『日本列島 いきものたちの物語』

『日本列島 いきものたちの物語』

監督:出田恵三 / 製作:市川南、服部洋、濱名一哉、佐藤寿美、町田智子、高橋誠、喜多埜裕明、辰巳隆一、加藤直次、森越隆文、松本哲也 / プロデューサー:一瀬隆重 / エグゼクティヴプロデューサー:吉田立、山内章弘 / 共同プロデューサー:遠藤学、小野泰洋 / 監督補:久保嶋江実 / 撮影:岩合光昭中村征夫、嶋田忠、渕上拳、石井英二、倉沢栄一、新山敏彦、前川貴行、松岡史朗、新井和也、石井輝章、伊藤浩美、大沢成二、小原玲、高橋真澄、多湖光純、塚越賢、津田賢之介、中川達夫、中川西寛之、中村卓哉、野口克也、野沢耕治、林田恒夫、平野伸明、柳瀬雅史 / 編集:澤村宣人 / 音響効果:飯村佳之 / 録音:矢野正人 / 音楽:服部隆之 / 音楽プロデューサー:北原京子 / ナビゲーター:相葉雅紀長澤まさみ、ゴリ、黒木瞳 / 制作プロダクション:オズ、NHKエンタープライズ / 配給:東宝

2012年日本作品 / 上映時間:1時間35分

2012年2月4日日本公開

公式サイト : http://www.nihon-rettou.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2012/02/04)



[概要]

 日本列島は、狭いながら東西南北に延びた独特の地形故に、様々な生き物が棲息している。知床半島にはヒグマが、釧路湿原にはキタキツネがいる。下北半島では複数の群れに分かれ厳しい冬を懸命に越しているニホンザルがいる一方で、屋久島では春の季節にメスを巡って壮絶な争いを繰り広げている。

 約2年半に跨る長期間の取材、撮影を経て得た素材を、生き物たちの家族像に焦点を当てて描いた、本邦初の長篇ネイチャー・ドキュメンタリーである。



[感想]

 ドキュメンタリーを長篇映画として作るのは、実は簡単ではない。大量の情報があり、整理整頓するだけで物語が生まれてくるような素材ならまだしも、単純にテーマだけを統一してまとめたところで、見応えのある作品になるとは限らない。題材に添った物語を独自に構築する、であるとか、巧みな緩急を施して耐えず観客の関心を惹きつける工夫がなければ、観ているあいだに飽きてしまうものだ。そういうものだ、と割り切って、ほぼ剥き身で提供する作り手も少なくないが、予算がかかったり大規模に公開する意図のある作品では、こういう牽引力を付与することも求められる。

 とりわけ、自然を題材としたドキュメンタリーでは、このバランス感覚が重要となる。時間を費やして集めた膨大な映像のなかから取捨選択し、観るものの目を奪うような映像を採り上げる一方で、それらをうまく構成して、長篇映画として多くの人々を惹きつけられるような牽引力のある物語を紡ぎあげなければ、支持はされにくいし、当然ながら資金の回収もままならない。イギリス・BBC制作のドキュメンタリーがコンスタントにヒットを果たしている一方で、同系統の作品が決して無尽蔵に輩出されないのには、そうした背景がある、と言えるだろう。

 こうした制作事情は、近年決して懐の暖かくない日本の映画業界で、時間と予算を費やした自然ドキュメンタリーがなかなか生まれなかった理由になっている、と感じ密かに憂慮していただけに、本篇の登場は素直に喜ばしかった。他の事情も絡んでいたが、そうした想いも手伝って初日に劇場に馳せ参じたのだが――率直に言えば、これは失敗作の部類である、と言わざるを得ない。

 映像的には素晴らしい内容なのだ。岩合光昭中村征夫など、自然ドキュメンタリーや、そうした専門誌に疎い人間でも名前を知っているような、間違いなく日本を代表するカメラマンが撮影した映像は美しく、なかにはニホンザルとシカとが共存しあっている光景であったり、ヒグマが魚を獲る際の一幅の絵のような情景など、資料としてもヴィジュアル的にも価値の高い場面がある。

 問題は、まとめ方だ。

 個人的には、こういう題材を“家族愛”というテーマで括ってしまう安易さ自体があまり評価出来ないのだが、それは人それぞれだし、そうやってまとめようと製作者が考えるのは自由だと思う。だが、そう表現する上での構成や演出が、非常に拙い。

 本篇は基本的に春、夏、秋、冬、という四季の営みの順序に従って描いているが、それ以外に明白な指針が見えないので、どうもテンポに乗りづらい。知床のヒグマや釧路湿原のキタキツネ、下北半島および屋久島のニホンザル、といった一部の生き物を全篇通して扱うことで芯を通しているが、順番がランダム、かつ前後の脈絡が感じられない繋ぎ方をしているので、終始関心が持てないのだ。

 もっとまずいのはナレーションである。そもそも映像自体にしっかりと力を備えているドキュメンタリー作品では、押しつけがましい語りなど必要としないのだが、本篇は少々喋りすぎている。せっかく映像が秀逸でも、ナレーションの妙に感情過多であったり、わざとらしい言葉が重なってしまって集中出来ない。

 ナレーションの視点、方向性が固定していないことも問題だ。客観的に語るならそれに絞るか、複数のナレーターを起用したことを活かして、それぞれに語るパートや役割を分担しているならまだ解るのだが、神の視点から語ったり、やたら被写体に親身になったり、更には被写体の目線に擬して語ったり、というのをそれぞれが入れ替わり立ち替わりで行うので、まったく安定しない。そうでなくても喋りすぎで集中しづらいのに、ナレーションの役割分担も不明瞭だから、なおさらに内容が入らなくなってしまっているのだ。説明が多いのは或いは幼い観客のことも考慮してのことかも知れないが、それなら余計に、ナレーターの人数を絞るか役割分担を明確にすべきだっただろう。

 前述したとおり、映像自体は美しく、資料的にも価値のあるものがあちこちに見受けられる。が、まとめる立場の人間が、長篇ドキュメンタリーとして見せる技をまったく心得ていないので、その価値を大幅に損なってしまった。日本では珍しい自然ドキュメンタリーの長篇であるだけに、本当なら成功を祈りたいところなのだが、申し訳ないがこれは薦められる出来ではない――ナレーションを最小限にし、映像のメッセージ性をより活かしたまとめ方をしていれば、と惜しまれてならない。



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