『アルカトラズからの脱出』

アルカトラズからの脱出 [DVD]

原題:“Escape from Alcatraz” / 原作:J・キャンベル・ブルース / 監督&製作:ドン・シーゲル / 脚本:リチャード・タッグル / 製作総指揮:ロバート・デイリー / 撮影監督:ブルース・サーティース / 美術:アレン・スミス / 編集:フェリス・ウェブスター / キャスティング:マリオン・ドハティー、ウォーリー・ニチタ / 音楽:ジェリー・フィールディング / 出演:クリント・イーストウッド、パトリック・マクグーハン、ロバーツ・ブロッサム、ジャック・チボー、フレッド・ウォード、ポール・ベンジャミン、ラリー・ハンキン、ブルース・M・フィッシャー、フランク・ロンジオ、ダニー・グローヴァー / マルパソ・カンパニー/シーゲル製作 / 配給:パラマウント映画×CIC / 映像ソフト発売元:Paramount Home Entertainment Japan

1979年アメリカ作品 / 上映時間:1時間51分 / 日本語字幕:金田文夫

1979年12月15日日本公開

2010年11月26日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

DVD Videoにて初見(2012/01/24)



[粗筋]

 1960年1月18日、フランク・モーリス(クリント・イーストウッド)はサンフランシスコ沿岸にあるアルカトラズ刑務所に移送された。陸から隔絶された島にあるこの監獄は、その立地条件ゆえに脱獄が困難で知られており、よその刑務所で問題を起こした者、脱獄を図った者が最後に収容される場所としても知られている。

 ウルフ(ブルース・M・フィッシャー)という凶暴な男の挑発にも屈せず、超然と振る舞うモーリスは、だがここにおいても密かに脱獄する隙を窺っていた。ウルフとの乱闘沙汰を咎められ、光の射さない独房に閉じ込められても、モーリスは決して激昂せず、ただ黙々と時を待った。

 やがて、アトランタの刑務所でモーリスと顔見知りになっていたクラレンス(ジャック・チボー)とジョン(フレッド・ウォード)のアングリン兄弟が、やはり逃亡を幾度も企てたためにアルカトラズ刑務所に送致されてきた。モーリスの隣の監房に収容されたチャーリー・バッツ(ラリー・ハンキン)も、モーリスが脱獄の機を睨んでいることを知って、計画に加えて欲しいと申し出てくる。自らは脱獄に加わらないが、協力的な者も見つけた。

 かくして、モーリスは脱獄計画を始める。静かに、着実に――



[感想]

 クリント・イーストウッドドン・シーゲル監督は相性がいい――というより、のちのイーストウッドが監督として確立するスタイルは見事にシーゲル監督の手法を敷衍しており、師匠に対する敬意と親愛の念が強いことを窺わせる。このコンビの代表作『ダーティハリー』以来8年振りの顔合わせであり、イーストウッド自身が監督として手腕を振るうことが多くなったあとに撮られたにも拘わらず、ほとんど違和感を抱かせないのも当然と言えよう。

 本篇は実話に基づいている。近年こそ史実を題材にした硫黄島2部作や『チェンジリング』、間もなく公開される『J・エドガー』のような作品があるが、まだ自身を主人公に撮っていた作品のほうが遥かに多いこの時期としては異例のことだ。既に始まりつつあった、ハリウッドのネタ不足が原因、という皮肉な見方もあるだろうが、そういう点も踏まえて、常に自分という個性の新しい活用法を捜し求めていたイーストウッドならでは、と言える。

 基本的にはこの時期のイーストウッド作品の例に漏れず、娯楽作としても緻密な仕上がりだが、基本的なタッチが終始リアルになっているのも特徴だ。『ガントレット』『ダーティファイター』のような外連味のある表現、演出は抑え、脱獄するための下地作りの描写を積み重ねている。最初に諍いを起こすウルフの存在や、長期刑に服し脱獄自体を考えていない囚人イングリッシュ、そして脱獄計画に荷担するバッツの言動など、終盤のドラマに深みを持たせるための要素も鏤められているが、決して過剰に際立たせようとしない。その抑制が、リアリティとともに程よい味わいを本篇に添えている。

 実話を題材にした作品は、その中心人物の造形に拘ることも多い――というよりそれが名作の条件のようにも思われるが、本篇のイーストウッドは驚くほどにいつも通りだ。序盤、所長の手許にある書類に“知能が高い”と評されているのが特徴といえば特徴であり、確かに感情に身を委ねることの少ないスマートな人物になっているものの、表情や挙措に大きな工夫を加えてはいない。その振る舞いはハリー・キャラハンやファイロ・ベドーとは異なるが、『荒野の用心棒』で演じた名無しのガンマンに似ている。実話がベースになっているとは言い条、中心人物の消息は不明のままであり、そこに乗じた造形だからこそ、とも言えるが、絶妙な題材を選んでいるのは間違いない。

 乾いて落ち着いた、それでいて人を逸らさぬ語り口、静かだが着実に緊張感を積み重ね、そのままでピークに達する安定感。何か教訓を齎すわけでもなく、決して派手でもないのに、面白さは否定しようがない。熟練した監督と俳優の、互いに寄せる信頼と敬意の強さが成し得た、渋味を極めたエンタテインメントである。……もし出来るなら、もう1本ぐらい、このコンビの作品を観たかったところだが、もう叶わないのが残念だ。



関連作品:

マンハッタン無宿

真昼の死闘

白い肌の異常な夜

ダーティハリー

恐怖のメロディ

ダーティハリー3

荒野の用心棒

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