『ミラクル/奇蹟』

『ミラクル/奇蹟』 奇蹟 ミラクル [Blu-ray]

原題:“奇蹟 The Canton Godfather” / 英題:“Mr. Canton and Lady Rose” / 監督&武術指導:ジャッキー・チェン / 脚本:エドワード・タン、ジャッキー・チェン / 製作:ウォン・ゾウイー / 製作総指揮:レイモンド・チョウ / 撮影監督:アーサー・ウォン / プロダクション・デザイナー:エディ・マー / 編集:チョン・イウチョン / 音楽:スー・ソン / 出演:ジャッキー・チェンアニタ・ムイ、グロリア・イップ、オー・ジョンホン、トン・ピョウ、クェイ・アルイ、ウー・マ、リチャード・ン、マース、ユン・ピョウ、サイモン・ヤム / 配給:東宝東和 / 映像ソフト発売元:Twin

1989年香港作品 / 上映時間:1時間58分 / 日本語字幕:?

1989年8月12日日本公開

2010年12月17日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

大成龍祭2011上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/10/09) ※プレゼント抽選会付上映



[粗筋]

 20世紀初頭、イギリス統治下の香港。

 職を求め、広東から移住してきたゴク(ジャッキー・チェン)だったが、訪れた早々にタチの悪い詐欺に遭って、有り金を奪われてしまった。ベンチで悄然としていた彼は、しかし花売りのローズ夫人(クェイ・アルイ)に励まされ、お礼に彼女から薔薇を一輪購入した――そのとき、ゴクがさっきまで座っていたベンチを、暴走する自動車が薙ぎ倒した。

 それは、抗争の中で不調を来したマフィアのボスと、その部下たちであった。成り行きでゴクは自分を危うく轢きそうになったボスたちを助けるが、逃走中にボスは死亡、今際のきわにボスが何かを言いかけて指さしたのがゴクであったために、彼は想像だにしない立場に追い込まれた。

 マフィアの後継者に選ばれたのである。

 唐突に現れた男が新しいボスだと言われても、部下たちが納得するはずもなかったが、前ボスの腹心であったチャン(ウー・マ)は「遺言は絶対だ」と、ゴクを全面的にサポートすることを約束する。だいいち、責任をなげうって逃げ出したところで、ボスを狙っていたタイガー(オー・ジョンホン)たちが見逃してくれるはずもなかった。心優しいゴクは嫌々ながら、大勢の子分たちを養う羽目になる。

 そもそも抗争のきっかけとなったのは、ボスの旧友がタイガーに作った借金であった。旧友は死に、代わりに娘・ルーミン(アニタ・ムイ)がゴクたちのもとに返済の猶予を願い出るために彼らを訪ねてきた。普通のマフィアならはねつけるところだったが、ゴクは違った。ルーミンの美貌と、アメリカ仕込みの歌とダンスを活かすために、自分たちの本拠をナイトクラブに改装することを提案する。

 開店初日からタイガーたちが押しかけ、警察のホー隊長(リチャード・ン)の横槍が入ったり、と騒動の種は尽きなかったが、営業自体は極めて好調で、ルーミンはすぐに借金を完済した。ゴクはそんなルーミンと恋仲になり、気持ちのすれ違いもあったが間もなく結婚して、ゴクの人生は順風満帆と言ってもよかった。

 それもこれも、あのバラの御利益だ、と信じたゴクは、あれ以来ことあるごとにローズ夫人からバラを買い求めていたが、ある日を境に、夫人が店に姿を現さなくなった。心配して見舞いに訪れたゴクは、ローズ夫人の苦悩を知ることとなる……



[感想]

 この作品、ジャッキー・チェンの映画としては、若干手触りが変わっている。イギリスの統治が始まった頃の香港を舞台に、ユーモラスな人々が絡みあい、随所で工夫に飛んだ激しいアクションを披露する、といった要素は旧作にも登場したものだが、その展開の仕方や考え方が、他の作品とかなり異なっている。

