『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』

『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』

原題:“Sharlock Holmes : A Game of Shadows” / コナン・ドイルの創造したキャラクターに基づく / 監督:ガイ・リッチー / 脚本:マイケル・マローニー、キーラン・マローニー / 製作:ジョエル・シルヴァー、ライオネル・ウィグラム、スーザン・ダウニー、ダン・リン / 製作総指揮:ブルース・バーマン、スティーヴ・クラーク=ホール / 撮影監督:フィリップ・ルースロ,A.D.C.,ASC / プロダクション・デザイナー:サラ・グリーンウッド / 編集:ジェームズ・ハーバート / 衣装:ジェニー・ビーヴァン / 音楽:ハンス・ジマー / 出演:ロバート・ダウニーJr.、ジュード・ロウノオミ・ラパスジャレッド・ハリスレイチェル・マクアダムススティーヴン・フライエディ・マーサンケリー・ライリー、ジェラルディン・ジェームズ、ポール・アンダーソン、ウィリアム・ヒューストン、ウォルフ・カーラー / 配給:Warner Bros.

2011年アメリカ作品 / 上映時間:2時間9分 / 日本語字幕:アンゼたかし

2012年3月10日日本公開

公式サイト : http://www.sherlockholmes-shadow.jp/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2012/03/29)



[粗筋]

 結婚式の前日、ジョン・ワトソン医師(ジュード・ロウ)はかつて暮らしていた部屋に、シャーロック(ロバート・ダウニーJr.)を訪ねた。この友人が結婚前にパーティを催してくれる、という話だったのだが、連れていかれたのは場末のクラブ。列席者も、弟同様に変人であるホームズの兄・マイクロフト(スティーヴン・フライ)しかいない。ふて腐れたワトソンは、ホームズから金を借りて、カードゲームのテーブルに座を移す。

 目下、ホームズはある国際的な陰謀と対峙していた。連続する爆破事件、各国で相次ぐ暗殺――そうした、一見無関係な出来事の中心に、彼はジェームズ・モリアーティ教授(ジャレッド・ハリス)の存在を嗅ぎ取ったのである。ホームズにとって因縁深く、そして最も微妙な関係にある女アイリーン・アドラー(レイチェル・マクアダムス)を利用していたモリアーティ教授は、彼女を使って、シム(ノオミ・ラパス)という占い師に宛てられた手紙を奪おうとしていた。その占い師は、ホームズがワトソンを騙して連れてきたクラブのなかで営業をしていたのである。

 ホームズが探りを入れても、シムに心当たりはなかったようだが、直後に彼女は殺し屋に襲撃された。その存在を感知したホームズは辛うじて撃退するが、騒動が収まったときにはシムの姿も消えていた。

 騒動はあったものの、ホームズは翌る朝、友人を式場まで送り届け、ワトソンは無事にメアリー(ケリー・ライリー)と華燭の典を挙げる。ワトソンは晴れて夫人となったメアリーとともに新婚旅行に赴くべく汽車に乗り込むが、しかし道中、彼らを待ち受けていたのは、新婚祝いと呼ぶにはあまりに過激なセレモニーだった――



[感想]

 ガイ・リッチー監督とロバート・ダウニーJr.&ジュード・ロウという取り合わせによる、新世紀の実写版シャーロック・ホームズ譚第2作である。お約束の造形にこだわらず、ホームズの武術の達人であるという側面や、もと軍人であるワトソンの背景を膨らませ、原典に敬意を払いつつも独創的な脚色を施し、謎解きというよりミステリの味付けをした冒険映画として構築された前作はアメリカで大ヒット、日本でも好評をもって迎えられ、当然のように続篇が製作されたわけだ。

 もともとガイ・リッチー監督作品を『スナッチ』で知り、以来すべて追っている私としては、面白いのは確かだし人気を博したのも喜ばしいことながら、前作は監督の個性が埋没しており、モチーフに振り回された感があるのが残念だった。しかし、キャラクターが完成され、方向性の固まったあとに作られる続篇には期待を寄せていいのではないか、とも思っていた。

 予想通り、2年振りに発表された第2作である本篇は、1作目で確立した個性を磨き上げ、極めて満足度の高い仕上がりとなっている。

 やはり、探偵小説の礎となった作品を土台にしているにしては、謎解きの醍醐味が乏しいのは残念ではあるのだが、そのぶん、他の面白さは前作よりもレベルアップしている。

 たとえば、冒険の要素だ。前作は基本的にイギリス国内の物語であったが、今回はフランスやスイスに赴き、国際的な謀略と戦っており、いちだんと壮大な物語となっている。少々強引すぎるきらいはあれど、随所で派手な銃撃戦なども盛り込まれ、アクション映画としてのインパクトも充分だ。

 謎解きの興趣は乏しくなった、とは言い条、あくまで名探偵vs.天才犯罪者という趣向であることを重んじ、随所で激しい知恵比べが盛り込まれている。格闘のシーンで、ホームズが突出した洞察力を活かして相手の反応を先読みし、不利な状況を勝利へと導いていくアイディアは前作を踏襲したものだが、ホームズ同様に変わり者だが頭脳明晰な兄マイクロフトとの推理の応酬、そして何度も繰り返される宿敵モリアーティ教授との激しい腹の探り合いは、強引さこそ目立つものの知的な興奮に満ちている。

 また、前作では控えめに感じられたガイ・リッチー監督の特徴的な演出が、本篇ではかなり作品世界に溶け込んで蘇ってきている感があるのも、初期から追っている者の目には嬉しいポイントだ。洞察力を駆使した格闘の表現もそうだし、中盤のヤマ場で展開する、飛び交う銃弾との追いかけっこの描き方には、ガイ・リッチー作品のコクが随所に感じられる。シムを追って辿り着いたジプシーの一団との交流がどこか『スナッチ』と似ているのも、ニヤリとさせられるポイントだ。

 しかし本篇の魅力の大部分は、ホームズとワトソンとのやり取りである、と言っても過言ではあるまい。前作では同居していたが、ワトソンが伴侶を得たために出ていってしまい、明らかに生活が荒んだホームズの、まるで拗ねたような振る舞い。彼に翻弄され、命の危機に晒されながらも、その本位を理解して的確にフォローするワトソンの姿もいっそ微笑ましい。決して特異な嗜好や妄想癖のないひとでさえ怪しい関係を疑いたくなる描写まで盛り込んでいるが、基本的に一線を踏み越えることはなく、強烈な絆を感じさせるのが絶妙だ。ホームズとワトソン、といえばもはや探偵小説に限らず“バディもの”のスタンダードだが、本篇のふたりはその個性をきっちりと膨らませ、いっそう魅力的なコンビに育てあげた。あまりに極端な描写は、生真面目な原作読者にしかめっ面をさせる可能性もあるが、本篇は本篇ならではの名コンビとして、単独で認めてもいいレベルだろう。

 原作のエッセンスをきちんと詰め込んだうえで、快く次の可能性を仄めかす結末も心憎い。これほどいい状態でキャラクター、作品世界が育ったのだから、スタッフ&キャストの脂が乗っているうちに、是非とも続篇を披露していただきたい。



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