『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』

『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』

原題:“Mission:Impossible - Ghost Protocol” / 原作:ブルース・ゲラー / 監督:ブラッド・バード / 脚本:ジョシュ・アッペルバウム、アンドレ・ネメック / 製作:トム・クルーズ、J・J・エイブラムス、ブライアン・バーグ / 製作総指揮:ジェフリー・チャーノフ、デヴィッド・エリソン、ポール・シュウェイク、ダナ・ゴールドバーグ / 撮影監督:ロバート・エルスウィット,ASC / プロダクション・デザイナー:ジム・ビッセル / 編集:ポール・ハーシュ / 衣装:マイケル・カプラン / 視覚効果&アニメーション:インダストリアル・ライト&マジック / 音楽:マイケル・ジアッチーノ / 出演:トム・クルーズジェレミー・レナーサイモン・ペッグポーラ・パットンミカエル・ニクヴィスト、ウラジミール・マシコフ、ジョシュ・ホロウェイアニル・カプールレア・セドゥートム・ウィルキンソン / トム・クルーズ/バッド・ロボット製作 / 配給:Paramount Japan

2011年アメリカ作品 / 上映時間:2時間12分 / 日本語字幕:戸田奈津子

2011年12月16日日本公開

公式サイト : http://www.mi-gp.jp/

TOHOシネマズ日劇にて初見(2011/12/16)



[粗筋]

 ロシアの刑務所に収容されていたIMFの諜報員イーサン・ハント(トム・クルーズ)は、かつてのチームメイトであるベンジー・ダン(サイモン・ペッグ)と、初対面の諜報員ジェーン・カーター(ポーラ・パットン)のふたりによって救出された。

 ベンジーとジェーンはその直前、ブダペストでロシアの核ミサイル発射コードを記載した書類を奪う任務に就いていたが、成功を前にして諜報員が暗殺者サビーヌ・モロー(レア・セドゥー)に殺害され、逆に書類を奪われてしまう。そこで、イーサンを救出し、サビーヌを雇った可能性のある、かつてロシア諜報部に在籍していた通称“コバルト”と呼ばれる人物の情報を得る任務に駆り出したのだ。

 情報はクレムリン内部の資料庫に保管されている。複数の関門をくぐり抜け、資料庫に侵入したチームだったが、どういうわけか“コバルト”のファイルはすべて空になっていた。驚愕するイーサンのもとに、ベンジーが顔色を変えてやって来る。彼らの無線に何者かが侵入、クレムリンの警備にも聞こえるようにしたうえで、「爆弾を仕掛けた」という通信を送ってきたのだ。イーサンは急遽作戦を中断するが、どうにか赤の広場に出たところで、クレムリン宮殿が爆発、イーサンも地下の爆発のあおりを受けて昏倒してしまう。

 目醒めたとき、イーサンはストレッチャーに手錠で固定された状態で病院に担ぎ込まれていた。傍らから覗きこんでいたのは、ロシアの特別捜査官アナトリー・シディロフ(ウラジミール・マシコフ)。彼は、クレムリンを爆破したのがイーサンたちだと睨んでいる、と告げた。だがイーサンは、アナトリーに追求されるより先に、病院を脱出する。

 どうにか本部に連絡を取り、現れた応援の車に乗っていたのは、折しもロシアを訪問中だったIMF長官(トム・ウィルキンソン)だった。先のクレムリン爆撃の主犯をIMFと判断したロシアは、事実上の宣戦布告と捉えている、という。IMFは即時解体、イーサンたちチームは、もし捕らえられねば極刑は免れない。だが、と長官はひとつの記録媒体をイーサンに差し出し、こう告げる。“コバルト”の正体を探り出し、核ミサイル発射コードを奪還せよ。

 そのとき、イーサンたちの乗った車が襲撃を受けた。長官はイーサンの目の前で銃弾を浴びて絶命、イーサンは同乗していた分析官ウィリアム・ブラント(ジェレミー・レナー)を辛くも救出し、列車貨物に偽装していた拠点に逃げこむ。

 見方はイーサン、ウィリアムと、先に拠点に辿り着いていたベンジー、ジェーンのわずか4人。現在、彼らに残されているのはコンテナ内部の装備だけ。本部は既になく、フォローも期待出来ない。この八方塞がりの状態で、イーサンたちはミッションを完遂することが出来るのか……?



