『新ポリス・ストーリー』

『新ポリス・ストーリー』 新ホ?リス・ストーリー [Blu-ray]

原題:“重案組” / 英題:“Crime Story” / 監督:カーク・ウォン / 脚本:チュン・ティンナム、チャン・マンキョン / 製作:チューア・ラム / 製作総指揮:レナード・ホー / 撮影監督:アーサー・ウォン、プーン・ハンサン、アンディ・ラム、アンドリュー・ラウジョー・チャン / 美術:トニー・オー / 編集:チョン・イウチョン / スタンド・コーディネーター:ジャッキー・チェン / 音楽:ジェームズ・ウォン / 出演:ジャッキー・チェン、ケント・チェン、プア・レンレン、ロー・カーイン、オウヤン・プイシャン、クリスティーン・ン、ワン・ファット / 配給:東宝東和 / 映像ソフト発売元:Twin

1993年香港作品 / 上映時間:1時間47分 / 日本語字幕:? / PG12

1993年10月9日日本公開

2011年12月9日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video::amazonBlu-ray Discamazon]

大成龍祭2011上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/11/06) ※トークイベント付上映



[粗筋]

 街中での銃撃戦のトラウマに悩まされるなか、香港警察のチェン刑事(ジャッキー・チェン)は実業家ウォン・ヤッフェイ氏(ロー・カーイン)の警備を任された。優れた嗅覚で財を成した人物だが、労働者を酷使したり、強引な仕事ぶりに敵も多い。労働者が彼に抱く反感を、薄給で過酷な任務に就かねばならない立場のチェン刑事も理解はしているものの、あらゆる市民を平等に扱う、という態度を貫き、警護にあたった。

 だが、そんなチェン刑事の奮闘も虚しく、ヤッフェイ氏が帰宅する途中で襲撃を受ける。非番で、同僚の昇進を祝うパーティに参加中だったチェン刑事は単身急行、途中で警察に通報する形でどうにか応援を呼ぶが、結果、警官2人が死傷、ヤッフェイ氏も攫われてしまう。

 いちどは一緒に誘拐されたものの、解放されたウォン夫人(オウヤン・プイシャン)に対して要求された身代金は6千万アメリカドル。夫人は亭主を助けるために要求に従う意向だが、チェン刑事ら香港警察は事件解決のため支払を途中で制止した。逆探知によって判明した脅迫電話の発信源は、台湾の公衆電話。台湾に詳しい、と名乗り出たハン刑事(ケント・チェン)に同行して、チェン刑事は現地に飛んだ。

 国家間の捜査協力を公式に結んでいない都合上、台湾の警察は表立っては手を貸さない、と予め釘を刺したが、たまたま到着直後に容疑者のひとりと目されるサイモン(ワン・ファット)発見の報を聞きつけたチェン刑事は、勝手に追跡を開始する。

 だが、ようやく取り押さえられるかと思ったとき、チェン刑事は予想外の場面を目撃する。サイモンに罵られたハン刑事が、サイモンを殺してしまったのである。ハン刑事は正当防衛だ、と訴えるが、チェン刑事の胸には、同僚に対する疑惑が芽生えていた……



[感想]

 題名こそ『新ポリス・ストーリー』、ジャッキー・チェンの役柄もシリーズを踏襲しているように映る、が、これは『ポリス・ストーリー3』まで製作された一連の作品群とはそもそも土台が異なっている。

 作中描かれる実業家の誘拐事件は、実際の出来事をモデルにしているのだという。組織の名称や捜査手順など大幅に省略が施されているが、本物の警察、役所の協力を仰いで製作した、というラストのテロップから察するに、事件の大枠は変えていないと思われる。

 だから、『ポリス・ストーリー』シリーズのつもりで鑑賞すると、印象がまるで違うのは当然のことなのだ。これまでの作品のような、事件の展開や背景が多少強引で荒唐無稽になったとしても、アクションの発想や大まかなテーマを描くことを優先したような作りではなく、事件の推移をなるべく正しく描くことに腐心しているのだから。監督がジャッキーからスタンリー・トンに代わった『ポリス・ストーリー3』でも維持されていたコメディ的な描写が更に薄れ、背景はより重く、シリアスな筋書きになっているのも、そう考えれば当たり前なのである。ジャッキー・チェンにコメディ路線のみを期待するのなら、本篇は間違いなく期待外れだろう。

