『ファイヤーフォックス』

ファイヤーフォックス [Blu-ray]

原題:“Fire Fox” / 原作:クレイグ・トーマス / 監督&製作:クリント・イーストウッド / 脚本:アレックス・ラスカー、ウェンデル・ウェルマン / 製作総指揮:フリッツ・メインズ / 撮影監督:ブルース・サーティース / 特撮:ジョン・ダイクストラ / 美術:エレイン・セダー、ジョン・グレイスマーク、ビアラ・ニール / 編集:ロン・スパング、フェリス・ウェブスター / キャスティング:マリオン・ドハティ、メアリー・セルウェイ / 音楽:モーリス・ジャール / 出演:クリント・イーストウッド、デヴィッド・ハフマン、ウォーレン・クラーク、フレディ・ジョーンズ、ロナルド・レイシー、ステファン・シュナベル、ディミトラ・アーリス / マルパソ・カンパニー製作 / 配給:Warner Bros.

1982年アメリカ作品 / 上映時間:2時間16分 / 日本語字幕:戸田奈津子

1982年7月17日日本公開

2011年7月20日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

Blu-ray Discにて初見(2012/02/22)



[粗筋]

 ソビエト連邦の開発者が、驚異的なシステムを組み込んだ戦闘機“ファイヤーフォックス”の開発に成功した。この情報に接した英国諜報部は、勢力図を塗り替えるこの技術を奪うために、作戦を立てる。テスト飛行に登場する予定の搭乗員と体格が似ており、ロシア語や特殊工作に精通した人材をソビエト内部に送りこみ、テスト飛行直前に強奪させるのである。

 白羽の矢が立てられたのは、アメリカ空軍に所属していたミッチェル・ガント元少佐(クリント・イーストウッド)――彼はヴェトナム戦争での体験がもとで心に傷を負っており、戦場を連想させる轟音を聞くとパニックに陥る問題を抱えていた。しかし、緊急時には発症する可能性が低いこと、その点を織りこんでも彼が最適である、と判断されたのである。ガント自身は乗り気ではなかったが、説得されてやむなくこの難しい計画に荷担した。

 最初は実在する、麻薬密売人である貿易商スプラグという男の身分を詐称してソ連内に潜入したガントは、現地協力者の多数の犠牲を払いながらも、“ファイヤーフォックス”に辿り着くが、ここに至ってもまだ困難は待ち受けていた……



[感想]

 クリント・イーストウッドは監督としても俳優としても同じようなものには携わらない――というのが途中までの認識だったが、この前あたりまでは人情路線、意識したマンネリへの移行らしき傾向が見受けられた。率直に言って、容色も衰えてきたなか、この頃プライヴェートでもパートナーであったソンドラ・ロックに対する思い入れもあって、ある意味必然的な変化でもあったように思うが、順繰りに追って観てきた者にはいささか寂しさを感じる内容だった。

 だが、前作『ダーティファイター/燃えよ鉄拳』からやや間を置いて発表された本篇は、がらりと趣を変えている。一時期の貪欲さが蘇ったかのように、かなりの新機軸に挑んでいるのだ。

 とはいえ、この時点で既に貫禄を発揮しつつあった演出の味わいは、他のイーストウッド監督作品と大きく隔たってはいない。語り口は渋く重厚だが決して過剰に掘り下げず、いっそ淡々とした調子で物語が紡がれていく。序盤の展開はスパイを中心とする冒険ものに近いのだが、アメリカ人であるガントと、共産圏で暮らしてきた協力者たちとのやり取りを通して、その価値観、命の重みの違いを切り取っていて、手に汗握るような攻防を期待すると物足りないだろうが、独特な雰囲気を醸しだしている。

 最も驚くべきは後半、およそ1時間近く繰り広げられる、“ファイヤーフォックス”を巡るくだりだ。限られた燃料で、補給のタイミングを窺いながら逃亡するガントと、レーダーや情報を元にその痕跡を追うソ連上層部との間接的な攻防を、英国諜報部の指導者たちの苛立ちも絡めて、着実な筆致で描き出す。

 無論、“ファイヤーフォックス”の飛行シーンも見所……と言いたいところだが、この十数年ほどで視覚効果の技術は飛躍的に向上しており、昨今の作品に慣れた目で鑑賞するとさすがにぎこちない。恐らく実写とミニチュアを併用し、それを巧みに合成しているのだろうが、随所で違和感を覚えるのだ。

 ただ、スピード感、迫力をしっかりと感じさせるのは凄い。細かな画面の切り替えを行いスピードを演出していることもそうだが、限界があるなりに繊細な作り方をしているからこそだろう。特撮単体で支えるのは難しい航空アクションの迫力、面白さを、展開と演出に趣向を凝らして実現しているあたりに、初期から職人芸的な巧さを見せていたイーストウッド監督の本領が垣間見える。

 ソビエト国内での協力者たちがほとんど自ら死を選んでいるように見えるのに、必ずしもその必然性が強く窺えないことや、戦闘機奪取のなかで用いられる作戦やアイディアが、むしろソビエトに暮らす人々が思いつきやすく感じられ、果たしてあんな成功裏に運ぶものだろうか、という疑問点もあって、個人的には決してハイレベルな作品とは思えないのだが、イーストウッド監督ならではの持ち味と、スパイ・アクション、航空冒険ものなどの面白さが絶妙なバランスで調合していることは評価したい。あのまま人情路線まっしぐらに突き進んだイーストウッド、というのもある意味で面白そうだが、同じようなレールを歩み続けるのは、やはりこの人らしくない。



関連作品:

荒鷲の要塞

ステルス

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レッド・バロン