『宇宙人ポール』

『宇宙人ポール』 『宇宙人ポール』再鑑賞atユナイテッド・シネマ豊洲。

原題:“Paul” / 監督:グレッグ・モットーラ / 脚本:サイモン・ペッグニック・フロスト / 製作:ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー、ナイラ・パーク / 製作総指揮:ライザ・チェイシン、ロバート・グラフ、デブラ・ヘイワード、ナターシャ・ウォートン / 撮影監督:ローレンス・シャー / プロダクション・デザイナー:ジェファーソン・セイジ / 編集:クリス・ディケンス / 衣装:ナンシー・スタイナー / キャスティング:ジョーエドナ・ボールディン、アリソン・ジョーンズ / 音楽:デヴィッド・アーノルド / 出演:サイモン・ペッグニック・フロストジェイソン・ベイトマンクリステン・ウィグビル・ヘイダーブライス・ダナー、ジョン・キャロル・リンチ、シガニー・ウィーヴァー / 声の出演:セス・ローゲン / ワーキング・タイトル製作 / 配給:Astaire×PARCO

2011年アメリカ作品 / 上映時間:1時間44分 / 字幕監修:町山智浩 / PG12

2010年9月18日第4回したまちコメディ映画祭in台東映画秘宝まつりにて上映
2011年12月23日日本公開

公式サイト : http://www.paulthemovie.jp/

浅草公会堂にて初見(2011/09/18)



[粗筋]

 1947年アメリカ、ニューメキシコ州ロズウェルの広野に、飛行物体が墜落した。この通称“ロズウェル事件”はその後、一部のマニアを中心に、様々な憶測を呼ぶこととなる……

 そして現代、カリフォルニア州サンディエゴにふたりの男が現れた。イングランドからやって来た彼ら、グレアム(サイモン・ペッグ)とクライヴ(ニック・フロスト)は長年つるんでいるオタク仲間である。毎年ここで開催されているコミコンへの参加と、エリア51を中心とするUFOマニアの“聖地”巡礼を行うのがこの訪米の目的だった。男ふたり連れの旅は不要な誤解を招きがちだが、あまり拘ることなく、ふたりはキャンピングカーを借りて、北北東へと車を走らせる。

 だが、途中で彼らにとってまったく予想だにしない事件が起きた。エリア51の前で立ち寄った食堂でちょっとしたトラブルに見舞われ、地元の人間に目をつけられたと思い急いで移動していたところ、グレアムたちのキャンピングカーを追い抜いた車が目の前で事故を起こした。恐る恐る様子を窺うと、そこに現れたのは――彼らにとってあまりに馴染み深い、グレイ・タイプの宇宙人であった。

 訳あって、囚われていたエリア51から逃げ出してきたという彼――自称ポール(セス・ローゲン)に請われ、ふたりは彼をキャンピングカーに乗せて、ある場所を目指す。だが、宇宙人絡みの出来事に絡んだ場合のお約束として、ふたりの背後には、黒服の男が迫りつつあった……



[感想]

 脚本と主演を兼任したふたり、サイモン・ペッグニック・フロストは、ゾンビ物の優れたパロディ『ショーン・オブ・ザ・デッド』、いわゆる“相棒”もの刑事ドラマや映画へのオマージュに満ちあふれた『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』の2作品で日本の映画ファンにもお馴染みとなっている。2作とも、同ジャンルの名作のパロディとしても秀作だが、ストーリーそのものが非常に巧緻で、実に優れた娯楽作品に仕上がっていた。

 前述の2作品を監督したエドガー・ライトこそ離れたが(喧嘩別れではなく、同時期に『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団』を制作していたためらしい)、本篇もその基本的テイスト、精神性は変わらない――ジャンル映画への造詣と深い愛情を示しながらも、緻密で仕掛けの効いたプロットを用意して、ジャンル映画の愛好家もそうでない者も愉しませることに腐心している。

 私はこの作品を第4回したまちコメディ映画祭にて鑑賞したのだが、上映前に映画評論家・町山智浩氏の解説があったお陰で、どれほど細かなオマージュ、引用が組み込まれているのか、非常に良く解った。ちょっとした台詞が過去の名作の引用であったり、いわゆる宇宙人を題材にしたものに限らず、往年のSF映画を愛好していた人々ならばニヤリとする趣向が無数にちりばめられている。

 SF映画自体はさほど知らないが、いわゆるオカルトとしてのUFO知識に明るい、という人でも、本篇におけるそうしたネタの数々には唸らされるはずだ。まずタイトル・ロールであるポールにしてからが、“宇宙人のなかで最もメジャー”なグレイ型の姿形をして、それがああいう性格である、というのも、実際にグレイ型宇宙人が捕獲された、とされる時期からもう半世紀近く経っていることを思えば納得できる。“彼”が囚われていたのがエリア51であり、クライヴが彼と接して以降黒服の人間にやたら怯えるとか、ポールがその後意識して用いる脅し文句なども、表面の悪ふざけっぽさと裏腹に、そうしたオカルトに対する造詣を窺わせる。

