『夢遊 スリープウォーカー(3D・字幕)』

『夢遊 スリープウォーカー(3D・字幕)』別の日に貼られていたポスター。

原題:“夢遊 Sleepwalker” / 監督:オキサイド・パン / 脚本:オキサイド・パン、ウー・モンチャン、パン・パクシン / 製作:オキサイド・パン、アルヴィン・ラム、チャン・チャオ、ガオ・シアオジアン、トン・ペイウェン / 製作総指揮:ダニエル・ラム / 共同製作総指揮:ワン・チャンティエン、ティン・ツァーシン / 撮影監督:ン・マンチン、デーチャー・スリマントラ / 出演:アンジェリカ・リー、フオ・スーイエン、チャーリー・ヤン、リー・ソーホン / 日本配給未定

2011年香港、中国合作 / 上映時間:1時間44分 / 日本語字幕:稲田嵯裕里

第24回東京国際映画祭コンペティション部門にて上映

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/10/23)



[粗筋]

 縫製工場を営むイー(アンジェリカ・リー)は最近、奇妙な夢に悩まされていた。荒野のなかを進み、凧の引っかかった樹の下を掘り返すと、屍体が埋まっている、という夢。そして、女の子を大きな犬が襲う、というお伽噺をしていると、途中で続きが思い出せなくなり、口籠もってしまう、という夢。

 ある日、イーは自宅のチャイムで目が醒めた。訪ねてきた私服警官のアウ(チャーリー・ヤン)は、夜中に薄着でどこへ行っていたのか、と訊ねる。自分は出かけていない、と不審がるイーに、アウは「ではどうして靴を履いているのか」と指摘する。イーは愕然とした。

 以来、イーは目醒めたとき、周囲に奇妙な痕跡が残っていることに気づく。洗面所の水道が開けっぱなしになっていたり、手足が泥で汚れていたり。あるときは、血痕さえ身体に残っていた。

 折しもその頃、アウは姉妹同然に育った従姉妹の息子が誘拐される事件を捜査していた。犯人は身代金を奪ったものの子供の身柄を返さず、3ヶ月が経とうとしている。なかなか手懸かりが掴めず苛立つところへ、新たな事件が発生した。ひとりの男性が、忽然と行方をくらましたのである。その男性は、イーのかつての夫で、イーのもとを訪ねる、と言い残して、姿を消していた……



[感想]

 監督と主演女優のコンビが一致しているせいもあるのか、本篇は組み立てが『the EYE』に似ている。ヒロインの人物像、事件の成り行きは大幅に異なるが、主人公の身辺で起きる異変、ある時点で物語の理解が大きく変化し、そこからヒロインの“能力”を敷衍する形でドラマが進む、という骨格がほぼ共通している。

 そう考えて顧みると、この作品はオキサイド・パン監督のサスペンス路線を総括したような物語になっていることが興味深い。母子を巡る話運びは『theEYE2』を想起させるし、終盤で描かれる犯人の人間関係は『アブノーマル・ビューティ』を思い出させる。

 パン監督はそもそも独特の映像センスと、それを駆使したサスペンス描写が評価されていたが、作を追うごとに映像的趣向のインパクトが和らぎ、サスペンスのほうも趣向が奇妙な方向に傾き、率直に言えば『RAIN』『theEYE』を超えるような作品は発表できずにいたように感じる。本篇はそんななかで、久々に充実感のある仕上がりになっているのは確かだ。

 私が鑑賞した東京国際映画祭の紹介ページでは“ホラー”となっているが、しかしホラー的趣向はあまり強くない。ヒロインを巡って異様な描写が積み重ねられるが、恐怖よりは、彼女の身に何が起きているのか、という謎のほうが強く滲む。

 かといって、謎解きの物語として鑑賞すると、消化不良の想いを味わうだろう。終盤で焦点が合わせられる“事件”はいささか安易にカタがついてしまうし、放り出された伏線や、思わせぶりに取り沙汰されたわりには拍子抜けのオチが用意されたものもある。特に、ヒロインの特殊な境遇が警察の知るところになるきっかけについては、人によっては作品の方向性をブレさせている、と感じるに違いない。

 ただ、『theEYE』がそうであったように、実のところホラー的な描写やオカルトめいた趣向は、パン監督にとって恐らくそのおどろおどろしさ、扇情的な持ち味を活かすことに狙いがあったわけではない。むしろ、終盤で明かされる、この設定だからこそ、と言える心を揺さぶるドラマを膨らませることにこそ狙いがあった、と考えられる。

 だから、犯人に繋がる糸がいささか安易に仕込まれていること、クライマックスに至って犯人があまりにあっさり捕まること、などは否定材料とならない、と私は感じた。ここで変に尺を取らず、中盤で判明するヒロインのある“事情”や、それが傍流として描かれていた誘拐事件の内容と重なって齎す感動をきちんと演出する、そのことに尺を割いたと捉えれば、むしろ高く評価出来るポイントだろう。

アバター』や『ピラニア3D』のように、3Dで描くこと自体に強い信念があったわけではないからだろう、正直に言えば、3D映画としての妙味を感じられる場面は少ない。冒頭の子供の悪夢を体現したようなヴィジュアルや、終盤近くのイメージなどで立体感の醍醐味が感じられるほか、クレジットの工夫は目新しいが、ほとんどのシーンではただ立体的、というだけでそれを活かした趣向には乏しい。

 だがそれでも、最先端の技術を採り入れたものを観客に届けよう、というストレートな意欲は評価していいし、何よりパン監督の持つ独特の映像センスが、3Dという手法を組み込んだことで、久々に精彩を取り戻したように感じられるのが、作品を追ってきた者としては嬉しいところだ。

 本篇の幕切れは、決して爽快感に溢れたものではない。けっきょく救われず、過去に囚われることを予感させる人物がいることを思うと、どうにもやりきれないものがある。にもかかわらず後味が悪くないのは、切り捨てようとしても切り捨てられない優しい記憶の甘美さを、最後に絶妙に蘇らせているからだろう。

 ホラー映画としての面白さ、サスペンス映画としての妙味を過剰に求めると、物足りない想いをする。だが、そうした趣向を用いた、ある種の絆を描いたドラマとしては、なかなか優秀な仕上がりである。これを書いている現在、日本での劇場公開は決まっていないが、最近のパン監督にいまいち満足出来ずにいたような人は、少し期待してもいいのではなかろうか――それでもまだ伏線を回収する手際が悪かったり、やはり『theEYE』のインパクトは超えられない嫌味はあるので、絶対、と申し上げられないのが難だが、少なくとも私は、ここ最近のパン監督作品ではいちばん上出来と太鼓判を捺してあげたい。



関連作品:

the EYE

theEYE2

theEYE3

リサイクル−死界−

RAIN

テッセラクト

ONE TAKE ONLY

アブノーマル・ビューティ

バンコック・デンジャラス

サイレントヒル

パラノーマル・アクティビティ