[感想]

 もはやオリジナルであるテレビドラマ・シリーズより、トム・クルーズ製作&主演によるシリーズとしてのイメージが強くなった感のある『ミッション:インポッシブル』最新作である。

 1作目はブライアン・デ・パルマ、2作目はジョン・ウーと、作家性の強い監督を起用して、そのカラーに染めぬいたアクション映画として製作してきたが、3作目、そして4作目である本篇は、印象に極端な違いがない。新たに起用されたブラッド・バード監督はもともとアニメーション畑の出身で、とりわけタイトルバックにそれらしさが窺えるが、しかし全体のテイストは第3作に近い。どちらかと言えば主人公イーサンが物語のすべてを目撃している感のあった初期2作に対し、前作からは複数の人物に活躍の場が与えられ、それぞれの専門分野や担当を明確に分け、チームでミッション達成に臨む、つまりは本来のスパイものに見られた趣向が蘇っている。よりオリジナルの雰囲気に近づいた前作を、本篇は意識的に踏襲したような仕上がりだ――前作で監督を務めたJ・J・エイブラムスが引き続き製作として関わっているのだから、当たり前とも言えるのだが。

 率直に言えば、欠点自体も引き継いでしまったような印象はある。第1作なら逆転に次ぐ逆転が演出するサスペンスに優れ、第2作なら派手で重量感のあるアクションと、スタイリッシュだが男臭いムードがいい味になっていたが、第3作と第4作はそういう尖った味わいには乏しい。また、第3作と比較しても、オスカー俳優フィリップ・シーモア・ホフマンが重厚に演じたあの悪役に対し、やることが凶悪にも拘わらずいまひとつ存在感が薄い嫌味がある。

 しかしその分、スパイものの面白さはかなり向上した。たとえばクレムリンに潜入する際に用いた、守衛を誤魔化すための小道具だ。察しの悪い人だと咄嗟に理解できないのではないか、と不安になるくらい、非現実的な高度さと、同時に視覚的な面白さがあって、唸らされてしまう。その後のシーンにもユニークで技術的にここまで出来るのかという疑問を抱かせつつも、ありそう、あったら面白い、と思わせるアイテムが鏤められ、まさに往年のスパイ映画の魅力を蘇らせている。

 アクションの趣向も、たとえば第2作の、バイクのハンドルを握ったまま脇に下りて銃弾を避ける、というひと目でインパクトを齎す激しい趣向こそ少なめだが、アイディアは秀でている。予告篇で多用されていたブルジュ・ハリファでの壁登り、宙吊りからのダイヴが特にインパクトの強いシーンであるのは間違いないが、アクション映画として観るとむしろそのあと、砂嵐に覆われた市街での追跡劇が出色だ。ほんの数メートル先でさえ砂塵に覆われて見えず、そのなかを探知機頼りに追う。いきなり乗用車で襲撃されるかと思えば、イーサンも車を用いた逆襲を試みる、といった具合で、類例を思いつかない発想の妙がある。クライマックス、タワー式の自動車展示場の、中央を昇降する車両用エレベーターを縦横に行き交うアクションも出色だ。

 そしてもうひとつ、旧作と比べて本篇のいちばんの特徴であり魅力となっているのが、全篇にユーモアが鏤められていることである。どう考えてものっぴきならない窮状なのに、随所で暢気とも間抜けとも言えるやり取りがしばしば繰り広げられる。前述したブルジュ・ハリファでの壁登りの直前、突如判明した問題からそういう状況に追い込まれるまでの、男3人の表情と、あとで部屋に戻ったジェーンに事情を伝える姿。トム・クルーズ主演となった本シリーズのなかでも特に象徴的なワンシーンにオマージュを捧げた、終盤の宙吊りシーンなど、正直格好良さよりも滑稽さが色濃い。コメディ作品に強みを発揮するサイモン・ペッグ演じるベンジーと、ジェレミー・レナーが演じる、立場的に新入りであるが故に終始軽輩扱いされてしまうブラントのやり取りがしばしば齎す笑いは、やもすると緊張感ばかりが高まりそうな本篇のシチュエーションに程よい緩みを与えている。

 斯様に、新しいモチーフや特徴的なアイディアを盛り込みつつも、往年のスパイ映画のテイストをうまく蘇らせた秀作なのだが、引っかかりを覚えるとすれば、イーサンが当初、異国の刑務所に収容されている、その理由だろう。作中でも何度か触れられ、最後には意外な真実が明かされるのだが、人によってはこれを蛇足と感じて、マイナスの材料と捉えるかも知れない。

 だが私は、この仕掛けは施して正解だったと思う。あのエピローグのくだりが存在することが、本篇の余韻をいい具合に柔らかいものにすると共に、スパイという仕事に対するイーサンの厳しい覚悟を見事に描いている。柔らかさと厳しさの共存する本篇に、いちばん相応しいラストシーンであると思う。

 必ずしも間然する余地のない傑作だとは言えない。だが、純粋に面白いスパイ・アクション映画を志し、見事にその域に達したことは、間違いなく賞賛に値する。むしろ、初期の2作品にこそ物足りなさを感じていた人が待ち望んでいたタイプの作品ではなかろうか。



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