 しかし、ジャッキー=コメディ、という固定観念を取り払って鑑賞すれば、幾分アクションの派手な刑事ドラマとして充分鑑賞に耐える出来である。いやむしろ、コメディ的描写に尺をあまり割いていない分、よりスピーディで緊迫感のある、優秀な仕上がりになっているとさえ言える。

 実話をベースにしているのだから当たり前なのだが、事件の推移にほとんど無理がないので、違和感に悩まされることなく物語世界に引きずり込まれてしまう。ジャッキー演じる刑事の捜査と並行して、実質的な中心人物であるハン刑事の周囲が描かれているが、両者の匙加減が巧みなので、話が進むほどに緊張感がいや増していく。

 アクション部分はほとんど映画のための潤色だろう、と思われるが、こちらも重量感があり、全体にリアル志向になっていて、従来と異なる迫力を醸している。序盤、警護対象者を誘拐した連中とのカーチェイスで、額から流れる血が目に入るのを、ミネラルウォーターを注いで流したり、一度倒れた車からフロントガラスを破って脱出すると、車を起こして走ったり、とユーモラスだがもしあの状況で真剣に追跡を続けようとするならこのくらいの努力は必要だろう、という描写が随所に見受けられる。穿ちすぎかも知れないが、これもストーリーのリアリティとバランスを保とうとした結果の描写とも考えられ、そこに『ポリス・ストーリー3』以降から始まる試行錯誤の痕跡を窺うことも出来よう。

 クライマックスのカタルシスにしても、従来の作品と違った味わいがあることに注目したい。鍋のなかに落ちた拳銃を拾い、熱さに難儀しながらも弾丸の応酬をするあたりなどにジャッキーらしさを垣間見せながらも、結末はアクションよりは、瀬戸際での心理的な駆け引きが見所となっている。これまでの『ポリス・ストーリー』でジャッキー演じる刑事が示した“刑事魂”とも一致するその振る舞いは結末の、一歩間違うと御都合主義にも見えかねない展開に説得力を添えている。

 そもそも原題、英題共に『ポリス・ストーリー』に連なるシリーズ作と銘打ってはおらず、製作者たちも恐らくそういう意識はあまりなかったと思えるが、しかし日本においてこれを『新ポリス・ストーリー』と題したのは、ある意味では間違っていたが、ある意味では正しい。間違っていたのは、そのせいで従来の『ポリス・ストーリー』のイメージに縛られ、既に飽きていた観客の関心を呼ぶことが出来ず、また従来のコメディ・タッチを求めていた層の反感を買ってしまったことである。正しいのは、もともと『ポリス・ストーリー』のシリーズが宿していた、本当の警官というもののあり方、正義のあるべき姿を問う精神を、本篇がきっちり受け継いでいる、という意味では同列に捉えられる、という点だ。

 いずれにせよ、本篇が発表された頃のジャッキーには未だ陽性の、コメディ・タッチの作品を求める声のほうが多かったはずで、好意的には受け止められなかったのは致し方のないところだろう。だが、時間を経て、『新宿インシデント』や『1911』のような、アクションすら最小限に抑えた、シリアスな作品群に触れてきた者からすれば、ジャッキーがこういう方向性に移っていったことに、何の不自然さも感じないはずだ。それでいて最盛期のジャッキーならではの激しいアクションも組み込まれた本篇の価値は、むしろ今の目で観てこそ正しく評価出来るのではなかろうか。そういう意味では、早すぎた作品なのかも知れない。



関連作品:

ポリス・ストーリー/香港国際警察

ポリス・ストーリー2/九龍の眼

ポリス・ストーリー3

香港国際警察 NEW POLICE STORY

新宿インシデント

1911