『レインマン』

『レインマン』 レインマン [Blu-ray]

原題:“Rain Man” / 原作:バリー・モロー / 監督:バリー・レヴィンソン / 脚本:バリー・モロー、ロナルド・ロス / 製作:マーク・ジョンソン / 製作総指揮:ピーター・グーバー、ジョン・ピーターズ / 撮影監督:ジョン・シール / プロダクション・デザイナー:アイダ・ランダム / 衣裳:バーニー・ポラック / 編集:ステュ・リンダー / キャスティング:ルイス・ディジャイモ / 音楽:ハンス・ジマー / 出演:ダスティン・ホフマントム・クルーズヴァレリア・ゴリノ、ジェリー・モルデン、ジャック・マードック、マイケル・D・ロバーツ、ボニー・ハント / 配給:日本ユナイテッド・アーティスツ×UIP Japan / 映像ソフト発売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント

1988年アメリカ作品 / 上映時間:2時間14分 / 日本語字幕:戸田奈津子

1989年2月25日日本公開

2011年3月18日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

第1回午前十時の映画祭(2010/02/06〜2011/01/21開催)上映作品

第2回午前十時の映画祭(2011/02/05〜2012/01/20開催)《Series1 赤の50本》上映作品

初見時期不明

TOHOシネマズみゆき座にて再鑑賞(2012/01/20)



[粗筋]

 ロサンゼルスで乗用車のディーラーを営むチャーリー・バビット(トム・クルーズ)が、部下で恋人でもあるスザンナ(ヴァレリア・ゴリノ)とともに週末のヴァカンスに赴く途中で、留守番をしているもうひとりの部下から連絡が入った。弁護士からの伝言で、チャーリーの父が亡くなった、というのである。

 チャーリーにとっては10代のときに家を飛び出して以来、絶縁状態にあった父親だが、連絡を無視するわけにはいかなかった。スザンナと共に久方ぶりに生家を訪れ、葬儀を済ませ、弁護士のもとで遺言を伝えられたチャーリーは驚愕する――彼に遺されたのは、父と断絶するきっかけになったビュイックと、既に枯れた薔薇の樹のみ、不動産などを処分して発生する300万ドルの遺産は、ある人物の財産として信託に委ねられる、というのである。

 納得がいかないチャーリーは信託から受益者の居場所を聞き出し、直接訪問する。その人物は、ウォルブルック研究所にいた。ここの施設で医師を務めるブルナー(ジェリー・モルデン)を後見人として、遺産の受取人に指名されていたのは、レイモンド・バビット(ダスティン・ホフマン)――チャーリーの兄であった。

 そもそも兄がいたことさえ、チャーリーはこの時まで知らなかった。レイモンドは自閉症であり、どうやら父は亡くなる直前まで定期的に面会に訪れていたらしい。いくら絶縁状態だったとはいえ、同じ息子だというのにまったく異なる接し方をされ、遺言でも厚遇されていた兄に、チャーリーは妬心を抱いた。折しも、高級車の取引を巡っての交渉に不穏な兆しが見えはじめていたこともあって、せめて遺産の半分を獲得するために、チャーリーは暴挙に出る。レイモンドを施設から連れ出し、ロサンゼルスまで同行させようと考えたのだ。

 誘拐同然の行為に、憤ったスザンナは単身帰途に就いてしまい、チャーリーはレイモンドとふたりで行動することとなる。だが、習慣を崩されることを嫌い、独自のルールのなかで生きるレイモンドとの旅は、チャーリーの想像を超えて厄介な代物だった……



[感想]

 恐らく私が初めて本篇を鑑賞したのはまだ十代ぐらいのころ、テレビか、レーザーディスクあたりだったと思う。傑作であるのは疑いないが、とある事情からトム・クルーズの振る舞いが身につまされるので、大切であると同時においそれと触れられない作品になってしまった。とても久しぶりに、きちんと向かい合ったわけである。

 やはり、改めて個人的な感慨を禁じ得ない作品だったのだが、のちに多くの映画に触れるようになり、多少なりとも肥えた眼で眺めると、記憶している以上に丁寧で、奥行きのある映画だった、と実感した。

 ダスティン・ホフマンの演技は疑いもなくオスカー級だが、彼の演技は緻密なリサーチだけでなく、巧妙な伏線によっても巧みに支えられている。最も印象に残っていたのは題名でもある“レインマン”という語の秘密だが、それ以外にも、考えてみると納得のいく描写が序盤から様々仕掛けられているのに気づくのだ。

 細かく考証していくときりがなさそうなのでひとつに絞ってみると、レイモンドがチャーリーを自分の弟だと気づいているのか否か、という部分が大きなポイントだ。ごく冷淡な解釈をすれば、最後まで気づいていないとも取れるのだが、しかしレイモンドの表情、序盤から提示されている彼の特徴を考えると、実は他人が考えているよりもずっと早く気づいていたのではないか、とさえ受け取れる。そうでなければ納得しにくい描写も散見するし、そういう前提で鑑賞すると、本篇の情感はより深い。

 もうひとつ、視点人物であるチャーリーについても、昔に観たと微妙に異なる印象を受けた。というのも、彼のレイモンドに対する認識が思いの外、突然ではなく緩やかに訪れていることだ。漠然と、ある事実を知ったことで一気にレイモンドへの接し方が変わったように思いこんでいたが、序盤で見せた利己的な思考は決してすぐに失われてはいない。ともに旅を重ね、レイモンドの個性を理解してもなかなか合わせようとはしなかったし、ある事実を知ったあとでも、チャーリーは自らを翻弄するトラブルにばかり目が行っている。

 だが、寸前までそういう状態であったからこそ、クライマックスでの主張と、そのなかで覗かせる“兄”への気遣いが重みを持つ。観客はきちんと彼らの旅を辿るほどに、あのクライマックスでの言動の繊細さに打たれるはずだ。終始乱れることなく、自閉症の男性を演じきったダスティン・ホフマンの台詞がまず強く印象に残るのは事実だが、トム・クルーズ演じるチャーリーの表情も、実に味わい深い。

 こうした過程を、ロード・ムービーの手法で描いているのがまた優れた着眼だ。どうしてこんなに長旅になってしまったのか、という理由がそのままレイモンドの個性を描く役割も果たしているし、旅の過程とチャーリーがレイモンドを理解し受け入れる流れがオーバーラップし、より感動的に仕立てている。

 個人的な思い入れを抜きにしても、本篇は間違いなく映画史に残る傑作である、と思う。サヴァン症候群というものに着目し、ほとんど最初にして最高の表現を果たしたことも重要だが、それが物語の構造と分かちがたく結びついていることが特に素晴らしいのだ――聞いた話によると、レイモンドを実在の人物をモデルにサヴァン症候群の男性として描いたのはダスティン・ホフマンのアイディアだったそうだが、本当にこの設定抜きで成立したとは到底信じられないほどである。



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