 だが、本篇の優秀さは、単なるオカルト知識の披瀝に終わらず、そうしたものを知らなくとも笑えるようなギャグを仕掛けつつ、更にプロット面でもひねりを施していることだ。

 特に象徴的なのは、ポールと男ふたりが街中で行動をしていて、うっかり人目を忍ぶタイミングを逸し、目抜き通りを突っ切らねばならなくなったくだりだ。この期に及んで模造刀に関心を示して店に入ってしまうクライヴ、危うく見つかりそうになったところを実物大フィギュアのふりをしてごまかすポール、しかしそれに気づいてしまった子供とのやり取り。そうした流れを踏まえた、直後の追跡劇のひとまくなど、まさにこの作品ならではの面白さが詰まっている。

 そんな風に細かに笑いを仕掛けながらも、そこにさり気なく隠した伏線が終盤で繰り出すどんでん返しがなかなかに唸らせる。決して本筋ではないのだが、どちらかと言えば一見解りきった、と感じさせるストーリーに深さっぽいものを添え(実際には深くないのがミソ)、意外なくらい感動的なクライマックスをいっそう熱いものにしているのが見事だ。

 そう、この作品、意外にも最後はグッと来る。もともと、全篇に幼稚な悪ふざけじみた印象が強いが、少し時期を外れた青春ロード・ムービーのような趣がある。長いモラトリアムのなかにいるようなグレアムとクライヴの人間関係が、ポールや途中から参加するルース(クリステン・ウィグ)の存在によって揺らぐ描写は滑稽ながらほんのりと胸に痛みを齎し、最後の爽やかな感動を後押しする。本篇でもそっとオマージュを捧げているスティーヴン・スピルバーグの諸作に倣うかのように、本篇もその結末は感動的なのだ。

 見所はそれだけに尽きない。グレアムとクライヴがそもそも渡米した理由が、サンディエゴで実際に毎年開催されているコミコンというイヴェントであることを筆頭に、映画の中身同様にオタク丸出しのキャラクターであることもそうだが、どちらかと言えば関わる人々が善人に描かれがちなアメリカ産青春ロード・ムービーと異なり、田舎町の人々の描き方が現実に則しているのもポイントだ。UFOマニアにとっての聖地であるエリア51は、だがその事実を省けば典型的な南西部の田舎町であり、よそ者、マイノリティに対する偏見が色濃い。立ち寄った食堂で、男ふたりであるというだけでゲイ呼ばわりされるくだりは、脚本も担当した俳優ふたりの実体験だそうだが、こういう描写を組み込んでいるのも面白いところだ。ルースは初登場時、ゴリゴリの原理主義者として描かれているが、こういう頑なな価値観しか持たない人がいることも、アメリカの地方都市の一側面なのである。重厚なドラマか、逆に尖った趣向で作られたホラー映画でもないとなかなか採り入れられない実情を、ユーモアとして組み込んでいるのも、本篇の一筋縄で行かないところだろう。

 とにかく、切り口が実に沢山あり、観たあとで語ることの尽きない作品である。2011年は『SUPER8/スーパーエイト』、『スカイライン−征服−』、『世界侵略:ロサンゼルス決戦』、『カウボーイ&エイリアン』など、妙に宇宙人が登場する映画がやたらと日本で公開されたが、そういう年の締め括りに鑑賞するに相応しい1本であると思う――たっぷり笑ったあと、不思議と力が湧くような心地がするはずだから。



 ……しかしこの映画、色々と感動するポイントは多々あるが、素晴らしいのは中盤ぐらいに出て来る、あるネタだ。UFO絡みの知識がなくても、宇宙人が登場する映画と言えばこの人、というぐらい普通に知名度の高いある人物の名前が出て来る。本人は直接顔を見せていなかった――と思う――ので、誰かが物真似をしたのだろう、ぐらいに考えていたら、imdbのサイトに本人の名前がちゃんと載っている。つまり、あのために本当に演技をしてくれたのだ!

 実は、スタッフやキャストの人間関係を辿ると、結構簡単に本人まで辿り着くので、出演していても不思議ではないのだが、こういう作品にちゃんと出演してくれるあたり、あの方の度量は素晴らしい、と痛感する。このくらいユーモアを解してくれないと、ね。



関連作品:

ショーン・オブ・ザ・デッド

ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!

マイレージ、マイライフ

SUPER8/スーパーエイト

スカイライン−征服−

メン・イン・ブラック2

スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団