『ブリッツ』

『ブリッツ』

原題:“Blitz” / 原作:ケン・ブルーエン / 監督:エリオット・レスター / 脚本:ネイサン・パーカー / 製作:ブラッド・ワイマン、ドナルド・カシュナー、スティーヴ・チャスマン、ジギー・カマサ / 製作総指揮:サミュエル・ハディダ、アルウィン・ハイト・カシュナー、ケン・ブルーエン、ニック・マンジー、ガイ・アヴシャロム / 撮影監督:ロブ・ハーディ / プロダクション・デザイナー:マックス・ゴッドリーブ / 編集:ジョン・ギルバート,A.C.E. / 衣装:スザンナ・ハーマン,C.D.G. / 音楽:アイラン・エシュケリ / 出演:ジェイソン・ステイサムパディ・コンシダインエイダン・ギレン、ザウエ・アシュトン、デヴィッド・モリッシーマーク・ライランス、クリスティーナ・コール、ルーク・エヴァンス、ロン・ドナキー、ネッド・デネヒー、ニッキー・ヘンソン / 配給:Showgate

2011年イギリス作品 / 上映時間:1時間37分 / 日本語字幕:種市譲二 / PG12

2011年10月15日日本公開

公式サイト : http://blitz-movie.jp/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2011/10/15)



[粗筋]

 サウスロンドン警察署勤務の刑事ブラント(ジェイソン・ステイサム)は、極めて血の気が多い。先日も自宅そばで車上荒らしを目論んだ若者3人組を半殺しにして、前々から彼をつけ狙っていた新聞記者ダンロップ(デヴィッド・モリッシー)はここぞとばかりにブラントを糾弾、警察の上層部を悩ませていた。

 時を同じくして、更に警察を動揺させる事件が発生する。巡回中の婦警が、何者かによって射殺されたのである。世間が騒然とする中、ダンロップのもとに匿名で電話がかかってくる。その男は電話口で、あと8人の警官を殺すと断言、それを証明するかのように、パトカーで巡回中だった警官が白昼堂々、銃弾を撃ち込まれた骸となって発見された。

 暴行事件の汚名返上の好機として、ブラントにこの事件の捜査が託された。つい先日、妻を亡くしたのが原因で心神耗弱に陥り休職しているロバーツ刑事(マーク・ライランス)に代わってブラントの相棒になったのは、ゲイを公言する変わり種の刑事ナッシュ(パディ・コンシダイン)。傍目にはアンバランスな取り合わせの二人組だが、意外なチームワークを発揮し、彼らは間もなくひとりの容疑者に辿り着く。

 その男の名はワイス(エイダン・ギレン)。警察犬をなぶり殺しにした模様をネットにアップし、あからさまに警官に怨みを抱く人物として捜査線上に浮かび上がってきたのだが、男のアパートに踏み込んだブラントは、ほどなく記憶を蘇らせた。ワイスはかつて、ブラントがこっぴどく痛めつけた小悪党だったのだ――



[感想]

 ジェイソン・ステイサムといえば、『トランスポーター』シリーズによってすっかりアクション俳優としてのイメージが定着した感があるが、もとは特徴的な風貌とイギリス訛りを活かしたキャラクターを評価された、性格俳優に近い側面が売りだった。アクションの印象が強くなった近年でも、『メカニック』のような過激なアクションに臨む一方で、『ロシアン・ルーレット』のような、独特の佇まいを活かしたキャラクターも演じ続けている。

 刑事という設定故にアクションを期待してしまう本篇は、話の必然性で激しいバトルや追跡劇を繰り広げる場面もあるが、しかし全体としては彼の風貌、佇まいを活かした配役であり、それ故に期待外れと感じてしまう人もいるだろう。しかし、もともと彼の役者としての色気を評価していた人であれば、決して不満を感じないはずだ。

 本篇は刑事達を中心としたハードボイルドの趣の色濃い作品である。狂気を滲ませた殺人犯が登場するが、その正体を探る過程のミステリ的な味わいよりは、犯人からのあからさまな挑発や、並行して発生するトラブルを受けて顕わになる、ジェイソン・ステイサムを筆頭とする刑事達の人間性、それらが交錯して生まれるドラマの方を重視している。

 ただ、そういうタッチを選択したことを考慮しても、中盤まではいささか語り口が雑然としていることは否めない。ステイサム演じるブラント刑事を軸とした刑事達の視点だけでなく、犯人である自称“ブリッツ”の視点に、更に途中で重要な役割を果たすことになる情報屋のエピソードも組み込まれており、決して過剰ではないがいささか散漫とした印象を齎す。あとで振り返れば、決して不必要な描写はしていないし、その意味ではむしろよく整頓しているほうなのだが、語り口が最近のイギリス産犯罪映画の流儀に則ってリズミカルなわりには、展開をうまくテンポに乗せることが出来ていないのだ。

 しかし、犯人の正体や動機が少しずつ明瞭になり、話が絞られていくと、意外な成り行きに目が離せなくなる。こういう展開に前例はけっこう存在するが、その引っ張り方はなかなかに巧い。とりわけ、第三者の立場で事件を眺めている観客からすると、重大な証拠が存在しているのにそれが見過ごされていることに驚きヒヤヒヤとさせられ、自然と惹きつけられる。

 物語の中で登場する人物像が完成されていることにも注目すべきだろう。もはやそのムードが演技力そのものと言っていいジェイソン・ステイサムは己の長所をきっちりと活かした役選びで堂々たる存在感を発揮しているが、犯罪者に身をやつしかけた幼馴染みのために労力を割く女性刑事、危険な稼業から身を引くために姑息に立ち回る情報屋なども忘れがたい印象を残す。また、近年映画に登場するシリアル・キラーと違い、派手で無軌道に映るが妙に芯の通った犯人“ブリッツ”の造形も面白い。

 最も秀逸なのは、ゲイを公言する刑事ナッシュである。同僚からも物笑いの種にされる彼は、しかしそんなものに気持ちを乱されることなく、警察官としてのルールに則って行動する。それは頻繁に暴走する相棒ブラントのブレーキ役を果たすのだが、しかし“組織のはみ出し者”である、という点ではブラントと共鳴するこの刑事は、ブラントの個性を思わぬ形で引き出している。この作品はブラントを主人公とする小説に基づいているそうだが、もしナッシュ刑事も登場するというなら、ほかのエピソードにも触れてみたい気がする。

 そして、あのクライマックスだ。本篇は謎解きをメインに据えていないが、しかしあれはしっかりとした伏線に基づき、見事に驚きを演出している。アクションや謎解きに期待を寄せている観客にとっては納得がいかないかも知れないが、そこに至る整然とした道程は、考えるほどに唸らされるはずだ。

 前述したとおり、アクション・スターとしてのジェイソン・ステイサムの魅力を期待する人には、決して充分には応えない。だが、彼の俳優としての色気、男臭さに魅力を感じ、それを活かす物語を欲しているなら、かなり堪能できるはずだ。ブラックな味付けを施した刑事ドラマとして、苦くも爽快な余韻を残す物語は、そんなステイサムの個性を活かしつつも、彼の存在抜きでも魅力的だ。



関連作品:

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