『ゲーテの恋 〜君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」〜』

『ゲーテの恋 〜君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」〜』

原題:“Goethe!” / 監督:フィリップ・シュテルツェル / 脚本:フィリップ・シュテルツェル、クリストフ・ムーラー、アレクサンダー・ディディナ / 製作:クリストフ・ムーラー、ヘルゲ・ザッセ / 撮影監督:コーリャ・ブラント / 美術:ウド・クラマー / 編集:スヴェン・ブデルマン / 衣装:ビルジット・フッター / メイク:キティー・クラツシュケ、ハイケ・メルケル / 音楽:インゴ・フレンツェル / 出演:アレクサンダー・フェーリング、ミリアム・シュタイン、モーリッツ・ブライブトロイ、ヘンリー・ヒュプヒェン、ブルクハルト・クラウスナー、フォルカー・ブルッヒ、ハンス・マイケル・レバーグ、リン・リュッセ / 配給:GAGA

2010年ドイツ作品 / 上映時間:1時間45分 / 日本語字幕:吉川美奈子

2011年10月29日日本公開

公式サイト : http://goethe.gaga.ne.jp/

TOHOシネマズシャンテにて初見(2011/12/02)



[粗筋]

 ヨハン・ゲーテ(アレクサンダー・フェーリング)は父親(ヘンリー・ヒュプヒェン)の命で法律を学んでいる。だが、本当の夢は詩人になることだった。不本意な勉学に身が入るわけもなく、試験は不合格。業を煮やした父はゲーテを地方の法律院に送り、現場で鍛えることにした。

 ゲーテの教育係に任命されたケストナー参事官(モーリッツ・ブライブトロイ)は、法学校で散々な成績だった彼を侮り、当面は書生として書類仕事だけを担当させた。

 まだ飛ばされたことへの蟠りのあるゲーテに仕事に対する意欲があろうはずもなく、ゲーテは机を並べる同僚イェルーザレム(フォルカー・ブルッヒ)に誘われ、着任早々ダンスパーティに赴き、しこたま酒に溺れる。

 当然のように翌日は寝過ごし、ふたりはケストナー参事官から大量の書類仕事を押し付けられた。48時間以内に仕上げなければクビ、と言われては、さしものゲーテも本気を出さないわけにはいかなかった。

 奮闘の甲斐あって、予想よりも早く目処をつけたゲーテとイェルーザレムは、気分転換に教会の早朝ミサを覗く。そこでゲーテの視線は、ひとりの女性に吸い寄せられた。それは昨晩、ダンスパーティの会場で彼にぶつかり、ゲーテの服に大きな染みを残した女性だった。

 演奏が終わったあと、イェルーザレムに背中を押され、ゲーテはその女性と挨拶を交わす。彼女の名は、ロッテ・ブーフ(ミリアム・シュタイン)。

 その恋が、のちの文豪ゲーテを誕生させることを、まだ彼は知らない――



[感想]

 最初に白状しておくと、私は『若きウェルテルの悩み』を読んだことはないし、ゲーテの生涯についても全く知らない。だから、この作品がどの程度史実に沿っているのか、『ウェルテル』という作品と絡めた描写の真価については判断のしようがない――鑑賞後にパンフレットを参照したところ、随所で事実をなぞっているが、やはり基本的にはフィクションのようであるが。

 しかし、そういう知識を抜きに鑑賞しても、ロマンスとして愉しめる優秀な出来であることは断言出来る。

 説明は冒頭と結末にテロップで添えられるくらい、時代背景についても一切説明はないが、非常に話に入りやすい。簡潔に、的確に描いているのもさることながら、ゲーテという人物像が明快に見える語り口が巧みなのだ。成績も素行も悪い、しかし親しみやすい人柄で、文才に溢れている。その醜態と失意のさまは有り体ながら笑いと同情を誘う。

 お相手となるロッテも、そのキャラクターは明快だ。じゃじゃ馬で家柄と裏腹に貧しい暮らしを強いられ家族を支えねばならない立場だが暗さはない。率直だが善人で、確かに一目で惹きつけられる佇まいがある。どちらも、明らかに当時の人々のなかでは一風変わっていることが伝わり、だから惹かれあうのも納得がいく。予想外のところから現れる恋敵、そして引き裂かれるくだりなど、いっそ陳腐と言っていいほどオーソドックスだが、それをうまくドラマティックに、観るものを巧みに牽引していくストーリーに仕立て上げている。

 しかしこの手触り、どうも馴染みがある。よくよく考証してみて気づいたが、本篇の印象は、日本の恋愛漫画に似ているのだ。傍から見ても魅力的で才能のある男女が惹かれあうが、障害によって不運な経緯を辿る。その結果導かれるラストシーンの快い余韻に至るまで、まるで往年の少女漫画のようだ。

 華やかさもある一方で程よく生活感を表現した衣裳や美術、そのうえで活発に行動する、際立った登場人物たち。ゲーテにはすぐに彼を理解する友人が現れるが、同時に明らかな敵役も用意されている。この悪役的位置づけのケストナー参事官の、感情や関係性の変化もまた話に戯画めいた膨らみを持たせている。当初は侮っていたゲーテの才能を認め、いちどは友人として受け入れ、知らずに恋愛についての助言を求めるあたりの味わいなどは、ほとんどラヴコメだ。

 終盤の切ない流れと、シンプルだが鮮やかな逆転劇も決まっている。誰もがその名を知る文学者を題材にしているから、といって身構える必要がないくらい、本篇のプロットも語り口も非常に親しみやすい。クライマックスの父親の反応など、一部安直な描写が見受けられるのが惜しまれるが、それでもこの後味の爽やかさは秀逸だ。

 邦題もかなり単純明快だが、原題は『Goethe!』と、“!”が添えられたことでちょっとだけポップな印象を与えるものになっている。そのことが製作者の意図を明快に伝え、そしてその狙いを見事に描ききった、個人的には意外な良品であった。



関連作品:

es [エス]

暗い日曜日

終着駅 トルストイ最後の旅