームズ・チュウ / 編集:ヤウ・チーワイ / 衣装:ブルース・ユー / 視覚効果:ナン・シャンユー / 音楽:ピーター・カム / 出演:アンディ・ラウリー・ビンビン、ダン・チャオ、レオン・カーフェイ、カリーナ・ラウ、リチャード・ン、テディ・ロビン、ヤオ・ルー / 配給:TWIN

2010年中国、香港合作 / 上映時間:2時間8分 / 日本語字幕:木村佳名子

2012年5月5日日本公開

公式サイト : http://www.dee-movie.com/

シネマート新宿にて初見(2012/05/10)



[粗筋]

 紀元689年唐王朝は中国の長い歴史においても特筆すべき時を間近に控えていた。先帝崩御ののち、後継者である皇太子の幼さを理由に実権を掌握してきた則天武后(カリーナ・ラウ)が、いよいよ史上初となる即位を実現させようとしていたのである。彼女は自らの権威を世に知らしめるべく、巨大な“通天仏”を建立、即位の日に間に合わせるために完成を急がせていた。

 事件は、唐の都をローマからの使節が訪ねてきたときに発生した。異国人を案内していた工部副長官ジアが、最上階にある見晴台で突如発火、その場で燃え尽きて死んでしまったのである。“通天仏”の支柱に貼られたお札をずらした罰ではないか、と囁く職人たちをよそに、捜査を担当する大理寺卿シュエは無造作にお札を剥がして検分を行い、部下のペイ(ダン・チャオ)とともに武后のもとへと報告に赴いたが、その途中、ジアと同様に身中から火が熾り、武后の前で焼け死んでしまった。

 立て続けの災厄に疑心暗鬼を募らせ、食も細った武后に、忽然と現れた神鹿がひとつの助言を齎した。投獄されている“明の星”を放ち、真相を探らせよ――それはかつて、実権を握ろうとした武后に反抗したかどで捕らえられた、ディー・レンチェ(アンディ・ラウ)のことである。

 かくして釈放され、特命判事の地位を与えられたディーは、武后の腹心チンアル(リー・ビンビン)、そしてペイを率いて捜査に赴く。ほとんど燃えかすも同然となった遺体を検分したディーは、すぐさま発火の謎が、何らかの薬品によるものであることを見抜くのだが……



[感想]

 題名にもなっている主人公ディー判事は、中国に実在した人物である。本篇の設定通り、則天武后の時代に活躍、法務大臣として皇帝を支えており、彼をモデルにした物語が中国では昔からお馴染みとなっているらしい。現地でその存在を知ったロバート・ファン・ヒューリックがこのモチーフで多くの推理小説を執筆、日本でも最近になって全作品が訳出されて好事家のあいだで話題になっていた。

 この人物をモチーフに作りあげられた本篇は、手懸けているのが“香港のスピルバーグ”とまで称されるツイ・ハーク監督であったことも手伝ってか、まさに“中国版シャーロック・ホームズ”としか呼びようのない仕上がりとなっている。もとがまさにミステリの素材である一方、過去を舞台に映画として見応えのあるエンタテインメントに仕立て上げるなら、ヴィジュアル的に絢爛、かつアクションも派手であったほうがいい。それが受け入れられやすいことは、まさについ最近、世界的にヒットしたガイ・リッチー監督による『シャーロック・ホームズ』2作品が証明している。まさか、あのヒットにあやかって――というわけではなかろうが、本篇は基本的にほぼ同じ道を歩んだ結果、完成したものといって間違いないだろう。

 ただ、どちらかと言えばホームズとワトソンとの掛け合いに注力し、謎解きとしてはぎこちなさを禁じ得なかったあちらに対し、本篇はひたすらに謎解きとしての面白さで観客を魅せようとしている。それも、決して小難しい理屈をこねるのではない。事件の核心にある仕掛けはみな荒唐無稽、そして如何にも映画的に派手な代物ばかりだが、それを巧みに構成し、シンプルながらあとあとまで効果を上げる謎として、充分すぎるほどに活かしている。わりあい早くに判明する人体発火の仕掛けは、解き明かされた瞬間に、現実ではあり得ない、と感じてしまう内容だが、その前提のもとに構築される謎、疑惑、そして解決に加え、それを土台にクライマックスのアクションまで構成しており、まったく無駄がない。

 複数の思惑が入り乱れることで、随所に謎がちりばめられ、終始観客を惹きつけ続けるプロットもまた秀逸だ。主人公であるディーにしてからが、武后に対する忠誠心が不明瞭であるためにしばしば謎めいた振る舞いが見え隠れするが、そんな彼に疑念を抱くペイやチンアルも一枚岩ではない。互いに対して抱く疑いが、たとえば地下に埋もれた都市でのアクションにも影響し、以降の展開にも緊張をもたらす。

 観ていて唸らされるのは、ヴィジュアルの匙加減の巧みさだ。アクションはワイヤー主体、ロケやセットも用いているが、背景、遠景はほとんどCGで作られている。このどちらか一方が重用されてしまえば、単に浮いた印象を与えるだけに終わっていた可能性があるが、双方を絶妙なバランスで導入することで、一貫した幻想性を作品に付与している。発達した視覚効果を活かし、いい意味での破天荒な“大作”感を醸しだしている。

 細部に目をやると、少々描写が足りなかったり、拙速な表現も見受けられる。ストーリー終盤にさしかかって、ある人物が見せる変節に心理的な裏付けが乏しかったり、逆に肝心の事件の真相が、人によっては容易に予測出来ることも不満として挙げることが出来るだろう。

 しかし、そうした細かな破綻、いい加減さを意識させないパワーが、本篇には確かに漲っている。謎めき関心を惹きつけるプロローグ、ディーが初登場の際に示す圧倒的な武芸の才と“名探偵”と呼ぶに相応しい推理力。そんな彼を軸に繰り広げられる人間模様と、地下世界での追跡劇を筆頭とする、往年の“冒険活劇”を思わせる展開の何と魅力的なことか。しかもそれが、終盤に至って尻すぼみになることもなく、考慮の行き届いた匙加減で、クライマックスに向かってどんどんと派手さを増していく。終盤のアクションと、“カタストロフィ”と呼ぶしかないあの見せ場は、大スクリーンで堪能する価値がある。

 前述したとおり、ディー判事というキャラクターはロバート・ファン・ヒューリックの手によるミステリとして一部の好事家に浸透しており、その期待から鑑賞すると、謎解き部分に濃厚な疑似科学色、空想性が期待と違う、受け付けづらい、ということにもなりそうだ。しかし、過去の中国を舞台に、奔放なイマジネーションを駆使しつつ一定の筋を通した謎解きを繰り広げ、それでいて映画的なカタルシスに気を配った本篇は、まさに正統派の“娯楽大作”と呼んでいい。ミステリとして読み解いて緻密というわけではないが、娯楽映画の面白さを丹念に押さえつつ一定の説得力を実現している、という意味では、同じような方向性を狙った映画版『シャーロック・ホームズ』よりも完成度はむしろ上回っている。



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