 一種、ファンタジーと言ってもいいかも知れない。この頃のジャッキー映画にはどこかしら非現実的なエッセンスを汲み取ることが出来るが、この作品は特に顕著だ。冒頭の行きすぎた幸運の連続に、もともと備えていた格闘センスがうまい具合に働いてしまうくだり、細部を省略して関係が構築されていく展開、そしてクライマックスの壮大な“芝居”に至るまで、全体がお伽噺じみた空気に彩られている。

 ただそれは初期のような、細部を整理していないが故の荒唐無稽なイメージとは異なり、かなり強引ではあっても、芯が通ったものになっている。

 貫かれた芯は、“奇蹟”だ。主人公がそもそも事故から助かるきっかけ、その後の成り行き……客観的に、偶然が積み重なっただけのように見えるくだりが多いが、しかし主人公であるゴクが「ローズ夫人からバラを買ったお陰だ」と思いこむのも頷ける展開が繰り返す。そして、それがゴクというキャラクター生来の人の好さと結びついて、中盤以降のユーモラスで、しかし胸を暖かくさせる物語へと発展する。このプロットはフランク・キャプラ監督の『ポケット一杯の幸福』に基づくものだそうだが、ジャッキーはここに彼らしいコメディのトーンと、そして充分に育ててきたアクション表現で巧みに飾っている。

 特に後者、アクションの処理こそ、この時期のジャッキー・チェンの独壇場だ。如何せん、中心が香港マフィアの勢力争いと、並行して繰り広げる大芝居のために、アクションに割く尺が従来の作品と比べて少ないために、人によっては物足りない印象を受けるだろうが、しかしストーリーとの噛み合わせはこれまでで最も洗練されている。ボスを助けるくだりや、後継者に祭りあげられた直後の格闘といったオーソドックスな趣向もさることながら、ルーミンとの痴話喧嘩までもアクションに仕立て上げ、独自の見せ場を作っているのはさすがだ。

 すっかりお家芸のようになっている、複数の人物が入り乱れる純然たるコメディ・パートの表現も堂に入っている。たとえば『ポリス・ストーリー/香港国際警察』の法廷シーンは、コメディ映画の監督としてジャッキーが作った最高の一場面であると考えているが、如何せんクオリティが突出して高いためにいささか本筋から浮いた印象が否めない。しかし本篇は、コメディ描写が本筋と渾然一体となって、決して切り離して考えられないほどになっている。それ故に、咄嗟にどのシーンがいちばんよかったか、と問われて咄嗟に挙げるのが難しいほどだ。

 香港映画らしい雑然とした語り口、さすがに強引すぎる決着などが人によってはどうしても鼻につく可能性もある。だが、こうして全体の作りを俯瞰してみると、この時期のジャッキー・チェンが磨き上げた自らの個性を、もっとも相応しい形で活かそうとした作品だったのだ、と思える。そして事実、アクションの見せ方やコメディ表現は、少なくとも私がこの半年ほどに鑑賞したジャッキー・チェン初期作品の中で、間違いなく最も優れており、平均して質が高い。その高レベルでの安定が、とんがった印象を欲する人には物足りなく映ってしまうのだろう。

 たとえば『素晴らしき哉、人生!』のような優れた寓話と比較すると、クライマックスの展開はさすがに御都合主義に過ぎる感はある。それでも、冒頭から一貫した姿勢が、この快い結末を決して浮ついたものにしていない。

 何より、暴力が蔓延る世界にあって、最後まで揺るがない本質的な“優しさ”が、ラストの“奇蹟”を保証している。大成龍祭2011向けの『1911』トレーラーのなかでジャッキーは本篇をお気に入りの1本に掲げているが、当然だろう――まさに、この時期のジャッキー・チェンにしか作り得ない作品だったのだから。



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ゴッドファーザー